「ほぼ日の學校」がついに開校しました。
これからたくさんの授業が配信されていく中に、
「TCC(東京コピーライターズクラブ)」に所属する
全国のコピーライターのみなさんが、
アイディアやことばという道具の使い方を
教えてくれるシリーズがあります。
さあこれから、どんな授業を作っていきましょうか。
TCC会長である谷山雅計さんと
副会長の福里真一さん、箭内道彦さんをゲストに迎え、
ほぼ日の學校スタジオで座談会を開催しました。
あ、1975年から現在もTCC会員である
糸井重里も途中からおじゃまします。
ふだんは企業やブランドのお手伝いをしている
コピーライターによる自分たちの発信、
これからどうなっていくかたのしみです!
谷山 雅計(谷山広告)
東京コピーライターズクラブ会長
クリエイティブディレクター/コピーライター
1961年大阪府生まれ。
1984年東京大学教養学部教養学科アメリカ科卒業、
同年博報堂入社。
1997年(有)谷山広告設立。
資生堂「TSUBAKI」、東京ガス「ガスパッチョ!」
新潮文庫「Yonda?キャンペーン」、
東洋水産「マルちゃん正麺」などを手がける。
著作に「広告コピーってこう書くんだ!読本」
「広告コピーってこう書くんだ!相談室」宣伝会議刊。
TCC賞、ACC賞、朝日広告賞、毎日広告賞、
日経広告賞、新聞協会広告賞、アドフェストグランプリ、
カンヌシルバー、クリオゴールド他多数受賞。
福里 真一(ワンスカイ)
東京コピーライターズクラブ副会長
クリエイティブディレクター/CMプランナー/
コピーライター
1968年鎌倉生まれ。
一橋大学社会学部卒業後、1992年電通入社。
2001年より「ワンスカイ」所属。
いままでに2000本以上の
テレビCMを企画・制作している。
主な仕事に、吉本総出演で話題になった
ジョージア「明日があるさ」、
樹木希林らの富士フイルム「お正月を写そう」、
トミー・リー・ジョーンズ主演による
サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、
堺雅人らのCRAFT BOSS「新しい風」、
トヨタ自動車
「こども店長」「ReBORN」「TOYOTOWN」、
ENEOS「エネゴリくん」、東洋水産「マルちゃん正麺」、
ゆうパック「バカまじめな男」、
LINEモバイル「LINEモバイルダンス」、
メルカリ「メゾンメルカリ」など。
著書に、
「電信柱の陰から見てるタイプの企画術」(宣伝会議)
「困っている人のためのアイデアとプレゼンの本」
(日本実業出版社)
絵本「いのち」(コクヨS&T)。
箭内道彦(風とロック)
東京コピーライターズクラブ副会長
クリエイティブディレクター
東京藝術大学教授
1964年福島県生まれ。
1990年に東京藝術大学美術学部デザイン科卒業、
博報堂入社。
2003年に独立し「風とロック」を設立。
タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」、
資生堂「uno」、サントリー「ほろよい」、
リクルート「ゼクシィ」など
数々の話題の広告キャンペーンを手がける。
2010年にロックバンド「猪苗代湖ズ」を結成。
2015年には福島県クリエイティブディレクターに着任、
監督映画『ブラフマン』公開、「渋谷のラジオ」を設立。
著書に『871569』(講談社)
『サラリーマン合気道』(幻冬舎)
『僕たちはこれから何をつくっていくのだろう』
『広告ロックンローラーズ』(宣伝会議)など。
7
小っちゃいけれど
ピカピカしたもの。
- 糸井
- 雑談については思うことがあってさ、
マイケル・サンデル先生が新しく出した
『実力も運のうち』っていう本で、
能力主義の限界について書かれているんです。
おれも前々からそういうことを
言いたかったんだっていうような話なんだよね。
- 谷山
- サンデル先生、ハーバードの方でしたよね。
- 糸井
- そうそうそう、発熱教室の。
あっ、白熱教室か。発熱しちゃダメだ(笑)。
- 谷山
- 発熱教室(笑)。
- 糸井
- 力のある者がチャンスを得られて、
富が得られるという幻想が
アメリカンドリームじゃないですか。
家柄とかじゃなくて努力すれば能力が得られて、
能力によって出世ができて豊かになれるっていう
幻想が激しくなりすぎちゃったんです。
「能力」という訳のわからないものが万能になって、
いわゆる「仕事のできるやつ」が富むという傾向が
はっきりと激しくなってしまったんですよね。
そういった学歴重視の流れに対して
「なんなんだよお前ら、いいとこの大学出て。
おれらが豊かになるのは永遠に無理じゃないか!」
って反発する人がトランプ大統領に投票したんじゃないか、
という問題意識が生まれて書いた本なんだって。
今のは事実を言っただけだけど、本当だって思わない?
おれなんてほら、無学だから。
- 谷山
- 糸井さんが無学だとは思わないですけど。
- 糸井
- 谷山とおれの間には、すっごい段差があるから。
ほら、高卒VS東大だから(笑)。
- 谷山
- だいたい、学歴という意味においては、
高校や大学ってあまり関係ないと思ってまして、
中学までの勉強を完全にマスターしていたら
その人って、かなりの教養人じゃないですか。
高校や大学でもちゃんと勉強したら意味はあるんですが、
実は本当に大切なのは、
中学ぐらいまでの勉強のような気がするなあ。
- 糸井
- それは本当にそうだと思うんだけど、
事実として、アメリカでは日本以上に
学歴があればいいコースが用意されていて、
流行りの分断が行われていますよね。
日本でも結構そうなりつつあっててさ、
「口の達者な学歴のあるやつはすごいんだよ」
という傾向になってきています。
意味のあるもの、役に立つもの、利益のあるもの、
みたいな今までの価値観が整理されすぎて、
そっち側に行きすぎたんじゃないかな。
雑談の「雑」の部分というのに対する合目的っていうか、
そういうのが勝ちすぎたんじゃないかって話が
サンデル先生の本に書かれているんじゃないかな。
まだおれ、読んでいないんだけどね。
- 谷山
- あ、まだ読んでいなかったんですね(笑)。
- 糸井
- もう今、読んだようなもんだよ。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- 「わかんないけどおもしろい」だとか、
「勉強はできないけど歌がうまい」だとかさ、
「歌は上手くないけれども手伝ってくれた」だとかさ、
なんでもない居方とか働きにも価値があるってことを、
もう1回考えていくときが来たんじゃないかな。
- 箭内
- いや、そう思います。
- 糸井
- というようなことを揉んでいきたいんだよね。
谷山がさっき言っていた
「中学までの勉強でいいんじゃない?」って、
もう本当そうだと思うよ。
そこから枝分かれしていくわけだからね。
- 谷山
- 「ほぼ日の學校」では、わりと
結論がわからないけどおもしろいことを
教えていきたいんでしょうか。
- 糸井
- うん、教えるっていうより、
いっしょに見つけるというか。
- 谷山
- これ、かなり難しい話ですよね。
誰かにものを教えるときって、
「わかっていておもしろい」法則を教えたほうが
結果は出やすいじゃないですか。
「わからないけどおもしろい」を教えるのって
すごく難しいことですよね。
ぼくも自分がコピーを教えるときにはまず、
「わかっていておもしろい」っていう方法は
教えられるんで、それを身につけてもらいます。
すると、その人が元から持っている
「わからないけどおもしろい」が外に出てきて、
役に立つんじゃないかって思うんです。
教えることによって、教えられないものを
引き出すことを目指して教えているんです。
- 糸井
- 谷山くんがコピーを教えることに
熱心だってことはよくわかってるし、
その恩恵を受けた人もいっぱいいると思うんだよ。
でも、谷山くん自身がそうやって
学んできたわけじゃないよね。
そこは誰にも教えてもらってないと思うよ。
- 谷山
- この人はきっと
こう考えているんじゃないかって想像して、
それを自分の中で翻訳していましたね。
- 糸井
- たぶん、福里さんも箭内さんも
そういうことは教わらないで
自分の中で考えてきましたよね。
- 箭内
- いや、そうなんです。
- 糸井
- わかってきたことを分けてあげることは、
親切でやっていることだと思うけど、
そこで商品を作りたい人に向けたことなんです。
「よく磨いたほうがお客さんは喜びますよ」
みたいなことですよね、つまり。
だけど、ふつうに生きている人に向けては、
一番おいしいところを
ひと口食べさせてみたいなっていうほうが、
なんか今は重要な気がするんですよね。
- 谷山
- はあー。
- 糸井
- たとえば花火の打ち上げには、
ものすごい技術が必要じゃないですか。
で、その技術を教えなきゃならない相手は
花火を打ち上げる弟子なんだよね。
そうじゃなくて、花火の何がおもしろいかを
わかっているお客さんが増えると、
花火そのものがもっとよくなるじゃない?
そんなことのほうが今、大事なんじゃないかな。 - 「コツをつかんでやってみたらできた。おもしろい」
という喜ばせ方はもちろんあるけど、
本当はもっとこう、
小っちゃいけれどピカピカしたものを
みんなで分け合うことが、
生きるたのしみに近いんじゃないかな。
学びの喜びが失われて、
「嫌だけど、ここまで勉強すると
こんなことができるようになるよ」っていう知識は、
みんなに分けてもしょうがなくて。
すごい真剣な話みたいになっちゃって悪いね。
- 谷山
- いやいやいや(笑)。
- 箭内
- 教えることっていうのは、
何かを奪ってしまうことだとも思うんですよね。
たとえば絵の描き方を教えるときにも、
「こう描くと立体感が出るよ」という教え方じゃなくて、
その人からほとばしってくるものを遮らずに、
長所を見つけて褒めることが大事だと思うんです。
でも、教えようとすると型にはめてしまいがちです。
とくに美術は1回型にはめられちゃうと、
もう出られなくなっちゃうから。
「おまえ、絵が下手だな」って言われると
自分は絵が下手だって一生思い込んじゃって、
1度も否定されずに伸びていった人だけが、
大人になってもたのしく絵を描いているんです。
どこかで逆境も必要なんだけど、教えるっていうことは、
方法を教えるってだけじゃないですよね。
- 糸井
- 「いいなあ!」が伝われば嬉しいんだよね。
- 福里
- 会田誠さんの『げいさい』という小説に、
まさにそういうことが書いてありました。
美術は型にはめないと成立しないふうに
なっていることへの問題意識があって。
- 箭内
- 生徒もね、手法を教えてもらわないと
「先生、サボってますね」って言われるんです。
やり方を教えてくれることを
教えられる側が求めちゃっていますよね。
- 福里
- 「たのしむどころじゃないですよ、こっちは」
みたいな感じになっちゃっているでしょう?
- 箭内
- それもよくないんです。
教わる側も、かまってほしいんですよね。
- 糸井
- すごくおもしろいね。
コピーライターって、教える、教えられるに
近いことをやっているように見えているから、
こういうことを言えるのはすごくいいです。
- 谷山
- おっしゃることはよくわかるんですけど、
予告の記事でこのやりとりが出たら、
これから教える人のハードルが
上がりまくりじゃないですか(笑)。
- 福里
- いやいや、そうじゃなくて
今の糸井さんの話を前提として、
谷山さんの授業も撮り直したらいいんですよ。
- 谷山
- わははは。
- 箭内
- 撮り直してどう変わったかたのしみです。
みんなと旅をするような授業。
- 谷山
- 「この前の授業はちょっと違ったんだ」って、
もう1回みんなを集めて収録するってこと?
うーーーん、スライド90枚も用意して
授業しちゃったもんなあ(笑)。
- 糸井
- たぶん、谷山くんの授業はおもしろいんだよ。
前にコピーの本を書いたじゃない?
あれ読んでるとおもしろかったよ。
- 谷山
- あ、ありがとうございます。
- 糸井
- この人はこんなにコピーを教えることを
やりたいんだなと思ってさあ。
大げさに言うと、その魂がおもしろいんだ。
広告コピーの書き方を方法論として
一所懸命伝えようとして何度も考えたんだろうなって、
ちょっと感動がありました。
谷山くんのやっていることにはみんな、
そういうところがあってさ。
- 谷山
- 昨日の授業も、魂はあったかな?
- 糸井
- 同じだけの時間をもらって、
「ぼくが教えられることは何もないです」
っていう授業をやっても、
それだけじゃおもしろくはないんです。
それよりはたとえばの話、
「これは感心するコピーだったんですよね」と言って、
どこに感心したかを話すほうが伝わると思うんです。
「これじゃあ広告になっていないじゃないか」
みたいなものも含めて、
理解されていないコピーがあるじゃないですか。
そこを伝えたら、作るおもしろさも見えてくるかもよ。
(つづきます)
2021-07-08-THU
-
谷山雅計さんの授業は7月5日(月)より
ほぼ日の學校アプリで配信スタート!TCCに所属するコピーライターのみなさんから
ことばやアイディアを学べる授業は、
7月5日(月)午前11時に配信します。
最初の講師はTCC会長の谷山雅計さんです。
「ど真ん中の広告コピー講座」ということで、
谷山さんの考える広告コピーの基本を
動画でしっかりお伝えします。
魂の込もった谷山さんの講義は、
コピーについてはじめて学ぶ方におすすめ。
ほぼ日乗組員がその場でコピーを書いた
ワークショップとその講評も見られますよ!