編集・濱田髙志、アンソロジスト。
装丁・祖父江慎、コズフィッシュ。
版元・吉田宏子、888ブックス。
あきれるほどすごい手塚治虫さん本を
つくったのが、この3人。しかも3冊。
天才漫画家の煌めくクリエイションを
時空を超えて受け止め、
21世紀の世に放つ、現代の三銃士たち?
聞けば聞くほど「おそろしい」、
その本の制作過程を、
5時間がかりで、うかがってきました。
諸事情あって取材は実に1年半以上前。
時節柄、そろってマスク姿の三銃士よ。
担当は「ほぼ日」奥野です。
第9回
17歳で新聞の一面に連載。
- 祖父江
- だいぶ時間が経ってるみたいだけど、
もう、この際だから、
3部作の詳しい解説をしましょうか。
- ──
- ある意味ここからが「本題」ですか。
外はすでに夕暮れです。
- 吉田
- 準備運動が長すぎる‥‥。
- ──
- でも、絶対におもしろいので、
まとめる際の大変さはひとまず置いて、
ぜひとも、お願いいたします。
- 祖父江
- じゃ、第1弾『アーリーワークス』ね。
最初『ロマンス島』は予定になかった。
- 濱田
- 『マアチャンの日記帳』だけでした。
- ──
- 手塚先生の4コマ新聞連載ですね。
17歳のときのデビュー作って、すごい。
- 吉田
- 当時の新聞連載のスクラップブックが
現存していたことから、
本にまとめられるねってなったんです。
- 祖父江
- この「マアチャン」の予告の記事には、
「19歳の手塚はるむしさんは」
って書いてあるの。
なんだか、雑な新聞の記事なんですよ。 - 手塚治虫さんって11月生まれだから、
当時の数え年では、
生まれたときに、もう1歳でしょ。
2か月後のお正月には、2歳なんです。
だから、いまの数え方に直すと、
マイナス2で考えた方がいいんですよ。
- ──
- なるほど、だから「19歳」だけれども、
実質的には「17歳」くらいだった、と。
- 祖父江
- そうです。高校2年生くらいなんです。
そんな年で新聞連載。すごいでしょ。
- 吉田
- すごいです。
- 祖父江
- ぼくが高校生のころなんか、
中日新聞の日曜日の漫画コーナーに
毎週、漫画を送っていて、
載ったーとかとか言って
よろこんでいたレベルですからね。 - ぼくとくらべちゃいけないんですけど。
- 濱田
- それもすごいけど、
でも、手塚先生は早熟の天才ですよね。
- 吉田
- この『アーリーワークス』は
本のサイズ感も、すごくいいんですよ。
オリジナル初出にこだわった結果ですが。
- 濱田
- さっきも言ったけど、
大手じゃ絶対できないつくりの本です。
888ブックス、すばらしい。
これね、製作費かなりかかってますよ。
- ──
- そんな感じがします。見るからに。
- 吉田
- ははは(笑)‥‥と、笑ってごまかす。
- ま、祖父江さんにお願いしたからには、
腹をくくる覚悟がないと。
時間とお金はかかりますけど、
絶対いいものになりますから。
- ──
- 本当に。
- 吉田
- 祖父江さんと打ち合わせするたんびに
古い新聞が増えていたり、
じつはこういう作品があってーとか、
いろいろ資料を出してきてくださって。
- 濱田
- そこの経費が、相当かかってますよね。
- ──
- 自腹切ってまで、そんなにも
資料を集めるのはどうしてなんですか。
- 祖父江
- 原寸のサイズが知りたかったんです。
当時、
どんなふうに新聞に載っていたのか。
あちこちから新聞を仕入れてみたら、
当時の新聞の文字って
けっこうちっちゃいことがわかった。 - 昭和27年が、最小サイズ。
でも、そのちっちゃいままつくると
読みづらくなっちゃうんで、
原寸はやめておこう‥‥とかとか。
- ──
- そういったレイアウト上の判断を、
オリジナル資料に
ひとつひとつあたりながら下していく。
- 祖父江
- 色の問題もありました。
- たとえば『ぐっちゃん』って、
毎回毎回、印刷の色がちがうんですよ。
黒のときもあり、赤のときもあり。
- 濱田
- 緑だったこともありました。
- 祖父江
- なるべくオリジナルの色に近づけたい。
そう思ってたんだけど、
これもまた、
オリジナルの色のとおりにやると、
読みにくくなっちゃうこともあるので、
ちょっと調整したりとか。
- ──
- そこまでオリジナルを尊重するのって、
なぜなんでしょうか。
- 祖父江
- ぼくは当時、この漫画が
どんなふうに新聞に載っていたかまで、
読者に知ってほしいんです。 - つまり、『マアチャンの日記帳』って
当時「1面」だった。
毎日小学生新聞の第1面に載ってたの。
他にも有名な人もいたのに、
高校生の描いた漫画が、1面トップ。
- ──
- すごい。
- 祖父江
- 手塚治虫という人は、
そういうところからスタートしている。 - そういうことを知ったら
「わあ、すごい!」ってなるじゃない。
この漫画が掲載されていた状態とか、
漫画の周囲のようすはどうだったか、
そのあたりのことが、
ぼく、気になってしょうがないんです。
- ──
- レイアウトするにあたって。
そうなんですか。
- 祖父江
- そう。たとえば「コボちゃん」とかは、
テレビ欄の裏だったでしょ。 - 手塚治虫さんの新聞連載のひとつめは
こんなふうに1面に載っていた‥‥
というのは、
じつはとっても大事なところなんです。
そこも含めて「復刻」したいんです。
- 吉田
- この記事が出ればやっと伝わりますね。
その、祖父江さんの意図が。
- 祖父江
- でね、当時の新聞って、いまとちがって
夕刊が
毎日きちんと届かなかったりするんです。
- 濱田
- え、そうなんですか。
- 祖父江
- うん。ズレちゃったりする。
流通がうまくいってなかったんでしょう。
いまほど、きっちり出せなかった。
そうなると、
夕刊の配り方が今度は気になってくるの。
- ──
- 当時の新聞屋さんの動きまで!
- 吉田
- そこを理解しないと、前に進めない‥‥。
- 祖父江
- 当時の社会がどうだったか‥‥について、
最低限のことを知ってから、
デザインを考えることが重要だと思って
進めさせていただきました。
- ──
- すごい。本当に、すごい。
- 吉田
- 準備運動、長い。
- 濱田
- そんなふうにしてできたこの本は、
祖父江さんはもちろんですが、
亡くなった
手塚プロの古徳さんとか森さん、
救世主の人とか、
いろんな人のおかげなんですよね。 - だから、出せてよかったなぁ‥‥
という気持ちが本当に強いんです。
- ──
- そうでしょうね。
- 濱田
- 本音を言えば、
日本中の図書館に入れてほしいくらい。 - それだけの本だと思います。
(つづきます)
2024-11-05-TUE
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手塚治虫さん三部作、
888ブックスのサイトで
特典つきで販売中!新聞漫画集成『マアチャンの日記帳』と
初の商業出版となる 『ロマンス島』をセットにした
『手塚治虫アーリーワークス』(20000円+税)。
意欲作「タイガーランド」と
「アバンチュール21」をはじめ、
初単行本化作品を含む8作品を収録した、
3分冊からなる豪華作品集
『手塚治虫コミックストリップス』(12000円+税)。
そしてなんとなんと、
手塚先生が10歳から15歳のときに描いたという
『ママー探偵物語』(22000円+税)。
そんな、あきれるほどすごい3部作が、
濱田さん+祖父江さん+吉田さんの3人組によって、
つくられてしまいました。
手間とコストがかかりすぎているので、
このままのかたちでは増刷不可能だろうとのこと。
今回のインタビュー全編を通じて、
その魅力について語っていただいているのですが、
収録時間約5時間の全18回と、なにぶん長大。
いったいどんな3部作なのか、
スライドショーで、いちはやく、ご確認ください。
888ブックスさんのサイトで購入すると、
それぞれに、素敵な特典がついてくるそうです!