編集・濱田髙志、アンソロジスト。
装丁・祖父江慎、コズフィッシュ。
版元・吉田宏子、888ブックス。
あきれるほどすごい手塚治虫さん本を
つくったのが、この3人。しかも3冊。
天才漫画家の煌めくクリエイションを
時空を超えて受け止め、
21世紀の世に放つ、現代の三銃士たち?
聞けば聞くほど「おそろしい」、
その本の制作過程を、
5時間がかりで、うかがってきました。
諸事情あって取材は実に1年半以上前。
時節柄、そろってマスク姿の三銃士よ。
担当は「ほぼ日」奥野です。
第13回
手塚少年が夢見た「本」。
- 祖父江
- 手塚少年は、『ママー探偵物語』のときに、
目次ページや表紙、
いわゆるカバー的なものも描いてるんです。 - たぶん、
単行本への憧れが強かったんだと思います。
その気持ちも大事にしようと思いました。
- ──
- 少年時代の手塚治虫さんの思いを汲んだ
装丁になっている、と?
- 祖父江
- 手塚少年の夢見た「本」をつくっちゃおう!
- ということで『ロマンス島』のつくりは
いまはあんまりやらない、
当時の単行本の代表格である
「継ぎ表紙」という製本になっています。
- ──
- はい。先ほど‥‥と言っても何時間も前に、
おっしゃってましたよね。 - でもなるほどー。
そういうことだったんですね。
- 祖父江
- 本当はクロスでつくるのがいいんだけど、
予算のこともあるし、
紙でも案外いけるかもしれないと思って、
名付けて「なんちゃって継ぎ表紙」。 - 塗りかけてやめちゃったところも、
アシスタントの人が
ベタを塗ったりしちがだけど、
そうしない状態で、
塗りかけのまま出したかったんです。
- ──
- いつでも立ち返るのは
「当時、どうだったか」ってことですね。 - 徹底してらっしゃいます。
- 祖父江
- この本は「途中である」というところを
大事にして、
途中状態を大切に完結させてます。 - それが、このブックデザインのテーマ
「途中の美」なんですよ。
- ──
- 途中であることも「込み」の、この調和。
このユニバース。セザンヌの絵みたい。
- 濱田
- 目次のところも、
空欄のところは空欄のままにしてますね。
- 祖父江
- はい。総扉と欧文扉、目次については
存在しなかったので、
ぼくの勝手な幻想で、
こういうイメージかもしれないなあって。
当時の手塚さんの本には、
こういうタイプが多いかなということを
いろいろ考えながら、
丁寧に、つくらせていただきました。
- ──
- お宝感がハンパないです。
- 祖父江
- 本文用紙にも気をつかってます。
上質パルプ。
古紙が入ってないので、
年月が経っても色が褪せないんですよ。
- ──
- 888ブックスさんは、
ひとりでやってらっしゃる出版社ですが、
だからこそ、
こんな宝物のような本ができたんですね。 - あらためて、ですけど。
- 濱田
- 大手の出版社だと、
いくつもいくつもハンコ押してもらって、
ようやく企画が通るわけですよね。 - そこにかかる時間を考えると、
吉田さんひとりでぜんぶジャッジできる、
そのことは、かなり大きいです。
- ──
- ですよね。目の前で「いいですね」とか。
- 濱田
- そうじゃなきゃ出なかった、この本は。
まず「マアチャン」が進んでいたところへ。
- 祖父江
- 『ロマンス島』が、急にきたわけで。
- 濱田
- で、箱に入れちゃいましょうかって話に。
- 2冊は同格の扱いで、
合本の扱いで箱入りにしよう‥‥とかね。
- ──
- でも、なぜデザインを別にしたんですか。
2冊の本の。あらためてですけど。
- 祖父江
- はい。先ほども言いましたが、
「ロマンス島」は、
当時手塚少年が夢見たであろう「単行本」の
アレンジバージョンなんですね。 - 現代らしい本のかたちというのかな。
懐かしさには向かわないように注意してます。
- ──
- はい。なるほど。
- 祖父江
- それに対して、「マアチャン」の場合は、
まるで「新聞紙の束」が
手元に届いたみたいにしたかった。
できあがってから「三方断ち」していて、
裏打ち寒冷紗粗目を背張りした
「コデックス装」でつくっているんです。
逆に言えば、
本らしくしたくなかったので、こうした。
表紙にぶあつい板紙を貼って強化したり。
- ──
- ええ。
- 祖父江
- そういう2種類の造本ちがいの単行本を
ひとつの箱に入れて、
『アーリーワークス』という
まとまりタイトルを、
濱田さんにつけてもらったんです。
- 濱田
- そんなふうにして出来上がった本を、
ぼくと吉田さんが手作業で発送しました。
- ──
- すさまじい「手数」です。
- 祖父江
- バーコードも入れたくなかったんです。
両表紙にしたかったんで。 - バーコードは帯でいいですよ~とかって、
大手ではなかなか言ってくれないね。
- 濱田
- そうでしょうね(笑)。
- 祖父江
- なんて素敵な本なんでしょう!
- ──
- この本は、後世に「残る」でしょうね。
こんなにも「度が過ぎている」から。 - 東京国立博物館で
大昔の「古今和歌集」なんかを見ると、
度が過ぎてるなあと思うんです。
雲母で「唐草模様」を擦り出した紙に
和歌が書かれていて、
そのうえからさらに、
金銀の箔や粉を撒いていたりするので。
- 濱田
- ええ。
- ──
- だから「残った」んだなと思いました。
度が過ぎてるから、何百年も。
人々が「残したい」と思ったというか。
ときの流れに耐えうるエネルギーに
満ち満ちているというか。 - そういう意味では、この本もですよね。
- 濱田
- よくできたと思います、本当に‥‥。
- 祖父江
- すばらしい本です。
あ、自分で言っちゃった。でもほんと。
手塚治虫という人の原点を知る上で
必要な2冊ね。あ、合本だから1冊か。 - あんまり手当たり次第に売れちゃうと、
本当に必要にな人の手に
渡らなくなっちゃうと思いますんで、
いいかげんな気持ちな人は、
買わないでほしいです。言っちゃった。
- ──
- いろいろ言っちゃった(笑)。
- それについての気持ちを
吉田さんにコメントしてほしいけど、
彼女はもういない‥‥。
- 濱田
- いやでもね、ほんと、
きちんと必要な人に届いてほしいなと、
みんなで話していたんです。
- ──
- たしかに、それはそうですよね。
将来、価値が出そうだとか思われても。
- 濱田
- さっきも言いましたけど、
たぶん増刷はできない本だと思います。 - 廉価版が出たとしても別物でしょうし。
- ──
- ですよね。
- 祖父江
- ‥‥っていうことで、手塚治虫さんの
『アーリーワークス』は、
こんなふうにしてつくりましたのです。 - わーっ!
(つづきます)
2024-11-09-SAT
-
手塚治虫さん三部作、
888ブックスのサイトで
特典つきで販売中!新聞漫画集成『マアチャンの日記帳』と
初の商業出版となる 『ロマンス島』をセットにした
『手塚治虫アーリーワークス』(20000円+税)。
意欲作「タイガーランド」と
「アバンチュール21」をはじめ、
初単行本化作品を含む8作品を収録した、
3分冊からなる豪華作品集
『手塚治虫コミックストリップス』(12000円+税)。
そしてなんとなんと、
手塚先生が10歳から15歳のときに描いたという
『ママー探偵物語』(22000円+税)。
そんな、あきれるほどすごい3部作が、
濱田さん+祖父江さん+吉田さんの3人組によって、
つくられてしまいました。
手間とコストがかかりすぎているので、
このままのかたちでは増刷不可能だろうとのこと。
今回のインタビュー全編を通じて、
その魅力について語っていただいているのですが、
収録時間約5時間の全18回と、なにぶん長大。
いったいどんな3部作なのか、
スライドショーで、いちはやく、ご確認ください。
888ブックスさんのサイトで購入すると、
それぞれに、素敵な特典がついてくるそうです!