編集・濱田髙志、アンソロジスト。
装丁・祖父江慎、コズフィッシュ。
版元・吉田宏子、888ブックス。
あきれるほどすごい手塚治虫さん本を
つくったのが、この3人。しかも3冊。
天才漫画家の煌めくクリエイションを
時空を超えて受け止め、
21世紀の世に放つ、現代の三銃士たち?
聞けば聞くほど「おそろしい」、
その本の制作過程を、
5時間がかりで、うかがってきました。
諸事情あって取材は実に1年半以上前。
時節柄、そろってマスク姿の三銃士よ。
担当は「ほぼ日」奥野です。
第14回
毎回毎回、バラバラです。
- ──
- このペースでいくと
夜になってしまいそうな勢いですので、
ずんずん先を急ぎましょう。 - 次は3部作の第2弾、
『コミックストリップス』について、
お願いいたします。
- 祖父江
- ぼくが「詰めもの」がキライなので
この空間に3冊めを入れて、
羊羹のようにきちっとした塊にしたい、
と言ったのは‥‥今日?
- ──
- 今日ですね。
- 濱田
- 今日です。
- 祖父江
- 3冊セットなんで、値段的にも
大変なことになっちゃうとヤバいので、
いろいろ工夫してますが、
ここで、
ちょっと説明したいところがあります。
- ──
- ぜひ。
- 祖父江
- 雑誌と新聞の印刷の文字の問題ですね。
- わかりやすいのは『地球トンネル』。
この作品は、
印刷史を学びたい方にとっても、
非常によい教材ですね。
- ──
- 印刷の歴史。
- 祖父江
- 印刷学や書誌学の歴史としても大事だと思います。
というのも、この作品が連載された
昭和26年って、
雑誌の創刊ラッシュだった年なんです。
- ──
- おお。
- 祖父江
- 戦中戦後ずっと紙不足だったんですが、
徐々に供給が増えてきて、
出版活動が本格化していった時期です。 - そういう時代なんですが
「刷り方」が、まだ不安定なんですよ。
これも当時の掲載雑誌『四年の学習』を探して、
見つけて、購入して、
当時と同じ文字サイズにレイアウトしてますが。
- 濱田
- はい。
- 祖父江
- こうして見てもらうとわかりますけど、
連載第1回の文字、
ガタついてるんだけれども、
いわゆる「写植系の文字」なんですが、
文字のサイズを調べると‥‥5号。
- ──
- 5号。
- 祖父江
- そう。これ、もとの原稿がないんです。
なので正確にはわかりませんが、
印刷された文字は、
サイズを測ってみると1回目と2回目は5号、
じゃあ3回は‥‥9ポイントだね。 - で、4回目は14級、5回めは12級?
6回目は13級??? あれ? 写植?
- 濱田
- バラバラですね。
- 祖父江
- で、第7回は書体が変わって‥‥あれ?
合わない。
- 濱田
- あー‥‥。
- 祖父江
- 製版で合わせてるか、
活字の清刷りを直接張ってるっぽい気もする。
だけど本当はどうなのかはわかんない、推理です。 - フォントやサイズのちがいに注目してみると、
当時の印刷工程を想像できて楽しいでしょ?
それにしても毎月コロコロ変わってますね。
- 濱田
- そうなんです。
- 祖父江
- もしかしたら7回は、
和文タイプライターじゃないかなあ。
金属活字とか写植ではなくて。
と思ったら、いきなり手書きになったりしてる。 - これはきっと。アレですね。
- 濱田
- 「締切に間に合わなかった」(笑)。
- 祖父江
- じゃないかなあ、と。
- ただ、手塚先生の文字かどうか‥‥は、
ちょっとよくわかんない。
ひょっとしたら
手塚先生が鉛筆かなんかで描いたのを、
別の人が起こした可能性もある。
他の手書き文字と比べると、
よく似てるけど、なんかちがうんです。
- ──
- はああ‥‥!
- 祖父江
- そしてまた活字に戻ってる‥‥。
- とにかくね、
毎号毎号、このシステムの定まらなさ。
- 濱田
- バラバラです。
- 祖父江
- ここまでバラバラなのは、ひとつには、
当時の社会の
「漫画」という形式や表現に対する、
なじみのなさが原因じゃないかな、と。
- ──
- 制作の方法論が定まってなかった。
- 祖父江
- 不安定すぎるんですよ。
ネームの、このギリギリ過ぎる貼り方。
これじゃあ、
いくらなんでもギリギリですよー、ね。
- ──
- ギリギリというのはつまり、
フキダシの大きさに対して、
セリフの文字数がギリギリ。 - 現代の漫画と比較すると、
たしかに、こなれてない感じはします。
- 祖父江
- 途中で、文字をもっとちっちゃくしておけば
楽じゃんって話になったのかなあ。 - 詰め込むしかない、みたいな。
ルビもいるしね。
もう下手すぎて、それも貴重な資料ですね。
- 濱田
- バラッバラです。毎回毎回。
- ──
- 本当ですね。見れば見るほど。
- 祖父江
- このおなじみ感のないセリフも、
大いに味わいたいと思います。 - ところで
こっちの『アバンチュール21』は、
文字を打ち直したんだっけ。
- 濱田
- 打ち直しました。
- ただ、途中から手書きになっていて、
そこはそのまま。
おそらく原稿が間に合わなくて、
結局、手書きになっちゃったんですよ。
最初の何回かは活字だったのに。
- ──
- 当時、どうだったか‥‥を大切にする
祖父江さんが、
どうして、あえて「打ち直し」を?
- 祖父江
- はい。ごめんなさい。
新聞印刷ということもあって、
文字が印刷で潰れちゃって、
ものすごーく読みにくかったんです。 - なので、もとの紙面ではここから先が
手書きです‥‥
ということさえわかればいいと思って、
他の活字なんだけど、
比較的近しい文字で打ち直したんです。
- ──
- なるほど。そこは合理的な判断で。
- 祖父江
- ごめんなさい。さっき言ってたことと
ちがうことやってて。えーん。 - でね、いちばん大きい『タイガーランド』は、
意外なことがありました。
つまり、新聞でどのように入ってたか。
そのことが知りたくて、
当時の新聞を探したわけですけれども。
- ──
- 先ほど拝見した、古い新聞ですね。
- 祖父江
- ぼくのイメージだと、
新聞紙面の「上」に来てると思ったの。 - でもねえ、いちばん下だったんですよ。
ビックリでした!
え、これ下に置くんだあっていうのが、
とっても意外だったんです。
(つづきます)
2024-11-10-SUN
-
手塚治虫さん三部作、
888ブックスのサイトで
特典つきで販売中!新聞漫画集成『マアチャンの日記帳』と
初の商業出版となる 『ロマンス島』をセットにした
『手塚治虫アーリーワークス』(20000円+税)。
意欲作「タイガーランド」と
「アバンチュール21」をはじめ、
初単行本化作品を含む8作品を収録した、
3分冊からなる豪華作品集
『手塚治虫コミックストリップス』(12000円+税)。
そしてなんとなんと、
手塚先生が10歳から15歳のときに描いたという
『ママー探偵物語』(22000円+税)。
そんな、あきれるほどすごい3部作が、
濱田さん+祖父江さん+吉田さんの3人組によって、
つくられてしまいました。
手間とコストがかかりすぎているので、
このままのかたちでは増刷不可能だろうとのこと。
今回のインタビュー全編を通じて、
その魅力について語っていただいているのですが、
収録時間約5時間の全18回と、なにぶん長大。
いったいどんな3部作なのか、
スライドショーで、いちはやく、ご確認ください。
888ブックスさんのサイトで購入すると、
それぞれに、素敵な特典がついてくるそうです!