編集・濱田髙志、アンソロジスト。
装丁・祖父江慎、コズフィッシュ。
版元・吉田宏子、888ブックス。
あきれるほどすごい手塚治虫さん本を
つくったのが、この3人。しかも3冊。
天才漫画家の煌めくクリエイションを
時空を超えて受け止め、
21世紀の世に放つ、現代の三銃士たち?
聞けば聞くほど「おそろしい」、
その本の制作過程を、
5時間がかりで、うかがってきました。
諸事情あって取材は実に1年半以上前。
時節柄、そろってマスク姿の三銃士よ。
担当は「ほぼ日」奥野です。
第17回
名探偵祖父江。
- 祖父江
- ここここ見て見て。原稿が切れてる。
切り抜かれてるんです。
- ──
- ほんとだ。貴重な作品なのに。
- 濱田
- 手塚先生って、
自分の原稿にあんまり執着がなくて、
バンバン切っちゃうんです。 - 別の本に掲載された
子どものころの漫画のコマにしても、
いまならコピーしたり、
スキャンして載っけると思いますが、
当時は原稿を切って、
編集部に渡しちゃってるんですよね。
- ──
- ひゃあ、何とも思い切った。
そういう時代だったんでしょうけど。
- 濱田
- でね、祖父江さんが見つけたんです。
切り抜かれたコマを。
- ──
- えっ? どこで? どうやって?
- 祖父江
- はい。ここでこのように
原稿が大胆にカットされております。 - でも、なんか似たようなの見たなあ、
と思って、ハッと思い出して、
『おれは猿飛だ!』という
大昔に鈴木出版から出た本を見たら、
ジャンジャジャーン!
- ──
- うわあ、本当だ!
- 祖父江
- 昭和37年の9月に出た本の巻末に、
このヒヨコのコマが載ってたんです。
- ──
- はああ‥‥それを覚えてたんですか。
おそろしや、祖父江さん。
- 祖父江
- これは『わが想いでの記1』という
文章のなかに使われてました。 - あれ、もしかして‥‥と思いついて、
ぱっとつながっちゃったんです。
- ──
- ようするに『ママー探偵物語』から
カットされたコマは、
当時の『おれは猿飛だ!』の編集部に
渡されていた‥‥という
歴史に埋もれた事実を、
数十年後の祖父江さんがつきとめた。
- 濱田
- で、編集部からは戻ってきていない。
だから手塚プロにもなかった。 - このコマを祖父江さんが見つけ出し、
ここにくっつけたとき、ぼくも、
手塚プロの資料室の田中さんも、
びっくり仰天でした。
ぼくも『おれは猿飛だ!』は持ってて、
さんざん読んでたんですが、
まったく気づかなかったんですよね。
- ──
- 祖父江さんが
ミッシング・ピースを見つけ出し、
もとの場所へ戻した。 - おかげで物語がつながり、
コマがなくなっていた謎も解けた。
- 祖父江
- えへん。
- ──
- 祖父江さん、名探偵すぎませんか。
- 濱田
- コマが欠けているところは何箇所か
あるんですけど、
他にも、祖父江さんがつきとめて
復元したコマが何箇所かあるんです。
- 祖父江
- もちろん、なくなったコマを
どこから持ってきたかは、
ちゃんと、注釈として入れていますよ。 - こういう仕事は、どちらかっていうと、
貴重な資料を後世に伝えるために、
お手伝いしているようなもんですよね。
- ──
- 手塚先生は、
膨大な「ママー」の原稿の中から、
このコマを選び出して渡していたんだ。
- 祖父江
- 手塚さんご自身でも、
気に入ってるコマなんじゃないかなあ。
- ──
- それから何十年も経ったあとに
こうして「ママー」が出版されるとは、
思ってもみなかったでしょうね。
- 濱田
- はい。あくまで「私家版」ですからね。
描かれたときには。
- 祖父江
- こういう本をつくるときには、
現在わかりうる最前線を目指してます。 - 恐竜の本だって、
毎年毎年新たな発見が出てくるじゃん。
- ──
- そうですね。恐竜に毛が生えたりとか。
最新の科学的知見を反映して。
- 祖父江
- ぼくたちも、新たな発見が出るたびに、
最新情報を更新し続けてるんです。 - ちなみに、この作品を描かれたときの
手塚さんが、これ。
- ──
- あらためて、まだまだ「少年」ですね。
まだ、あどけなさが残るくらいの。 - こんな子が、ここまで大作の漫画を。
びっくりするなあ。
- 祖父江
- ちなみにですけど
「9ページから14ページまで」‥‥が、
まるまる喪失してるんです。 - どこにもない。
いまのところ見つけられてないんです。
- ──
- そうなんですか。
- 祖父江
- なので、ないところはないってことを
視覚的にわかるよう、こうしてます。
- ──
- おお‥‥。
- 祖父江
- カットされた状態も、そのままにして。
- ──
- この気配り。
- 祖父江
- 台割、何べん引き直したことでしょう。
- 台割を引き直すたびに、
「新しい発見」が入ってくるんですよ。
えええーって。また変えなきゃーって。
- ──
- 終わらない(笑)。
- 祖父江
- やっとできたーと思ったら、
入れ忘れていたページがあったりとかね。 - これがもともとの表紙らしきもの、かな。
よく見るとママーのかたちをしてるので。
- 濱田
- あー、ほんとだ。
- 祖父江
- 田河水泡の『のらくろ』の見返しと
同じような感じです。影響を受けてます。
展覧会ってことにして
登場キャラクター紹介をしてたりします。
もくじも当然あるし‥‥奥付を見て見て。
- ──
- 発行所が「治虫堂」になってる。
- 祖父江
- そうそう。
- ここに「書始日」と「書終日」って
あるんですけど、
なんと、1か月で描いてるんですよ。
- ──
- なんと、ここまでの大作を1ヶ月で!
はああ‥‥。
- 祖父江
- どんだけ描いてるんだよーっていう。
こんな漫画ばっかり描いてて、
よく医学部に受かっちゃいましたね。
- ──
- しかも「書終日」に、
製本して発行して発売までしてます。
- 祖父江
- Amazonより速いんだよ。
- ──
- ほんとですね(笑)。
- 祖父江
- こういうところも、
いちいち見ごたえがあるんだよね。 - もうね、弟さん妹さん、
絶対に大よろこびだったと思う。
(つづきます)
2024-11-13-WED
-
手塚治虫さん三部作、
888ブックスのサイトで
特典つきで販売中!新聞漫画集成『マアチャンの日記帳』と
初の商業出版となる 『ロマンス島』をセットにした
『手塚治虫アーリーワークス』(20000円+税)。
意欲作「タイガーランド」と
「アバンチュール21」をはじめ、
初単行本化作品を含む8作品を収録した、
3分冊からなる豪華作品集
『手塚治虫コミックストリップス』(12000円+税)。
そしてなんとなんと、
手塚先生が10歳から15歳のときに描いたという
『ママー探偵物語』(22000円+税)。
そんな、あきれるほどすごい3部作が、
濱田さん+祖父江さん+吉田さんの3人組によって、
つくられてしまいました。
手間とコストがかかりすぎているので、
このままのかたちでは増刷不可能だろうとのこと。
今回のインタビュー全編を通じて、
その魅力について語っていただいているのですが、
収録時間約5時間の全18回と、なにぶん長大。
いったいどんな3部作なのか、
スライドショーで、いちはやく、ご確認ください。
888ブックスさんのサイトで購入すると、
それぞれに、素敵な特典がついてくるそうです!