編集・濱田髙志、アンソロジスト。
装丁・祖父江慎、コズフィッシュ。
版元・吉田宏子、888ブックス。
あきれるほどすごい手塚治虫さん本を
つくったのが、この3人。しかも3冊。
天才漫画家の煌めくクリエイションを
時空を超えて受け止め、
21世紀の世に放つ、現代の三銃士たち?
聞けば聞くほど「おそろしい」、
その本の制作過程を、
5時間がかりで、うかがってきました。
諸事情あって取材は実に1年半以上前。
時節柄、そろってマスク姿の三銃士よ。
担当は「ほぼ日」奥野です。
第16回
戦争時代のギャグ漫画。
- ──
- 取材開始から、すでに4時間‥‥。
- 本日の写真担当「ほぼ日」の岡村が
カメラをそっと脇に置いてから、
もう、どれくらい経ったでしょうか。
- 祖父江
- おまたせしましたー。
- ──
- ひと山どころか
3山4山登りきったような気持ちですが、
ここからが本日の本題です。 - 888ブックスさん3部作の第3弾、
『ママー探偵物語』です。
手塚治虫先生の、子ども時代の作品。
- 祖父江
- ここにいるのが「ママー」です。
- ──
- この、目と口がひとつずつで、
たすきのような輪っかを、
からだにかけている。 - このひとが「ママー」ですね。
- 祖父江
- そうです。ヒョウタンツギもいます。
鼻がブタさんみたいなキャラね。 - このヒョウタンツギが誕生したのは
デビュー前だと知っている人も
多いかもしれませんが、
そのへんのリアルがここで明らかに。
- ──
- 妹さんのいたずら描きからうまれた、
手塚漫画といえばのキャラですね。 - 何と、手塚治虫先生の少年時代から、
すでに登場していたとは。
- 祖父江
- こっち側には、ブクツギキュもいる。
でねでね、どうしてぼくが
このコマを箱に選んだかっていうと。
- 濱田
- こだわってましたよね、めちゃくちゃ。
ヒョウタンツギのお侍のコマを、
絶対ここに入れたいっておっしゃって。
- 祖父江
- そうなんですよ。
- ──
- なぜですか。
- 祖父江
- はい、手塚治虫っていうと、
ストーリーの作家だよねというふうに
思われているかもしれませんが、
ギャグのセンスが、ものすごいんです。 - ほら、ここでママーを上に放り投げて
ぶつかって、へこんじゃって、
ブクツギキュが
「できたてだから、
あんまりあばれたらだめ」って言って、
空気を入れてくれるでしょ。
- ──
- ははは。
- 祖父江
- 「ここんとこが ちょびっともれる」。
このセリフもいいよね。
「やっかいな あたまだナ」。 - その次がね、
「アマリはってくれるなヨ みっともない」
「ゼイタクいふな」って。
- ──
- おもしろーい。
- 祖父江
- でしょーっ! おもしろいでしょ?
- 「つぎだらけだから
ばんさうかうえもんとなのりなされ」
つまり「絆創膏ェ門」ね。
それに対して「いやぢあプン」って。
おかしいよね。何度も見ちゃう。
- ──
- 子どもらしいけど、
大人の自分が読んでもおもしろいです。
- 祖父江
- ギャグの方向性がすごくわかるんです。
ここだけ読んでも。 - 下ネタも出てくるんです。ウ◯チとか。
- 濱田
- たしかに。
- 祖父江
- ぼくの好きなのがね、おしっこギャグ。
いいんですよ。 - えーっと、おしっこギャグが
本当にいいんで、ちょっと探しますよ。
おしっこギャグ、おしっこギャグ。
- ──
- どこでしょう。
- 祖父江
- あー、あった。ここここ。
ママーが、お魚に食べられちゃった。 - それで、
「しゃくにさわるから
にくをとってくうてやれ」とかって。
で、肉を食べて「うまいうまい」。
ここらへん、すごい手塚さんらしいね。
- 濱田
- そうですね。たしかに。
- 祖父江
- 「これやうまし。ありゃまんぷくだ。
これがだるままーというやつか」と。
- 濱田
- だるままー。これ、謎なんですよね。
- 祖父江
- 当時の流行なのかなあ。わかんない。
そんなことしてたら
「ヒャッしょんべんだ!」って。 - 魚の体内にいるんだけど、
何か、ちんちんみたいなところから、
おしっこが出てきて
ママーにひっかかっちゃうんですよ。
- ──
- おもしろい(笑)。
とくに、子どもはよろこびそうです。
- 祖父江
- それで「クサイクサイ」ってうちに、
おしっこの海ができちゃう。
最終的には
「しょんべんの風呂へ入って、
しょんべんをありたけ飲んで、
しょんべんありたけしてしまった」。
どうですか。
現代文学のようなすごみがあります。
- 濱田
- ははは、はい(笑)。
- 祖父江
- 結局、ママーがちんちんをしばって、
おしっこで破裂してママーは助かる。
ピノキオよりすごいよ。 - ピノキオのベースって
ヨナ記っていうキリスト教のお話で、
神の言葉を伝えない預言者の人が
神の怒りに遭って、
魚に食べられるんですよね。
で、魚の中で、
3日間、食べられたままだったのが、
「うーん、ゲボッ!」って吐かれて、
また生まれ変わるんだけど。
- 濱田
- そうなんですか。
- 祖父江
- ママーのお話のほうが神々しいかも。
- 赤塚不二夫さんの
『レッツラゴン』以上かもしれない。
このギャグセンス。
ここまでストレートなギャグ漫画を
描いてたんですよ、少年時代。
たぶんこれって
弟や妹を「笑わせたい」っていうね、
思いが強かったんじゃないかな。
だから、いまみたいな、
ちょっと下品なギャグもあるんです。
- 濱田
- なるほど。
- 祖父江
- いま、ぼくは趣味で
戦時中の少年少女の本を集めてるんですが、
内容が、みんな「暗い」んです。 - 兵隊さんバンザイだとか、
お国のためにだとか、
そういうお話しか印刷されない時代。
そんな中で、手塚少年には、
こーんなにすばらしいギャグ漫画を
描くパワーがあったなんて。
出版はされてないけど、
戦時中でもちゃんと笑いのある漫画が
描かれていたというのは、
ある種、救いです。
- ──
- 弟さん妹さんも楽しかったですよね。
きっと。
- 祖父江
- そうだと思います。
(つづきます)
2024-11-12-TUE
-
手塚治虫さん三部作、
888ブックスのサイトで
特典つきで販売中!新聞漫画集成『マアチャンの日記帳』と
初の商業出版となる 『ロマンス島』をセットにした
『手塚治虫アーリーワークス』(20000円+税)。
意欲作「タイガーランド」と
「アバンチュール21」をはじめ、
初単行本化作品を含む8作品を収録した、
3分冊からなる豪華作品集
『手塚治虫コミックストリップス』(12000円+税)。
そしてなんとなんと、
手塚先生が10歳から15歳のときに描いたという
『ママー探偵物語』(22000円+税)。
そんな、あきれるほどすごい3部作が、
濱田さん+祖父江さん+吉田さんの3人組によって、
つくられてしまいました。
手間とコストがかかりすぎているので、
このままのかたちでは増刷不可能だろうとのこと。
今回のインタビュー全編を通じて、
その魅力について語っていただいているのですが、
収録時間約5時間の全18回と、なにぶん長大。
いったいどんな3部作なのか、
スライドショーで、いちはやく、ご確認ください。
888ブックスさんのサイトで購入すると、
それぞれに、素敵な特典がついてくるそうです!