タイピングの速さを競う大会で、
3度の日本一に輝いたのが、
現在大学2年生の松鶴れいらさんです。
実力はあったものの本番に弱く、
結果の出ない日々が長くつづいたとか。
そこから自分と向き合い、練習を重ね、
中学2年生のときには最高位となる
「内閣総理大臣賞」を受賞されました。
過去の失敗にとらわれることなく、
どうやって自分の殻を打ち破っていったのか。
タイピングに明け暮れていた頃の話、
そしてこれからの目標についても聞きました。
担当は「ほぼ日」の稲崎です。

>松鶴れいらさんのプロフィール

松鶴れいら(まつづる・れいら)

2004年石川県生まれ。
小学3年生から地元のパソコンスクールに通い、
基礎からタイピングを習いはじめる。
タイピングの速さと正確性を競う
「毎日パソコン入力コンクール」の全国大会で、
2018年、2020年、2021年と3度の日本一に輝く。
現在、明治学院大学心理学部2年生。

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05 可能性のかたまり

──
本番で緊張しちゃって、
ふだんの力が全然発揮できない人って
けっこういると思うんです。
松鶴
だと思います。
──
松鶴さんがその壁を乗り越えられたのは、
どうしてだと思いますか。
松鶴
私はとにかく練習量をふやしました。
とにかく練習をしまくって
120%まで力を高めておけば、
本番でちょっと落ちても100%は出せます。
──
本番は力が落ちるものだと思って準備する。
松鶴
落ちた状態でも勝てるように、
とにかく自分の力をあげていた気がします。
──
逆はなかなかないですもんね。
本番のほうがうまくいくってことは。
松鶴
あ、でも高校生のときに、
本番のほうが練習より速かったことはあります。
打ったことない文字数を、
はじめて本番で打ったことがあります。
──
どういう状況だったんですか。
松鶴
そのとき出た大会では、
なるべくミスをなくそうと思って、
ゆっくり一定の速度で打つ練習をしていたんです。
本番もそのペースでやるつもりが、
やっぱり緊張しちゃったのか、
練習より速いスピードで打ちはじめてしまったんです。
ふつうはそこで焦るんですけど、
そのときはなぜか妙に落ち着いたままで。
──
もしかして「ゾーン」ってやつですか。
松鶴
はい、ゾーンに入りました(笑)。
──
スポーツの世界でもよく聞きますけど、
ゾーンって実際はどういう感じなんですか。
松鶴
例えば、よくミスする箇所があるとします。
「ここミスしやすいなあ」とか、
「ここ、打ちにくいなあ」という部分。
ゾーン状態だとそこがサッと打てたり、
いつもは1分かかっていたのが、
50秒で打ってちゃったりするんです。
打ちながらタイムを見る余裕もあるので、
自分が速いっていうのもわかるというか。
──
そういうゾーン状態に、
自分でもっていくのは難しいんですよね。
松鶴
いつもってわけにはいかないですね。
──
どうしてその日は、
そういう状態になったんでしょうか。
松鶴
うーん、なんだろう‥‥。
逆に緊張したほうがいいとか?
──
緊張はあったほうがいい?
松鶴
緊張しなかったらああはなってないので、
いい緊張感がパフォーマンスを上げたというのは、
ありえる話だと思います。
そのへんは私もすごく興味があります。

──
これからはそういうことを
大学で勉強されていくわけですよね。
松鶴
はい。
いま私が興味あるのは
「緊張」と「子ども」なんです。
──
子ども?
松鶴
子どもの心の発達だったり、
子どもの自己肯定感の育て方だったり。
「どうやったら生きやすくなるのか」とか。
子どもについても勉強したいですね。
──
たしかに子どもっておもしろいですよね。
可能性のかたまりというか。
なんにでも染まれるというか。
松鶴
ほんとうにそうですよね。
子どものときにどんなことを体験するかは、
ものすごい大事だと思うんです。
最近、子どもの居場所づくりの
ボランティアをはじめたんです。
子どもたちと遊んだり、勉強したり、
この前は「逃走中ごっこ」もやりました。
そういう活動をしながら、
ちょっとでも子どもたちに
成功体験を与えれたらいいなと思ってます。
──
小さな成功体験って大事ですよね。
とくに子どものときは。
松鶴
私自身もタイピングを通して、
そういう成功体験を
たくさん積んでいたような気がします。
──
ご自身のことを振り返ってみて、
松鶴さんはなぜタイピングという分野で、
自分の力が発揮できたと思いますか。
松鶴
私の場合は、子どもの頃から
パソコンスクールに通っていたので、
クセがまったくついてなかったんです。
キーボードのどこに指を置くかという
「ホームポジション」から教わっていたので、
タイピングを最短距離でを学べた気がします。
──
やっぱり基礎から教わるって大事なんですね。
松鶴
もし大人になってから
タイピングスキルを身に着けようとすると、
それまでについたクセがあるから、
それを直すのがまた大変だって聞きますね。
──
ちなみに、子どものときって、
大人の言うことをちゃんと聞く子でしたか。
松鶴
全然聞いてないです(笑)。
──
そうなんですか?
松鶴
まったく聞かない子でしたね。
──
いや、なんでその質問したかというと、
自分の技術を上げていくためには、
人からのアドバイスって大事じゃないですか。
松鶴
めちゃくちゃ大事です。
──
そんなふうに考えると、
松鶴さんは素直に話を聞く子だったのかなって
‥‥そうじゃない?
松鶴
全然聞かなかったですね。
でも、いまの話の流れでいうと、
私のタイピングスキルが上がりはじめたのは、
やっぱり人の意見を聞くようになってからです。
──
あぁ、なるほど。
松鶴
それまではお母さんに
いろいろアドバイスされても、
「自分の力でなんとかする」って感じで、
あんまりちゃんと聞いてなかったんです。
でも、いま振り返ってみると、
お母さんのアドバイスを聞くようになってから
上達しはじめたような気がします。
──
どうして素直に聞こうと思えたんですか。
松鶴
たぶん試しに1回だけ
お母さんに言われたことをやったら、
意外とうまくいったんだと思います。
──
「あ、ほんとうだ」って。
松鶴
それからすこしずつ聞くようになったのかも。

──
となると、やっぱり本人しだいですね。
本人が気づくしかないというか。
松鶴
でも、大人の側も言い方とか伝え方で、
工夫できることはあると思います。
アドバイスって思われない言い方や、
子どもがワクワクするような提案に変えてみたり。
子どもたちのボランティアをしていても、
どういう言い方なら興味もってくれるだろうって、
そういうことはよく考えます。
子供だからって命令したり、
上から言ったりするんじゃなくて、
むしろ下からおうかがいを立てる(笑)。
強制させるんじゃなくて、
あくまでひとつの意見を言うというか。
──
きっと松鶴さんのお母さんも、
そういう接し方が上手だったんでしょうね。
松鶴
上手だったと思います。
タイピングをずっとつづけられたのは、
まちがいなくお母さんのおかげだと思います。
──
ちなみに、タイピングに未練はないですか。
松鶴
それが不思議とないんです。
それより大学生になって、
やりたいことがいっぱい出てきたことのほうが
自分にとっては大きかったなって。
──
いまっておいくつでしたっけ?
松鶴
20歳です。
──
松鶴さんも可能性のかたまりですね。
松鶴
いやぁ、どうだろう(笑)。
でも、どんどんチャレンジはしたいです。
タイピングはいまでも好きですけど、
自分のなかでは達成感もあるし、
ある程度、納得もできているんです。
これはこれでいい経験になったので、
私はそろそろ次に行こうかなって思ってます。
──
いつかまた別のジャンルで、
チャンピオンになってたりして(笑)。
松鶴
そうなるといいなぁ(笑)。
いまはまだ模索中ですけど、
いろんなことにどんどんチャレンジして、
また新しい自分の特技が
見つかったらいいなって思ってます。

(おわります)

2024-12-13-FRI

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