人生をかけて「強さ」を追求する
「世界のTK」こと高阪剛さんと
「格闘技ドクター」の二重作拓也さん。
今年のほぼ日創刊記念イベントでは、
この2人をゲストにお招きして
糸井重里とのトークセッションを行いました。
そのときの話がとても好評だったので、
あらためてテキストにしてお届けします。
あと一歩前に出たい人。あとすこし勇気がほしい人。
自分を奮い立たせる言葉をぜひ見つけてください。
高阪剛(こうさか・つよし)
総合格闘家。
1970年滋賀県草津市生まれ。
中学から柔道を始め、
高校、大学、東レ滋賀まで柔道漬けの毎日。
1993年リングス入門、94年プロデビュー。
1998年にアメリカに渡り、UFCに参戦。
世界中の強豪たちと激闘を重ね、
「世界のTK」として一躍脚光を浴びる。
2001年帰国。2003年には
パンクラス・スーパーヘビー級タイトルマッチで
自身初のチャンピオンに輝く。
その後、PRIDEやRIZINにおいて
世界のトップファイター達と激闘を繰り広げ、
日本人ヘビー級選手として唯一無二の存在となる。
2022年4月、RIZINのリングでのラストマッチで、
極真空手世界チャンピオンの上田幹雄選手と試合を行い、
見事KO勝利にて有終の美を飾る。
二重作拓也(ふたえさく・たくや)
挌闘技ドクター
スポーツドクター
格闘技医学会代表 スポーツ安全指導推進機構代表
ほぼ日の學校講師
1973年、福岡県北九州市生まれ。
福岡県立東筑高校、高知医科大学医学部卒業。
8歳より松濤館空手をはじめ、
高校で実戦空手養秀会2段位を取得、
USAオープントーナメント日本代表となる。
研修医時代に極真空手城南大会優勝、
福島県大会優勝、全日本ウェイト制大会出場。
リングス等のリングドクター、
プロファイターのチームドクターの経験と
スポーツ医学の臨床経験から「格闘技医学」を提唱。
専門誌『Fight&Life』では連載を担当、
「強さの根拠」を共有する
「ファイトロジーツアー」は世界各国で開催されている。
スポーツ事故から子供や実践者を守るため、
スポーツ安全に取り組む指導者・医療者の
見える化にも積極的に取り組んでいる。
また音楽家のツアードクターとして、
プリンスファミリー、P-FUNK、
タワー・オブ・パワー、ジェフ・ベック、
キャンディ・ダルファーらを来日時にサポート。
世界発売されたプリンスの書・英語版
『Words Of Prince Part1, 2 & 3 Deluxe Edition』は
amazon.comのソウル・ミュージック部門で
ベストセラー1位を獲得。
最新著作『Dr.Fの挌闘技医学 第2版』では
「ほぼ日特設ページ」も。
Twitter:@takuyafutaesaku
- 糸井
- 今日は「時間」というテーマが
おおもとにあったんですけど、
最後にもう一度新鮮な気持ちで、
おふたりに聞いてみようと思うんですけど。
まずは高阪くんから。
- 高阪
- はい。
- 糸井
- 時間は、どういうものだと思いますか。
- 高阪
- 自分は「逆算するもの」
という感覚がすごくあります。
時間を逆算して次に何をやるかを決める。
先に何か目標があるんだったら、
逆算しないと何も起こらないというか。
時間は余ってもダメ、足りなくてもダメ。
ピッタリはまるギリギリのところで、
ちょうどバチッて止めれるかどうかみたいな。
- 糸井
- それは「死」も意識してるってこと?
- 高阪
- 自分はそこまでは考えてないです。
- 糸井
- ということは、
それは練習からの発想なんですか。
- 高阪
- そうかもしれないです。
試合前の準備がとくにそうなんです。
自分は準備に7週間ぐらいかけます。
その7週間という時間も、
自分の経験からわかったものですけど。
- 二重作
- 試合日から逆算して準備するんですね。
- 高阪
- ただ、たまに逆算に失敗するときがあって、
まだ準備ができてないのに
試合の日が来たこともありました。
逆に試合の1週間前に準備ができてしまって、
何もできない時間ができちゃったり。
- 二重作
- 早すぎちゃった、完成が。
- 高阪
- 早く完成しすぎちゃった。
正直、そのときはパニックになりました。
- 糸井
- そういうときの方法はないんですか?
- 高阪
- それが起こったときは、
これはもう身をゆだねるしかないんです。
正直メンタルとの闘いで、
余計なことしか考えなくなっちゃうので、
いいイメージができなくなる。
そういうときはだいたい負けますね。
- 糸井
- 一見、早く終わって
よかったみたいに思えるのに。
- 高阪
- 準備がバチッて合ったときは、
ものすごくいい形で試合ができて、
結果もついてきますね。
- 糸井
- なるほど、ありがとうございました。
二重作さんはどうですか。時間について。
- 二重作
- ぼくは時間というのは、
みんなとの「約束」だと思っています。
例えば、試合の中でも5分の切り方は自由です。
1秒ずつ切っていったらチャンスの塊だし、
5分しかないと思えば焦ってしまうし。
人それぞれで中身が違うので、
時間は約束って感覚はあります。
- 糸井
- いま「5分」という短い時間を出したのは、
やっぱり試合の意識があるんですか。
- 二重作
- それはあると思います。
カラテのような殴り合いをやってきてると、
そういう時間感覚で脳が育っちゃうので。
自分の体の中に3分とか5分とか、
ラスト1分っていう体内時計を
持ってる感じはあると思います。
- 糸井
- 5分って1日の中で
山ほどあるじゃないですか。
そんなにあっていいんですか。
- 二重作
- ぼくが医者と格闘技の両方を
やっているからかもしれませんが、
まとまった練習時間って取れないんです。
2時間の練習とか取れないので、
この5分で自分をどれだけ追い込むか。
基本的にそういう練習しかしないです。
- 糸井
- そうか、それに慣れちゃってるのか。
- 二重作
- 本を書くときも5分バーッてやって、
あとはほったらかしです。
で、次の5分見つけたらまたやる。
1日のトータルだと、
それで1時間とか2時間になります。
- 糸井
- 貯金を積んでいくみたいに。
- 二重作
- ぼくは病院でも練習するんです。
ナースが後ろを向いた瞬間に
ハイキックを一発だけ空蹴りしたり(笑)。
誰も見てない瞬間にパッて蹴る。
誰にも迷惑をかけないし、
一瞬を獲るための
めちゃくちゃいい練習になります。
- 糸井
- 高阪くんはそういうのないでしょ?
- 高阪
- 自分はないです(笑)。
- 二重作
- 高阪さんは24時間練習できる環境を
獲得されたんですよね。
ぼくはそれができなかったので。
- 糸井
- ふたつの人生を編んでるというか、
三つ編みしてるみたいな人生ですからね。
- 二重作
- だから時間の使い方で言えば、
どうやって効率化するかばかり考えちゃいます。
- 糸井
- いま、こんなにのんびりした
時間を過ごして大丈夫ですか(笑)。
- 二重作
- 超楽しい時間です!
でも「終了の時間です」って
カンペが出てますね(笑)。
- 高阪
- そうですね(笑)。
- 糸井
- そろそろ終わりにしますけど、
おふたりが遠くのものを見ながら
歩いてる感じがすごくうらやましいです。
だって強くなるっていうことには、
答えなんかないじゃないですか。
- 高阪
- そうですね。
- 糸井
- 遠くの富士山を見ながら歩いてる姿が、
なんか、いいなそれって。
- 高阪
- 夢見がちなだけかもしれないですけど。
いつまでたっても。
- 二重作
- キツイっすよ(笑)。
富士山を見たあとに自分を見ると、
弱さしか見えないですから。
- 糸井
- ぼくはそういうのがまったくないから。
いやぁ考えますね、あらためて。
- 高阪
- いやいやいや(笑)。
糸井さんはもう十分考えてこられて。
- 糸井
- ふたりに比べたら、
ぼくなんて夢うつつで
生きてるみたいなもんですよ(笑)。
- 高阪
- それが自分はうらやましいです、逆に。
- 二重作
- こんなに人生楽しんでる方、
なかなかお目にかかれないですから。
- 糸井
- でも、これはこれでけっこう苦労も多い。
俺と同じことを人がやったら大変だよってのは、
ちょっと自信があるね(笑)。
- 高阪
- はい、存じあげております(笑)。
- 二重作
- それはそうですね。ほんとに。
- 高阪
- いま自分の息子がレスリングやってて、
すごいキツイ練習もやるんですけど、
たまに「でも逃げ道も大事だぞ」って
言葉だけポンと渡すことはあります。
- 二重作
- うん、逃げ道。
- 高阪
- ガッとなりすぎるときに、
なんでもいいから逃げ道大事だぞって。
そしたら最近は
YouTubeばっかり見てますけど(笑)。
- 糸井
- 逃げ道があるって知ってて、
そこを取っておこうって思う気持ちって、
けっこう人をしゃんとさせますよね。
- 高阪
- まさにそうなんです。
自分はそれを伝えたくて言ったんですけど。
- 糸井
- いや、おもしろかったです。
世界一頭が良くなりたいとか、
世界一きれいになりたいとか、
そういう2人の話をずっと聞いていても、
きっと、ぼくはここまで
おもしろいとは思えないと思うんです。
- 高阪
- ああ(笑)。
- 糸井
- その違いはなんなのかなっていうのは、
ぼくの宿題にします。
強くなりたいという人の話は、
なんでおもしろいんだろうというのは。
- 二重作
- 前提が弱いんですよね。
だから強くなりたい。
- 糸井
- そうか。
- 二重作
- 強い人は「強くなりたい」って、
たぶん思わないので。
- 糸井
- ジャイアンが一所懸命練習してるの、
見たことないもんね。
- 高阪
- そうですね。
ジャイアンは歌が下手ってことも、
自分で気づいてないですもんね。
- 糸井
- そうか、そうか。
その辺はまた別のときにしましょうか。
いやぁ、おもしろかったです。
おふたりともありがとうございました。
- 二重作
- ありがとうございました。
楽しかったです。
- 高阪
- どうもありがとうございました。
(おしまい)
2022-08-19-FRI