2017年にスタートしたビワコットン。
江戸時代から続く伝統的な織物、
「縮(ちぢみ)」がルーツで、
表面にさざ波のような、細かい凹凸があります。
コットンの平織りなのに、
おどろくほど伸び縮みする独特の生地は、
通気性がよく、さらりとした肌ざりがよく、
涼しく過ごせると好評で、
たくさんの方に愛されています。
その、ビワコットンに、
ビワッフルが仲間入りしました。
平織りではなく、ワッフル織りにしたことで、
伸縮性と通気性がアップして、
さらに涼しく、
リラックスできる着心地になりました。
おどろくほど伸び縮みするという、
着心地のよさに反して、
作る側にとっては扱いにくい生地で、
裁断も縫製もたいへん。
製品を開発し、ブランドをプロデュースする
大手アパレル・カイタックインターナショナルの
山下秀一さんに、
新しい仲間のビワッフルと
ビワコットンの特長と
開発当時のお話をうかがいました。
- 山下
- ビワッフルを世に出す前に、
いろいろ試作品をつくってみたり、
試着したりしてましたけど、
けっこう社内でも賛否両論ありました。
- ほぼ日
- あ、そうだったんですか。
- 山下
- うん。
やっぱりこれだけ伸びたりするので。
裁断や縫製のときに、
生地を扱いきれるのか? とか‥‥。
- ほぼ日
- 平織りのビワコットンでさえ
伸縮性があるのに、
さらに伸縮性があるワッフル織りだから‥‥。
- 山下
- そうですね。
伸びちゃったり縮んじゃったりすると、
洗ったときに、
生地が単純に縮むんじゃなくて、
縫い代が重なって生地厚になったところは
縮んでいかないとか、
着たときに伸びないとか、
そういう問題も出てくるから。
- ほぼ日
- 糸は、ビワコットンと同じ糸?
- 山下
- いや、同じ糸じゃなくて、
撚りの回数を変えています。
ちょっとした設定だったりバランスを
あらゆるところで変えないと、
まともなものができてこない
っていう感じだったので。
あとは縮みすぎたり、
織りづらかったりだとか。
いままで織りとはちがって、
構造が単調なものじゃないので。
実際に製品サンプルを何度も作りました。
- ほぼ日
- ビワコットンの服は、
裁断して縫ったあとに色を染めるから、
染めのときに、糸がどのくらい縮むのか、
実物を作ってみないとわからないから、
何度も作ったんですね。
- 山下
- 縫製が終わって、染めるときに、
60度から80度ぐらいの熱で
染めていくんですけど、
その熱のかけ方だとか、
時間だとか、染料の種類だとか、
あとは室内の温度とかっていうのも、
全部かかわってくるので。
じゃあどのへんで
中心値をとればいいかなっていうのを
何回か作ってみないとわからない。
まあだから、
ボツになったものが、けっこうあります。
- ほぼ日
- 完成するまでの道のりは、
長かったですねえ。
できあがったビワッフルは、
とても気持ちよい着心地です。
世に出てよかったです。
- ほぼ日
- ビワコットンプロジェクトが
スタートしてからも、
「もっとこういうことができないか」だったり、
「こういうことをやってみたい」など、
山下さんって常に新しいことを
考えていらっしゃいますよね。
- 山下
- もう単純に好きだからだと思います。
仕事の原動力は、
自分が「好き」で良いと思ってて、
気持ちがいいっていうのを大事にしていて。
- ほぼ日
- 「好き」が仕事の原動力ですか。
- 山下
- はい。
僕、実はずーっとジーンズ担当だったんです。
カイタックグループの本社は岡山で、
岡山は昔からジーンズの産地なんです。
今もちょっとやってますけど、
本業はジーンズなんです。
- ほぼ日
- えっ、まさか
ビワコットンのプロジェクトは趣味?
- 山下
- 趣味じゃなくて、新規事業軸です(笑)
- ほぼ日
- ははは。そうですよね。
- 山下
- ジーンズをやってたときに、
たまたま「高島ちぢみ」と出会って。
そのときに見たのは、
ステテコだったんですけど。
「おおっ、天然繊維で機能性高くて、
言ってみれば、
機能性の高いヴィンテージだ!」って。
- ほぼ日
- 機能性の高いヴィンテージ!
そのとおりですね。
- 山下
- うん。
「これはいける!」って
ステテコ見て、ひとりで盛り上がってたんで、
まわりの人はすごい冷めた目で
僕を見てましたけど(笑)。
- ほぼ日
- ははは。
- 山下
- ステテコに、なんかもう筆で書いたような
「高島ちぢみ」って書いた下げ札がついてて。
「すげぇ」とか「これ、売れるわ!」って、
ジーパンをつくっているやつが
言っているわけですよ。
おかしいでしょ?
- ほぼ日
- ははは。ほんとですね。
一番最初の出会いって、
何年ぐらい前だったんですか?
- 山下
- たしか、展示会で見たのが2016年かな。
すぐに高島ちぢみの産地、
滋賀県の高島市に行きました。
- ほぼ日
- おぉー!
- 山下
- そこでいろんな方と会って。
実際に現地で素材を見て、あまりの感動に、
「これで天下とれる」みたいな、
わけのわからないことを思って。
それで、まともに話を聞いてくれたのが
杉岡織布の杉岡定弘さん。
- ほぼ日
- おぉー! 杉岡さん。
この方も新しいことやおもしろいことに
挑戦され続けている方ですよね。
以前、工場取材にうかがいました。
- 山下
- 高島でいろんな素材をつくって、
ワンフロアーに、試作品を
ザーッと並べたことあったんですよ。
やってみてわかったことは、
実はあんまりインパクトないなと。
でも、その中に、
いまのビワコットンの生地があって。
「これで、Tシャツをつくったら
おもしろいんじゃないか?」
っていう話がでて、つくってみたら、
すごいインパクトがあって。
実際、自分たちで着たり、
人に着てもらったりしたときに、
一番「おおっ!」って思ったのが
いまのビワコットンでした。
- ほぼ日
- うんうん。
- 山下
- しかもネーミングもね、
「BIWACOTTON」っていう名前をつけて。
最初はシャレのつもりでつけたんですけど、
だんだん「かわいい名前だね」とか。
- ほぼ日
- 琵琶湖のほとりで作るコットン生地だから、
ビワコットン。
あらためて開発当時の
お話をうかがいましたけど、
やっぱりおもしろいです。
- 山下
- 「高島ちぢみ」に出会った翌年くらいに、
轟木さんとの出会いもありましたし。
まさかこんな長いお付き合いになるとは、
思っていなかったですけど。
それから、なんだかんだで、
2024年まで続けられています。
- ほぼ日
- 先日、轟木さんとお話したときに、
「ビワコットンももう8年目とかだから、
今だからできるっていうことが
たくさん増えた」とおっしゃっていました。
- 山下
- そうですね。
ビワッフルの前は、
ミルフィーユをつくりましたし。
新しいことをどんどんやりたいです。
- ほぼ日
- 山下さんを見ていると、
「やりたい!」「なんとしてもできる!」
という気持ちをいつも感じます。
- 山下
- 杉岡さんからは「あきらめが悪い」って
言われますけど(笑)。
- ほぼ日
- ふつうだったら、
効率や生産性が低い案件って、
やめることが多いと思うんです。
- 山下
- そうなんですよね。
たいがい、こういうものを
試作品としてつくったときって、
不具合が出たりなんかすると、
「ああ、やっぱりむずかしいんだね、
できないんだね」っていうふうに、
あきらめちゃう人が多いとは思うんですけど。
- ほぼ日
- 世間一般には、もしかしたら、
さっと手を引く人のほうが
生産性が高いって言われる気がします。
- 山下
- まあ、そうですね。
実際にあの、試験的に
いろんなものをつくるっていうことは
現実問題として、
お金と手間がかかってるから(笑)。
- ほぼ日
- 山下さんのように、
「いままでにないものをつくるぞ!」と
試行錯誤を長年かけてやる方は、
めずらしいように感じます。
- 山下
- どうなんですかね。
まあ「つくるぞ!」っていうふうに
思っている方はほとんどだとは思いますが、
新しいものって、
「なかなか出てこないよね」
っていうのが現実で。
織物の世界で言ったら、
天然素材を使ったものなんて、
ものすごい歴史があるわけで。
- ほぼ日
- 古代エジプトからみたいな。
- 山下
- そうですね。
そこからね、じゃあ、
実際に衣服にするにはどうだとかね。
じゃあ、カーテンにするには、
カーペットにするには、
下着にするにはって、
大昔からみんな考えていったわけで。
それをいまさら急に
「新しいものをつくりますよ」
って言われても‥‥って(笑)。
- ほぼ日
- たしかに、たしかに。
- 山下
- ただ僕が恵まれていたのは、
「高島縮」に出会ったことで。
ものすごい特長がある
素材なんじゃないかなって。
しかも日本独自で、
ほかにどこにもないものだって。
これを一歩進めればできるんじゃないかな
っていうふうに思ったっていうのがあって。
- ほぼ日
- はい。
- 山下
- 「高島縮」は
江戸時代ぐらいから続いている技術が民芸品とかじゃなく、
ちゃんと現代の洋服に生かすことができていて、
しかも買える値段で出せるっていうこと。
ただただ「おもしろいね」で終わらないで、
きちんとプロダクトとして、
ビジネスとして成立しているので
そこがすごいところなんです。
高島がすごく今、時代に一番合ってるなって。
- ほぼ日
- はい。
- 山下
- そういう背景だとか、
伝統だとか、技術だとかを
後世にもずっと残していきたいな
っていう意味でも、
やっぱり僕も高島でやり続ける意味は
あるなって思います。
紆余曲折ありましたけど、
まあ言ってみれば偶然の賜物みたいに、
いろんなことが起こって、
やっていくうちに
ここまできたって感じです(笑)。
- ほぼ日
- これからも、よろしくお願いします。
ビワッフルやビワコットンの
開発当時のお話をうかがいました。
おもしろかったです。
ありがとうございました。
2024-05-21-TUE