現役の保育士として働くかたわら、
専門的な知識を活かして、
子どもとの向き合いかたについて
メディアで発信しているてぃ先生。
対談のきっかけは、保育園に孫を通わせる娘を通じて
糸井が保育士さんのスゴさに気づいたことから。
子どもの成長に合わせて考えられた教育は
「大人にも同じことが言える!」ことだらけ。
いま、幼児教育に関心がある糸井が、
てぃ先生にさまざまな話を聞きました。
最後には、講義に参加された方々からの
子育てにまつわる質問コーナーもおとどけします。
てぃ先生(てぃ・せんせい)
現役の保育士でありながら、SNSの総フォロワー数が180万人を超えるインフルエンサーとして活躍。保育士としては日本一のフォロワー数である。その超具体的な育児法は斬新なアイディアにあふれていて、世のママパパから圧倒的な支持を得ている。著作に『てぃ先生の子育てで困ったら、これやってみ!』(ダイヤモンド社)、『猛獣ストレッチ 』(SYNCHRONOUS BOOKS) など。
- 糸井
- てぃ先生は細密画を描くように
繊細に考えているところと、
とても大胆に「大丈夫!」みたいな
考えのときがありますよね。
- てぃ先生
- まさしくそうですね。
- 糸井
- 急に、できた人になったわけじゃないと思うので、
ダメダメだったときもありますか?
- てぃ先生
- あります、あります。
今でこそ子どもに対してイラッとすることって
ほぼ0と言い切れるくらい怒らないですけど、
新卒のときは、2分に1回は怒っていました。
- 糸井
- ええ、てぃ先生がですか?
- てぃ先生
- はい。朝から晩まで怒っていましたね。
- 糸井
- はあー、想像できないです。
- てぃ先生
- 振り返ってみると、保育士1年目は
学校で習ってきたことが役立てられず
なにをどうすればいいのかわからないし、
親や同僚の先生といった周りの目も気になるし、
余裕がなかったと思います。
すごく細かいことですけど、
たとえばベテランの先生になると
子どもをトイレに行かせるのも上手なんですね。
- 糸井
- 怒らなくても行かせられるんですか?
- てぃ先生
- はい。うまい感じでうながして、
子どもたちが“よろこんだように”行くんです。
でも、新卒当時はやり方がわからなかったので、
上手にうながすことができない。
イヤイヤ言う子ばかりで、次第に
「どうやったら子どもに言うことを聞かせられるのか」
という思考になっちゃっていました。
- 糸井
- ああ、はい。
- てぃ先生
- トイレに行きたくないと駄々をこねる子には
「行かないとダメでしょ!」
と怒ってしまっていました。
怒れば言うことを聞いてくれるから。
- 糸井
- どのくらいの期間そうでしたか?
- てぃ先生
- 1年くらいです。
- 糸井
- 1年怒り続けるのはしんどかったですね。
- てぃ先生
- だからもう、夏ごろには
保育士を辞めようと思っていたんです。
向いていないから。 - でも、学校に通って保育士の資格をとったので、
かかったお金のことを考えるともったいないし、
幼児教育に関しては興味もあるし、
このまま終わるのは悔しいと思ったんです。
あと、1年間一緒にいた子どもたちにとって、
最後くらいはいい先生でありたいと思ったとき、
自分の中で後悔が残ったんですね。
- 糸井
- こんな感じで終わっていいのかなと。
- てぃ先生
- 怒鳴り続ける方法じゃなくて、
いいかたちで子どもたちと接したいと思ったとき、
あらためて勉強するしかない、と思ったんです。
- 糸井
- そこで、いまのてぃ先生につながっていくんですね。
- てぃ先生
- そうですね。
あの頃がなかったら、今の僕はいないです。
- 糸井
- どうやって勉強していったんですか?
先輩にやりかたを聞いたりしたんですか。
- てぃ先生
- 同じことを言ったとしても、
言う人によって受け取られ方が変わることって
たくさんあるじゃないですか。
正直、先輩保育士のマネをしても、
うまくいかないんだと気づいてしまって、
自分なりのオリジナルの方法を
編み出さないといけないと思いました。
- 糸井
- マネしているだけじゃうまくいかない。
- てぃ先生
- フォームが同じでも、
中身がなかったら届かないというんですかね。
オリジナルの方法を編み出すためにも
知識が必要になるんですけど、
僕は、月末は塩をなめて生きていたので。
- 糸井
- どうしてですか?
- てぃ先生
- お給料が少なかったんです。
- 糸井
- それくらいギリギリの生活だったんですね。
- てぃ先生
- はい。だから、本を買うお金もないので、
15時間くらい保育園で働いたあとに
夜遅くまで開いている本屋さんに駆け込んでいました。
立ち読みで申し訳ないですけど、
毎晩30分だけ気になった本を読むことを
1ヶ月くらい続けたんです。
- 糸井
- はあー、必死ですね。
- てぃ先生
- ギリギリの状況だったので。
- 糸井
- 本を読むと、仕事も変わっていきましたか?
- てぃ先生
- なんとなくコツというか、
「幼児教育ってこういうことなのかな」
というのが見えてきたんです。
たとえば、トイレに行ってくれない状況で、
それまでの僕は「どうやってトイレに行かせようか」と
言うことを聞かせる方法ばかり考えていました。
でも、そうじゃなくて
「どうしたらトイレに行きたくなるか」
を考えるようになったんです。
- 糸井
- 言うことを聞かせる方法ではなくて、
相手の気持ちを考えるような。
- てぃ先生
- そうですね。
そうすると、ご家庭の場合なら、
トイレにシールを貼っておいて
「今日はどんなシールか見に行こう」と
子どもがワクワクする方法を考えられるんです。
- 糸井
- なるほど。
ごきげんに食事をしてもらうために、
下にシートを敷くようなこと。
- てぃ先生
- まさにそうです。
たぶん、保育や子育ては
大人がやらせたいことを言い聞かせるのではなくて、
子どもがどうしたらやりたくなるかを考えることが
いちばん大事なんだと気づくことができて、
そこから一気に仕事が楽しくなりました。
- 糸井
- 本屋さんのおかげですね。
- てぃ先生
- ほんとにそうです。
本屋さんがなかったら、
保育士を辞めていたと思います。
- 糸井
- それはすごいことですよね。
学びって、
実践から学びなさいと言われることも
たくさんありますけど、
やっぱり本の知識も栄養になりますよね。
- てぃ先生
- 正直、本を手に取るまでは
机上の空論といいますか、
「役に立つことなんて書いてない」と
ちょっと斜めから見てたんですよ(笑)。
- 糸井
- 昔から同じ本ばかり読まれていたり。
- てぃ先生
- 昔の本なんて今の時代にあってないと、
思っているところはありました。
でも、読んでみると、あれもこれも、
「明日やってみよう」と思えるものばかりで。
- 糸井
- 立ち読み程度でも発見があったんですね。
- てぃ先生
- 僕が最初に受け持ったのが、
イヤイヤ期真っ盛りの2歳児クラスだったんですね。
それまでの僕は、言い聞かせる方法で
子どもたちと接していたんですけど、
本に「イヤイヤ期は選ばせてあげよう」と
書いてあったんです。 - そんな余裕どこにあるんだ‥‥って思いながらも(笑)、
翌日着替えをイヤイヤ言っている子どもがいたので、
これはやってみるか、と本の内容を思い出して。
「こっちの白い洋服とくまさんの洋服とどっちがいい?」
と言ってみたんです。そうしたら、
「こっち着る!」って機嫌よく着替えてくれたんです。
- 糸井
- おお。すぐに学びが活躍したんですね。
- てぃ先生
- はい。そこで今度は、
なんで選択式にすると子どもがよろこんで
着替えてくれるのかという、
要因も気になり始めたんです。
- 糸井
- なるほど。
- てぃ先生
- そうすると、また別の本が読みたくなって‥‥
というのをずっと繰り返していたら
自然と知識が増えていきました。
- 糸井
- もう、これで終わりにしてもいいくらい、
いい話ですね。
学びのよろこびがつまっている。
- てぃ先生
- ありがとうございます。
- 糸井
- 働いているときの感覚も変わりましたか?
- てぃ先生
- 今はもう、楽しさしかないです。
- 糸井
- そんなに変わっちゃうものなんですね。
ご自身の育ち方が
今に影響していることはありますか?
- てぃ先生
- はっきり言ってしまって
お母さんには申し訳ないですけど、
なんにもないです(笑)。
‥‥お母さん、ごめん!
- 糸井
- 私からも謝ります(笑)。
でも、おかげでてぃ先生になったんだから。
- てぃ先生
- そうですね。
- 糸井
- よくいますよね。
母親の料理がすごく下手だったから、
なにを食べてもおいしく感じる人が。
- てぃ先生
- それはあると思います。
僕は、お母さんに怒られた思い出しかないんですよ。
- 糸井
- 褒められたことはほとんどない?
- てぃ先生
- ‥‥ないですね。
あらためて考えてみてもないです。
- 糸井
- 褒め方が上手になってきたのって、
ここ最近ですよね。
自己肯定感という言葉がよく使われますけど、
昔は肯定感が高いと「調子に乗るな」と潰されてた。
- てぃ先生
- いい気になっていると
鼻をへし折られましたよね。
- 糸井
- そう思うと、
時代によって変化した教育もあれば
現在にも受け継がれている教育があるってことですよね?
- てぃ先生
- そうですね。
ふと、あるとき、
子どもは何歳くらいから嘘をつくんだろう
ってふと気になり始めたことがあったんです。
- 糸井
- 子どもの嘘っておもしろいですよね。
- てぃ先生
- 空想が入り混じっていて、
本人は嘘をついているつもりじゃないことも
ありますよね。
でも、嘘をつかない人はいなくって、
原因を知りたいと思って本で調べたんです。
そこで、『赤い家と青い家』という
おもしろい海外の研究を見つけたんですけど、
簡単に説明しますね。 - 猿が狼から逃げているんです。
猿が赤い家に隠れると、狼が子どもに、
「猿はどっちの家に入っていった?」と聞く。
そうすると、3~4歳くらいの子は
正直に「赤い家」と正解を言っちゃうんです。
- 糸井
- あー、言っちゃうんだ。
- てぃ先生
- でも、5歳以上になると、
「青い家」とウソをつくんですよ。
- 糸井
- へえー!
- てぃ先生
- なので、子どもが意識的に嘘をつけるのは、
だいたい5、6歳からだとわかるようになる。
そうやって、先人たちが研究してきたことで、
時代を越えても変わらない
人間の根本みたいな話はたくさんあります。
- 糸井
- それは知りたいなあ。
- てぃ先生
- 学んでいくとおもしろいことがたくさんあって、
それは教科書だけじゃわからなかったことだと思います。
(つづきます。)
2024-05-06-MON
-
子どもと猛獣になりきる!
てぃ先生の体改善ストレッチの本てぃ先生とストレッチ‥‥?
あまり想像できないかもしれませんが、
本を開いてみると納得です。
狩りをするチーター、吠えるライオンなど
トップトレーナーの監修のもとてぃ先生が考案した、
動物の動きをイメージしたポーズが25種類。
てぃ先生のユニークな表情に思わず吹き出しそうになり、
子どもと一緒にすぐマネしたくなります。
しかも、楽しみながら大人も運動できるという、
一石二鳥のおいしい本。
おすすめストレッチは「突進するダチョウ」です。