現役の保育士として働くかたわら、
専門的な知識を活かして、
子どもとの向き合いかたについて
メディアで発信しているてぃ先生。
対談のきっかけは、保育園に孫を通わせる娘を通じて
糸井が保育士さんのスゴさに気づいたことから。
子どもの成長に合わせて考えられた教育は
「大人にも同じことが言える!」ことだらけ。
いま、幼児教育に関心がある糸井が、
てぃ先生にさまざまな話を聞きました。
最後には、講義に参加された方々からの
子育てにまつわる質問コーナーもおとどけします。
てぃ先生(てぃ・せんせい)
現役の保育士でありながら、SNSの総フォロワー数が180万人を超えるインフルエンサーとして活躍。保育士としては日本一のフォロワー数である。その超具体的な育児法は斬新なアイディアにあふれていて、世のママパパから圧倒的な支持を得ている。著作に『てぃ先生の子育てで困ったら、これやってみ!』(ダイヤモンド社)、『猛獣ストレッチ 』(SYNCHRONOUS BOOKS) など。
- 糸井
- 続いて、質問がある方どうぞ。
- ──
- 僕は3歳の娘がいるのですが、
自分自身が親にやってもらって
よかったことを思い返したときに、
いちばん覚えていることが
「親が楽しそうにしている姿」だったんです。
なので、生まれてからは楽しく生きようと、
あらためて心がけるようになりました。
妻が保育士をしていて、
子どもを見ていると
そういう親の姿勢やスタンスがわかると
言っていたのですが、
てぃ先生も同じでしょうか?
- 糸井
- なるほど。
子どもは親の鏡みたいなことですかね。
- てぃ先生
- 僕自身も共感するところはあって‥‥
ちょっと話しはずれるかもしれないのですが、
保育園にやってくる朝の子どもの様子を見ていると、
家庭の様子がわかる気がします。
- 糸井
- 朝の子どもですか?
- てぃ先生
- 最近は保育園に着いたあと、
お部屋に入らず廊下でぼーっとしている子の
割合が全国的に増えている気がします。
僕の体感ですが。
- 糸井
- なにか廊下で、
考えごとでもしているんですかね。
- てぃ先生
- 僕もなんでなのかなあと思って、
いろいろ調べたり考えたりしたんですけど、
おそらく、朝バタバタしているお家が
多いんじゃないかと思うんです。 - みなさん、子どもの立場に立って
朝の様子を想像してみてください。
「早く起きて!早く早く!」と親に起こされて、
今度は「早くごはん食べて」「早く着替えて」と言われる。
全部済ませたと思ったら
「ほら、早く行くよ!靴を履いて!」と言われて。
保育園に着いたら「早く入って!早く靴脱いで!」と。
「早く」という言葉を、
朝だけで50回くらい言われている場合もあると思います。
- 糸井
- 急かされているんだ。
- てぃ先生
- 共働きのご家庭が多いので
しょうがないことだと思いますが、
「早く」と言われ続けた子どもは
保育園でやっとひと息つけるというか、
ちょっとぼーっとしたくなるのかもしれません。
そういう、家庭の生活リズムや様子が
子どもから見えてくることはありますね。
- 糸井
- 今の質問がいいなと思ったのは、
子どもにも影響することだから
なるべく楽しく過ごそうと思うんです、と
自分自身が変わりたいと仰ったじゃないですか。
そのスタンスはカッコいいですね。
- てぃ先生
- カッコいいですよね。
僕のSNSに、
自分がどれだけダメな親なのかっていう
反省文のような文章を
送ってくださる方が結構いらっしゃるんです。
今日も何度も子どもに叱っちゃいました、
無理やり言うことを聞かせちゃいました、と。
怒鳴ったあとに申し訳なくて、
子どもの寝顔を見ながら泣いています、
なんていうメッセージをいただくこともあって。
- 糸井
- それは、想像するだけで
胸が痛いですね。
- てぃ先生
- それが、ひとりだけじゃないんですよね。
そういうメッセージをくださる方が何人もいて。
- 糸井
- そうですか。
- てぃ先生
- 思うのは、それだけ子どものことを考えているんだから、
ダメな親とは決して思わないですし、
ちゃんと向き合おうとしているからこその
反省だなと僕は思います。
たしかに、見直す部分はあるかもしれませんけど、
子育て全部を否定しなくていいと思うんです。 - そういう意味だと、
子どもの前で楽しく振る舞う心がけも素敵ですが、
自分を大事にすることも
忘れないでほしいなと思います。
- 糸井
- ああ、なるほど。
- てぃ先生
- 親御さんって自分よりも子どものことを
優先しがちなんですよね。
たとえばお風呂上がりの子どもって、
すぐ保湿をしてもらうから潤っているけれど、
親は子どもの世話を優先するからガサガサ。
子どものためを思っての行動だったり、
子どもがジッとしていないから
仕方なかったりするんだと思いますけど、
僕はこれが逆でいいと思っています。
- 糸井
- 子どもじゃなくて親を先に。
- てぃ先生
- その時の状況で、
乾燥がつらいなら親が先でもいいですよね。
お昼ごはんを決めるときに、
子どもが「うどん食べたい」と言えば、
親は「また麺か」と思いながら
子どものリクエストに合わせるじゃないですか。
- 糸井
- ありますよね。
また、それ食べたいんだっていうのが。
- てぃ先生
- 子どもの食べたいものばかり優先させなくても、
状況によっては自分が食べたいもので決めてもいい。
親が幸せそうに食べていたら、
自然と子どもも笑顔になるんじゃないかって。
- 糸井
- 親自身が満足している状態も
大事だっていうことですか。
- てぃ先生
- まさにそうだと思います。
よく話すたとえで「シャンパンタワーの法則」
という子育ての理論がありまして、
一番上のグラスが自分自身、
二段目や三段目に子どもやパートナーなど、
大切な人たちが順々に並んでいくイメージなんですけど。
「子どものため」と思いすぎる親御さんって、
一番上のグラスには一滴もシャンパンを注がずに、
二段目に直接注ぐんですよ。
- 糸井
- はい。
- てぃ先生
- 最初は、それでもいいんです。
家族が幸せそうだと
自分も幸せに感じられることってありますから。
でも、あるとき急に、
自分のグラスに一滴も注がれていないと気づくと、
とたんにつらくなってきて、
「子どものため」が「子どものせい」に
なってしまうことがあるんです。
仕事を辞めたのも「子どものせい」。
自分の時間がないのも「子どもや家族のせい」と
考える悪循環に入ってしまう。
- 糸井
- 想像がつきますね。
- てぃ先生
- 理想論ではありますけど、
意識的に一番上にある
自分のグラスからシャンパンを注いで、
溢れたものが家族に行き渡るように意識すると、
最終的にうまくいく気がします。
多くの親御さんが、
自己犠牲の精神が強いですし
社会も求めがちなんですよね。
でも、もっと自分を満たすことが、
大切だと知ってもらいたいです。
- 糸井
- それはどんなことにも言えますね。
自己犠牲っていうのを持ってしまうと、
必ずろくでもないことになる気がします。
自分を殺して他人のために動くことを
みんなは褒めたがるけれど、
続けていると自分がもたないんです。
- てぃ先生
- そうだと思います。
ネグレクトですとか極端な例は除きますけど、
もっと自分のことを率先して
幸せにしようとしている親御さんを、
認められる世の中になってほしいと思います。
- 糸井
- 親かどうか関係なく、
「自分にとって幸せだと感じられることはなんだろう」
と考えたことがあるかないかは、
とても大事だと思うんです。
- てぃ先生
- 自分のダメなところばかり
探そうとしちゃいますよね。
とくに子育て中の方に多い気がします。
- 糸井
- もっと褒めていいですよね、自分を。
- てぃ先生
- 小さなことですけど、
子どもって狙ったかのように
テーブルの端に飲みかけのコップを置くんですよ。
- 糸井
- ぜったいこぼす位置に(笑)。
- てぃ先生
- 親はすぐ気がつくから、
無言でコップの場所を直すこともあって、
それはやさしさですよね。
納得いかないことばかり思い出すけれど、
それ以上に親としていい部分もあるはずなので、
そういう気づきを積極的に探す時間を
つくることも大事だなと思います。
- 糸井
- 自分を満たすことを大事にするっていう意味では、
もう、台所で先においしいものを
食べながら料理してても全然いいですね。
- てぃ先生
- それで思い出したんですけど、
僕が出会った中で
日々めちゃくちゃ幸せそうなママがいて、
その方に一回聞いたことがあるんですよ。
「子育てが楽しそうに見えるんですけど、
意識されていることはあるんですか?」って。
そうしたらまさに、
「私はごはんをつくっているとき、
子どもに内緒で冷蔵庫に頭をつっこんで
ケーキを食べてます」って。
- 糸井
- やっぱり、先人がいますね。
- てぃ先生
- 自分を満たすことが大事なんだ、
というのをすごく感じました。
- 糸井
- どんなことにも言えますよね。
楽しくないことをしていると、
外にも伝わっちゃいますから。
- てぃ先生
- 親の機嫌を子どもはよく察知してますからね。
- ──
- 私には4歳の娘がいるのですが、
登園しぶりが続いています。
転園して1年が経つのですが、
小さな園から大きな園に変わって
緊張しがちな様子が続いていて、
今は私自身も仕事をお休みさせてもらって
子どもと過ごしています。
日によっては、2時間くらい玄関で
向き合うこともあるのですが、
お休みを決めると1週間行かないことも。
このままでいいのだろうかという気持ちと、
娘と向き合っている自分を認めたい気持ちと、
私の中で波がありまして、
てぃ先生の意見を聞けたらうれしいです。
- てぃ先生
- なるほど、ありがとうございます。
これはいろんな考え方があると思いますし、
子どもによって全然対応が違うと思いますが‥‥
4歳になると自分の意思が強くなる時期なので、
無理に行かせると子どもが心理的につらくなる、
というのはあるかもしれないです。
ただ、保育園に預けている人のほとんどは、
預けざるを得ない状況だと思うんです。
- 糸井
- お仕事をしている人がほとんどですもんね。
- てぃ先生
- なので、ずっと融通をきかせられないですよね。
もしかしたら、仕事を辞めることも選択肢に
あがってくるかもしれません。
もちろん、それも一つの選択肢ですが、
僕自身は子どもも家族の一員だと思うので、
最優先にしなくていいと思っています。
子どもの気持ちもわかるけれど、
通ってもらわないと困る状況ならば、
「行く」と決めてしまったほうが
子どもも気持ちがかたまっていくかもしれません。 - 今は、お子さん自身も揺らいでいると思うんですよね。
今日は連れて行かれるかもしれない、
明日は休めるかもしれないと。
行くなら「行く」と決めてしまったほうが、
子どもも心に決めて、
すこしずつ変わっていくかもしれません。
ただ、ご家族としての意思がいちばん大事だと思います。
- ──
- はい。
- てぃ先生
- 玄関前で2時間向き合っていると
おっしゃられていましたけど、
ちょっとずつ距離を縮めていくのも策だと思います。
今日は玄関まで、家の前のポストまで、信号まで、と
少しずつ距離を伸ばしていく。
保育園の前まで行けたら「行けた」という
達成感と満足感が得やすいですし、
徐々に気持ちが切り替わっていくと思います。
いきなり保育園に行くのではなくて、
小さなゴールを小刻みに設定しておいて、
達成感を味わえるといいですよね。
最後にそもそもの話ですが、
行きたくない大きな理由があるかもしれないので、
それは保育園側と相談しながら探っていけるといいですね。
それさえクリアできれば行きたくなるのかもしれませんから。
- ──
- ありがとうございます。
- てぃ先生
- とんでもないです。
- 糸井
- おもしろいですね、
仕事でもよく言いますよね。
- てぃ先生
- そうですね。
わりと僕自身も細かいゴールを設定しておいて、
ちょっとずつ達成していくことは
やっているかもしれないです。
- 糸井
- ありがとうございます。
時間がきてしまったのでこれくらいになるんですが、
今日は自分も学び直す感じがありました。
- てぃ先生
- ほんとうですか。
- 糸井
- てぃ先生と話していると、
子どもの話はほとんどが大人にも通じると思いました。
根本は同じことを語っているはずで、
人が自立していくというのは
年令を重ねても通じるものがあるんだと思いました。
すごく楽しかったです。
- てぃ先生
- ありがとうございました、
こちらこそ楽しかったです。
(終わります。)
2024-05-10-FRI
-
子どもと猛獣になりきる!
てぃ先生の体改善ストレッチの本てぃ先生とストレッチ‥‥?
あまり想像できないかもしれませんが、
本を開いてみると納得です。
狩りをするチーター、吠えるライオンなど
トップトレーナーの監修のもとてぃ先生が考案した、
動物の動きをイメージしたポーズが25種類。
てぃ先生のユニークな表情に思わず吹き出しそうになり、
子どもと一緒にすぐマネしたくなります。
しかも、楽しみながら大人も運動できるという、
一石二鳥のおいしい本。
おすすめストレッチは「突進するダチョウ」です。