現役の保育士として働くかたわら、
専門的な知識を活かして、
子どもとの向き合いかたについて
メディアで発信しているてぃ先生。
対談のきっかけは、保育園に孫を通わせる娘を通じて
糸井が保育士さんのスゴさに気づいたことから。
子どもの成長に合わせて考えられた教育は
「大人にも同じことが言える!」ことだらけ。
いま、幼児教育に関心がある糸井が、
てぃ先生にさまざまな話を聞きました。
最後には、講義に参加された方々からの
子育てにまつわる質問コーナーもおとどけします。
てぃ先生(てぃ・せんせい)
現役の保育士でありながら、SNSの総フォロワー数が180万人を超えるインフルエンサーとして活躍。保育士としては日本一のフォロワー数である。その超具体的な育児法は斬新なアイディアにあふれていて、世のママパパから圧倒的な支持を得ている。著作に『てぃ先生の子育てで困ったら、これやってみ!』(ダイヤモンド社)、『猛獣ストレッチ 』(SYNCHRONOUS BOOKS) など。
- 糸井
- 今日は質問がある方が多いと思うので、
質疑応答を受けてもいいですか?
- てぃ先生
- もちろんです。
- 糸井
- 質問がある方はいますか?
- (たくさん手があがる)
- 糸井
- おおー、うれしいですね。
いくらでも聞きたいことがありますよね。
どうぞ、担当の者がマイクを持っていきます。
- ──
- うちの子どもが保育園でやった
節分の豆まき以来、
鬼がどうやら怖いみたいで、
自宅でも「鬼? 鬼?」と
怖がっているんですね。
大丈夫だよ、といくら言っても
毎日のように心配していて。
なのに、YouTubeで鬼を見たがるんです。
- てぃ先生
- そういう矛盾した行動ってありますよね。
- ──
- 小さな子どももいるので、
なかなか抱っこすることができなくて、
でも、怖がっている期間が長いので
どうこの感情と向き合えばいいのかな
と悩んでいます。
- てぃ先生
- まず、先にお話しすると、
節分で保育園に鬼が来るという
やり方は近年見直されています。
- 糸井
- そんな気がする(笑)。
- てぃ先生
- 文化を大事にする観点も必要なんですが、
一方で、それが原因で保育園に行きたくない
という子どもも多いんですよ。
- 糸井
- 保育園に行ったら、
鬼がいるかもしれないって思いますもんね。
- てぃ先生
- そうなんですよ。
なので、イラストの鬼にしたりして、
やり方が工夫されてきています。
なので、もしほんとうに怖がっていたら、
保育園の先生に状況を伝えてみてください。
怖い、という感情について話すと、
わざわざ怖いものを自ら見ようとするのは、
子どもの行動としてよくあることなんです。
- 糸井
- どうして見ようとするんですか?
- てぃ先生
- それは、怖いものを見て笑うことで、
自分の恐怖を忘れようとしていることが大きくて。
日本は地震がよくありますけど、
子どもが地震の後によく「地震ごっこ」をするのは、
「揺れてる! 揺れてる!」と友だちと騒いで、
遊ぶことによってつらい体験を楽しいものに
変えようとする心理からきていることが多いです。
- 糸井
- へえー。わかる気もしますね。
- てぃ先生
- なので、怖がっている子どもが、
鬼を見たいと言うならば
付き合ってあげていいと思います。
ただ、「大丈夫」と安心させるような
声かけもいいんですが、
こういうときはまず共感することが
大事かなと思います。
- 糸井
- 共感ですか。
- てぃ先生
- お仕事の場面で想像してもらうと、
自分が責任重大な仕事を任されたとき
不安でいっぱいな中で上司から、
「大丈夫、大丈夫」とずっと言われても、
ちょっとイラッとするじゃないですか。
無責任だなあって思うというか。
- 糸井
- 思います(笑)。
- てぃ先生
- そうではなくて、
「その気持ちわかる。
僕もこういうことがあって、
不安だったし大変だよね。
でも、こうしたら大丈夫だよ」と
共感したうえで安心させてくれたほうが、
説得力があるんですよね。
- 糸井
- ああ、なるほど。
- てぃ先生
- 全部がそううまくはいかないんですけど、
子どもが繰り返し伝えてくるのは、
親に自分の気持ちが伝わっていないんじゃないか
という不安からくることもあるんです。 - たとえば子どもが、保育園に行きたくない、と
駄々をこねるとき。
行きたくないと伝えても、親は
「でも、保育園に行けばお友だちもいるよ」
「でも、おいしい給食が食べられるよ」と
気持ちをそらす方向で説得しようとします。
でもそれは、子ども目線で考えると、
自分の気持ちをわかってもらえていないと思っちゃう。
それで、何度も「行きたくない!」と
繰り返すことになってしまうんです。
なので、「そうなんだね」と相手の言葉を認めたうえで
ポジティブな方向に意識を向かせてあげるほうが、
伝わり方はぜんぜん違うと思います。
- 糸井
- 間に共感を挟むことが大事なんですね。
- てぃ先生
- はい、それが絶対大事です。
- 糸井
- それは大人同士のコミュニケーションでも
通じることですよね。
わかってもらえるとうれしいじゃないですか。
- てぃ先生
- 大人に置き換えたときに、
「あの洋服かわいいね」って伝えたら、
「かわいいね」とか「似合いそうだね」とか
そういう返しがうれしいわけじゃないですか。
もっとこっちが似合うんじゃない、
という意見はその後に付け加えてもらえばよくて。
- 糸井
- おもしろいですね。
僕も学び直している感じがします。
- ──
- 孫が1歳を過ぎたばかりなのですが、
できることが増えている時期で
本人がすごく楽しそうなんですね。
それを見ていると「この人の今の楽しさを
邪魔しなければ勉強も働くことも楽しい人になれる」
と思うんですけれど、
そのためには否定しないことが大事かなと思っていて。
ただ、甘やかしてばかりもよくないと思い、
叱るべきラインがあれば教えてもらいたいです。
- てぃ先生
- ありがとうございます。
僕は、ケガや命に関わるような場面では
はっきり、ピシッと言います。
その子の気持ちを聞いたり、まわりくどくせず、
「やめよう」とその場でしっかり言う。
その代わり、その話を繰り返さないです。
- 糸井
- 思い出して、翌日話したりはしない。
- てぃ先生
- しませんね。ダラダラ話さないです。
- 糸井
- 守ってほしいことを伝えるのって、
難しいですよね。子どもはいたずらだから。
- てぃ先生
- しつけに関して海外のおもしろい研究があって、
何歳くらいから子どもはしつけを理解しているのか、
という研究があるんです。
0歳から6歳までの異年齢の子どもを部屋に集めて
「このおもちゃは触らないでね」と
大人が説明をして部屋を出ていくんですね。
すると、子どもはすぐ触るんです。
- 糸井
- そうなんですね(笑)。
- てぃ先生
- 説明した人が急に戻ってくると、
1歳半以上の子どもの多くはピタッと触るのをやめます。
でも、1歳4ヶ月くらいまでのお子さんは
気にせず触り続けたんです。
- 糸井
- しつけがわかるようになるのは、
1歳半くらいからってことですか?
- てぃ先生
- 1歳半を越えると、
ルールを理解しようとしたり守ろうとしたりする
感覚が生まれるそうです。 - ただ、ルールを守ってもらうために
ダメなことを指摘するんじゃなくて、
良い状態の時に褒めよう、という意識が大人側に必要です。
- 糸井
- これはダメ、ではなくて、
こっちならいいよ、みたいなことですか。
- てぃ先生
- ひとつだけ試してもらってもいいですか?
みなさん、30秒目をつむってください。
僕はみなさんと一つ約束をしたいと思います。
約束です、
絶対にパンダを想像しないでください。
パンダを想像したら、絶対にダメです。
約束ですよ。パンダを想像しないでください。
- ──
- ‥‥(目をつむっている)
- てぃ先生
- はい、目を開けください。
たぶん、全員パンダを想像しましたよね?
- ──
- (笑)。
- 糸井
- 想像しました。白状します。
- てぃ先生
- 子どもに伝えるときも同じことが言えて、
「走ったらダメ」と言われたら走るが連想されるし、
「パンダを想像しないで」
と言われたら想像しちゃうんです。
パンダを想像してほしくないなら
他の動物の名前を言えばいいだけなんですね。
なのに、わざわざダメなことを言うから、
そっちが思い浮かんでしまうんですよね。
「走っちゃダメ」じゃなくて「歩こうね」がいいですね。
- 糸井
- なるほど。
- てぃ先生
- それじゃあつまらないなら、
「ぞうさんみたいに歩いてみよう」とか、
興味を持ってもらえるように工夫してみる。
そうやって、どうやって走らせないかではなく、
どうやったら歩きたくなるか、の方に
考えをシフトするといいと思います。
- 糸井
- いい方に目を向けるっていうのは、
大人にも同じことが言えますね。
恋愛だって人間関係だって、
いい方に目を向けることが大事なわけだから。
- てぃ先生
- 言われてみればそうですね。
(つづきます。)
2024-05-09-THU
-
子どもと猛獣になりきる!
てぃ先生の体改善ストレッチの本てぃ先生とストレッチ‥‥?
あまり想像できないかもしれませんが、
本を開いてみると納得です。
狩りをするチーター、吠えるライオンなど
トップトレーナーの監修のもとてぃ先生が考案した、
動物の動きをイメージしたポーズが25種類。
てぃ先生のユニークな表情に思わず吹き出しそうになり、
子どもと一緒にすぐマネしたくなります。
しかも、楽しみながら大人も運動できるという、
一石二鳥のおいしい本。
おすすめストレッチは「突進するダチョウ」です。