現役の保育士として働くかたわら、
専門的な知識を活かして、
子どもとの向き合いかたについて
メディアで発信しているてぃ先生。
対談のきっかけは、保育園に孫を通わせる娘を通じて
糸井が保育士さんのスゴさに気づいたことから。
子どもの成長に合わせて考えられた教育は
「大人にも同じことが言える!」ことだらけ。
いま、幼児教育に関心がある糸井が、
てぃ先生にさまざまな話を聞きました。
最後には、講義に参加された方々からの
子育てにまつわる質問コーナーもおとどけします。
てぃ先生(てぃ・せんせい)
現役の保育士でありながら、SNSの総フォロワー数が180万人を超えるインフルエンサーとして活躍。保育士としては日本一のフォロワー数である。その超具体的な育児法は斬新なアイディアにあふれていて、世のママパパから圧倒的な支持を得ている。著作に『てぃ先生の子育てで困ったら、これやってみ!』(ダイヤモンド社)、『猛獣ストレッチ 』(SYNCHRONOUS BOOKS) など。
- 糸井
- どこかの時期からか、
子どもの教育で大切なことは、
目に見える価値が
中心になってきましたよね。
英語ができるだとか、踊れるだとか。
- てぃ先生
- めちゃくちゃわかります。
その話をしていいんだったら、
あと2時間ください。
- 糸井
- (笑)。
やっぱりてぃ先生も気になっていましたか。
- てぃ先生
- 気になっていました。
僕が最近とくに気になっているのは保育園探し、
いわゆる「保活」のときですね。
まさに、保活でその状況が起こっていて、
保育の中身ではなくて、
英語をやってくれたり体操をしたり、
家の近くまで送り迎えしてくれたり、
そういう目に見えるサービスの充実度で
園の価値を測ろうとする方が
多くなっていると思います。
これは、もったいないです。
- 糸井
- 商品価値でみているってことですよね。
買い物をするときと同じように、
お金を払うだけの価値があるかどうかで決める。
「コスパ」っていう言葉がありますけど、
保育園も幼稚園も
コスパで選ばれている気がします。
- てぃ先生
- これは親御さんたちが決して悪いわけではなくて
わからないんですよ、
保育園がやっている保育の中身が。
- 糸井
- 見学に行っても見られないものですか?
- てぃ先生
- そうですね‥‥園にもよると思いますけど、
見学といっても園の中を見て回れるのは
30分程度なので、
保育の中身までわからないと思います。
なので、雰囲気や先生の表情などで
判断するしかないんですよね。
ホームページを見ても、どこの園も
「子どもの主体性を重んじます」とか
「食育を大事にしています」とか書いてますから。
- 糸井
- あたりさわりのないことを(笑)。
- てぃ先生
- ただ、それでも、
目に見える価値を優先するより、
現場で働いている保育士たちを見てもらいたいです。
- 糸井
- 保育士さんのどんなところを見ればいいですか?
- てぃ先生
- 正直な話、保育士に余裕があれば、
いくらでもいい保育や活動ができるんです。
余裕があるからいい保育の準備ができる。
余裕がないと、最低限のことで手一杯になって
結果的にいい保育にはならないと思います。
非常に感覚的な話しになりますが、
働いている保育士の表情や様子、
子どもたちの様子で感じてもらうことが
大事になると思います。
フィーリングって意外と正しいですから。
- 糸井
- やっぱり、保育士さんが余裕を持つには
人を増やすしか方法はないんですか?
- てぃ先生
- 人が増えるのがいちばんいいですけど、
すぐには難しいですよね。
なので、最近は保育士の負担を減らすために、
細かい見直しがされている園が多いです。
例えば壁のお飾りは最低限にしていたり、
連絡帳やタイムカードはデジタルになっていたりだとか。
他にもいろいろあります。
- 糸井
- 準備する手間が省けるから。
- てぃ先生
- そうですね、
準備をする時間を減らして、
子どもと遊ぶ時間にあててもらう。
そもそも、あたり前に行われている行事も、
必要なのかという問いかけから
はじめたほうがいいと思います。
運動会で0歳児の子が
ハイハイレースをするじゃないですか。
- 糸井
- お母さんやお父さんに向かって、
ハイハイするやつですね。
- てぃ先生
- 親御さんはそれを見て
かわいいって思うかもしれないんですけど、
子ども目線で考えると地獄なんですよ。
自分の大好きなママとパパから
無理やり引き剥がされて、
なぜか押さえられて、
ほぼ全員、号泣しながら
親元に行くんですよね。
「あれはなに?」という感じがしませんか。
- 糸井
- よくよく考えたら、そうですね(笑)。
- てぃ先生
- 壁の飾りやハイハイレースはもちろん、
「これは何の為に必要なんだろう?」
ということの全てを考え直してみると、
そのぶん保育士たちに時間ができて、
日常の保育が充実していくと思います。
行事が多い、室内がよく飾られている=いい、
ではないことを知ってもらいたいですね。
- 糸井
- ということは、先生方が元気かどうかとか、
表情や雰囲気が大事ということですか。
- てぃ先生
- 僕はそうだと思います。
- 糸井
- それは思い当たる節がありますね。
食事に行ったときに、
店主が不健康そうでウマい店って
なかなかないんですよ。
- てぃ先生
- 言われてみればたしかに(笑)。
- 糸井
- たまに、いつも厨房で喧嘩ばっかりしてるけど、
ウマい店ってあることはあります。
あれは家族という安心感によって
喧嘩しているだけ。
僕が個人的に「劇場」とよんでいる
ウマい店があるんですけど、
いつも厨房で家族ケンカしているんです。
僕はそれを観光する気持ちで行きますから。
- てぃ先生
- 怒鳴りあっているシチュエーションを
観劇しに。(笑)。
- 糸井
- でも、表情がいい、健康そう、というのは
ひとつのキーワードな気がします。
- てぃ先生
- 表情がいい先生が多いと、
子どもにも伝播しますからね。
- 糸井
- てぃ先生も健康そうに見えますよね。
忙しい毎日だと思いますけど、
今はどういう日々を過ごしているんですか?
保育をしたり、本を書いたり、
あとはネット上でも相談を受けたりですか。
- てぃ先生
- おもに育児に関わる仕事すべてを請け負っていますが、
いまは全国で50園くらいの
保育園のアドバイザーをしています。
あとは、テレビに出させていただいて、
親御さんの悩みに答えることも多いですね。
- 糸井
- その数をこなしているのは、すごいですね。
- てぃ先生
- いやいや、一生懸命やるのみです。
- 糸井
- でも思いだけではこなせないと思いますよ。
心がけていることや習慣はあるんですか?
- てぃ先生
- あー‥‥ないです。
- 糸井
- ない。
- てぃ先生
- そうですね‥‥
毎日整腸剤を飲んでいるくらいです。
- 糸井
- お腹の薬を。
- てぃ先生
- それくらいですね。
- 糸井
- でも、ずっと楽しそうだから、
嫌だなあと思うことに対して
察知する能力を持っているんじゃないかと。
- てぃ先生
- ああ、それで言うと僕は
やりたくないことはやらないです。
- 糸井
- それは、僕もけっこう近いです。
- てぃ先生
- ほんとですか。
僕は全部断っています、やりたくないことは。
やりたくないことをやるのは、
保育園の中だけと決めているので。
- 糸井
- 保育園ではあるんですね。
- てぃ先生
- ありますね、組織仕事なので。
- 糸井
- やりたくないことがあったとしても、
どうしたらもっと楽しく働ける場所になるのか、
ということについては、
てぃ先生はどうお考えになっていますか?
- てぃ先生
- 僕自身がやっていることは、
ほとんど保育士の負担軽減なんですよ。
- 糸井
- さっき話していた、
飾りやハイハイレースのような。
- てぃ先生
- まさにそうですね。
園によって合う合わない、があるので、
これといった具体的な方法は
伝えられないんですけど、
あれこれ方法を模索しながら
保育士の負担を軽減させることが
楽しく働くために大事だと思っています。
- 糸井
- 余裕を持たせるためにも。
- てぃ先生
- そうですね。
保育士の持っている子育ての知識が
存分に発揮できるような環境になることで、
いい園になっていくと思うんです。
なので、僕は負担軽減を徹底して工夫しています。
今、勤めている園も、
僕が入ってから7割くらい書類が減りました。
- 糸井
- 7割もなくせるものですか。
- てぃ先生
- 監査をきちんと通ることや、
実務とのバランスをギリギリまで調整をして。
結果的に、今うちの園は人が充実してます。
- 糸井
- そうやって働き方の工夫をしている会社に、
就職希望者は増えますよね。
- てぃ先生
- ありがたいことですね。
- 糸井
- 保護者の方も大変な状況を
心配している人もいるんじゃないですか?
- てぃ先生
- 保護者の方から
「なにかできることはありませんか」と
声をかけてくださることもあります。
ですが、実際には声を上げていただくとか、
国の法改正に関心を向けてもらうだとか、
そういうことしかなくて。
- 糸井
- 飾りを手伝いたいっていう人もいるでしょう。
- てぃ先生
- それもありがたいんですが、
なかなか実務だとお願いできることがないんです。
でも、国に声を上げるのは難しいじゃないですか。
なので、ちょっと泥臭い話ですけど、
気になることは親御さんから園長先生に
言っていただくのがいちばん効果があります。
- 糸井
- 園長先生に直接ですか?
- てぃ先生
- 会社でもよくあることだと思うんですけど、
クラスの担任が上司に言っても
なかなか聞いてもらえないけれど、
保護者の意見で園長先生が変わることは
よくあるんですよ。
- 糸井
- 誰が言うのか、っていうのは大事ですよね。
- てぃ先生
- 政治的な動きは難しくても、
みなさんが通っている園で言ってもらうだけで、
変わる保育園はずいぶん増えるはずです。
- 糸井
- なるほど。
それだけ、負担軽減によって、
気持ち的な余裕が全然変わってくるんですね。
- てぃ先生
- 全然違いますね。
(つづきます。)
2024-05-08-WED
-
子どもと猛獣になりきる!
てぃ先生の体改善ストレッチの本てぃ先生とストレッチ‥‥?
あまり想像できないかもしれませんが、
本を開いてみると納得です。
狩りをするチーター、吠えるライオンなど
トップトレーナーの監修のもとてぃ先生が考案した、
動物の動きをイメージしたポーズが25種類。
てぃ先生のユニークな表情に思わず吹き出しそうになり、
子どもと一緒にすぐマネしたくなります。
しかも、楽しみながら大人も運動できるという、
一石二鳥のおいしい本。
おすすめストレッチは「突進するダチョウ」です。