生理はじぶんの身体のことを知る
大切な機会だと、甲賀先生は話します。
中学の保健体育で習って以来、
生理について学んでいない人も多いはず。
あらためて知ることで、
毎日を心地よく過ごせるヒントが
隠されているかもしれません。
東京大学医学部付属病院で、
子宮内膜症外来などを担当されている
産婦人科医の甲賀かをり先生に
「生理の基本」を教えていただきました。
大事なお話がたくさんつまっています。
甲賀かをり(こうが・かをり)
東京大学医学部附属病院産婦人科准教授。
千葉大学医学部を卒業。三井記念病院産婦人科、
国立霞ヶ浦病院産婦人科、
武蔵野赤十字病院産婦人科を経て、
豪州プリンスヘンリー研究所・米国イエール大学へ留学。
現職に就かれています。
- ─
- 甲賀先生、はじめまして。
リモートでの取材になりますが、
どうぞよろしくお願いします。
- 甲賀
- よろしくお願いします。
- ─
- 甲賀先生が以前、インタビューで
「生理痛は重要なサインです」と
おっしゃっていたのをよみました。
生理はじぶんの身体について知れる、
チャンスなんじゃないかと。
- 甲賀
- はい、まさにそうだと思います。
- ─
- なので、あらためて生理を学ぶことで、
心地よく過ごすヒントが
みつかるのではないかと思いました。 - 正直、生理について真面目に学んだのは、
中学校の保健体育以来でして……。
そもそも生理とはなにか、
生理痛はなぜあるのか、
セルフチェックの方法など、
生理の基本的なことを
教えていただけたらと思います。
- 甲賀
- わたしもお伝えしたいです。
- ─
- 生理の現状が、
女性の社会進出や出産の高齢化など
時代の変化とともに、
変わってきていると聞きました。
実際のところはどうなんでしょうか?
- 甲賀
- 初経の年齢が早くなり、
閉経の年齢が遅くなっていると言われています。 - そして、女性が一生のうちに経験する生理の回数が、
昔の女性に比べて増えているという
データも発表されています。
それは身体に問題があるわけではなく、
一人あたりの出産回数が圧倒的に減ったからです。
- ─
- 妊娠中はもちろんですが、
授乳中も生理が来ないことが多いですもんね。
- 甲賀
- はい。個人差もありますが、
期間にして1年半ほど生理がこない方が多いです。
昔は5、6人産んでいる方もいましたから、
生理が来ないほうが、
あたり前だったかもしれません。 - ですが、現在は子どもを産んでも1人か2人。
子どもを持たない選択をされる方もいます。
なにも問題がなければ毎月生理は来ますから、
当然一人あたりの生理回数は増えますよね。
- ─
- そうすると、生理痛や婦人科系の病気に
悩まれている方も増えているのでしょうか?
- 甲賀
- 物理的に生理の回数が増えていて
生理期間も長くなっているので、
生理痛の罹患率や
婦人科系の病気の発症率は上がっています。
子宮内膜症は、生理の回数が多いほど
罹患率が高くなる病気ですしね。 - みなさんの印象だと、
毎月生理が順調に来ていることは
健康の証だと思われていますよね。
- ─
- はい、そうですね。
- 甲賀
- たしかに健康の証ですが、
毎月生理があるということは、
身体に大きな負担をかけているんです。
- ─
- 生理痛がひどくて、
立ち上がれないほどの方もいますから、
身体に負担をかけている感覚はわかります。
- 甲賀
- そもそも、生理がなぜあるのか
考えたことはありますか?
- ─
- ぼんやりとしか……。
- 甲賀
- 生理というのは、
子どもを妊娠・出産するための身体の準備です。
受精卵を迎えるための準備をはじめた子宮の内膜に、
ふかふかの分厚いベッドがつくられます。
しかし、着床しなければ、
子宮内膜のベッドがはがれ落ちて経血となり、
生理がはじまります。
- 甲賀
- 女性の身体のつくりとしては
昔の人のように生理が来ない期間があって、
卵巣や子宮を休ませる状態が続く方が
自然な状態なんです。 - 毎月生理が来て、妊娠の準備はするけれど、
その機能を行使しないまま過ごすことは
相当身体に無理をさせているんです。
- ─
- そうなんですね。
あの、海外だと「ピル」を服用して、
生理の回数を減らす工夫をされている印象があります。
- 甲賀
- そうですね。
海外は日本よりも、
生理をマネジメントする意識が高いと思います。
- ─
- 生理を、マネジメント?
- 甲賀
- 欧米では自分のキャリアアップを視野に入れて、
ピルで産みたいとき/産みたくないときを
自発的にコントロールすることが
推奨されています。
だから、ティーンエイジャーの頃から
ピルについて学んでいるし、
仕事のパフォーマンス維持のために
ピルを服用することは当然のこと。
- ─
- たとえば、ピルを服用するのは
どういったタイミングなんでしょうか?
- 甲賀
- 大事な仕事があって、生理でつらくなりたくないときや、
キャリアアップができそうな時期です。
「明日は大事な日だから仕事がんばるぞ!」
と思っているのに生理がきたら、
精神的にも身体的にもしんどいですよね。
- ─
- そういう状況、よくあります。
- 甲賀
- 生理によって体調の変化に気づくというのは、
女性として適切な態度だと思います。
ですが、生理によってじぶんの人生をうまく
過ごせないことはストレスになる。 - 副作用もあるので医師の指示のもと
服用いただきたいですが、
薬=悪ではなく、むしろ、
ピルで子宮を休ませておくことは
身体にとっていいこともあると知ってほしいです。
- ─
- いろいろな生き方があるなかで、
たとえば子どもを持つことを考えていない場合、
長い期間生理を止めておいても
いいものなのでしょうか?
- 甲賀
- ピルは使用年齢が決まっているので、
規定内であればいいと思います。
子どもを何人も産んでいた昔の方も、
生理が何年もなかったわけですから、
長い間生理を止めているような状態ですしね。
- ─
- 「わたしは10年止めよう!」と決めたならば、
それでいいんじゃないかと。
- 甲賀
- そうですね。
医師と相談していただいて、
決めたことであれば。 - 生理は身体から毒素を排出する、なんて話も
よく耳にしますが、それも正しくありません。
「生理の都市伝説」ってたくさんあるんです。
- ─
- 自然なことがいいこと、という認識はありますよね。
だから、日本だとピルが普及していない印象です。
- 甲賀
- 生理は、妊娠出産の準備をするためのもの。
子宮をピルで休ませても、
身体に悪影響ではないんです。
ただ、気をつけてほしいのは、
妊娠も授乳も、ピルも服用していないのに
生理が止まっているのは危ない。
それは、ほっておいてはダメです。
- ─
- 病院を受診しないといけませんね。
- 甲賀
- じぶんの身体のことなので、
自然現象に任せて思考停止しないでほしいです。
どんな人も生理に気を遣ってほしい。
じぶんの生理を記録して、状態を知って、
身体のことを考えてほしいです。
- ─
- 最近、生理の感じが急に変わってしまって、
生まれてはじめて
レディースクリニックを受診したんです。
そうしたら先生に、
「子宮内膜症のこと知ってる?」と聞かれて。
ぜんぜん知らなかったんです。 - 思い返すと、
小学生で生理のことを教えてもらった以来、
生理について調べたり友人と話したりする機会って
なかったなと思いました。
- 甲賀
- そうした状況は、今も昔も変わっていませんね。
実は、生理について
「何年生でここまで話しましょう」という
指導要領が国で制定されていません。 - 医学やテクノロジーが進化しても、
学ぶ内容はずっと変わっていない。
女の子たちだけがこっそり集められて、
生理の話は公にしないもの、
みたいなイメージが植えつけられてしまう。
日本の性教育リテラシーは低いままです。
- ─
- 今の話だけでも生理に対する考え方が変わったので、
もっと知りたいと思いました。 - ※2020年11月9日、「ピル」に関する内容について
一部加筆させていただきました。
メールでご質問いただきありがとうございました。
(つづきます。次回は引き続き、ピルのお話から。)
2020-11-06-FRI