神田に引っ越して早2年目、
すっかり街に馴染んだつもりだったほぼ日ですが、
新型コロナウィルスの影響で中止になっていた
このイベントにはまだ参加していませんでした。
それが「神田錦町ご縁日」、
いってみれば町内のお祭りです!
久々の開催となる今年は
会社としてきちんと参加しましょう!
そう決めたとき、目に入ってきたことばが‥‥
え? 「つなひき大会?」 ‥‥出るでしょ!
そんなわけで急遽立ち上がったこの連載は、
おもしろ半分で抜擢されたマネージャー役の
新人乗組員西村が、「つなひき部」を立ち上げ、
町内つなひき大会でドラマチックに
優勝するまでの物語である‥‥知らんけど。
「つなひき大会‥‥!」
ほぼ日つなひき部マネージャー、
西村が爆誕したところで前回は終わった。
そしてそのあと西村はどうしたか。
途方に暮れたのである。
そりゃぁ、そうだ。
突然、つなひき部をつくって、
つなひき大会で優勝しろ、なんて言われたところで、
なにをどうしていいのかわからない。
そんなわけで西村は途方に暮れた。
途方に暮れた人間がどうするか、
賢明な読者諸兄ならおわかりのことと思う。
検索したのである。
「つ、な、ひ、き、た、い、か、い」
検索ボタンをポチッと押す。
するとその上位にこんなことばが表示された。
──日本綱引連盟。
なんだこれは。
導かれるようにウェブサイトへ飛ぶと、
まさにそこは「つなひき」のページである。
真剣で、公式で、情熱的だ。
日本綱引連盟の説明にはこうある。
「綱引競技を統轄し、かつ代表する団体として、
広く一般市民に対して綱引の普及及び振興を図り、
もって国民の体力の向上と心身の
健全な発達に寄与することを目的とする。」
ページを読み進めていくと、
全日本綱引選手権大会を主催し、
競技としての公式ルールを定め、
全国的な競技の普及と競技者への指導に努める、
たいへん真面目な組織であることがわかった。
爆誕したつなひき部マネージャー西村は、
元来真面目で情熱的だが、
爆誕したてのためつなひきの知識がまったくない。
開いた双葉が朝日のほうへ向かうように、
公式ページの問い合わせ先へ
矢も盾もたまらず取材申込みをしたのも
無理からぬことといえよう。
情熱と情熱はおのずと響き合う。
とんとんとん、と拍子を打つように、
日本綱引連盟専務理事、競技本部長、
中山二三男さんとのリモート取材が決まったのである。
運命のつなが、少し引っ張られる予感がする。
- 西村
- よろしくお願いします!
- 中山
- はい、よろしくお願いします。
- 西村
- この秋、地域の縁日で開かれる
つなひき大会に会社で参加することになりまして。
社内で選抜メンバーをつのり、
優勝を目指そう!と。
- 中山
- はい(笑)。
- 西村
- でも、考えてみると、私たちは
つなひきのことを何も知らないんです。
せっかくやるなら
つなひきのことをきちんと理解した上で
本気で取り組みたいなと思い、
連絡させていただきました。
- 中山
- わかりました。では、導入として、
つなひきそのものについて
簡単にお話ししますね。
わたしたち日本綱引連盟は
競技としてのつなひきを扱っていて、
全日本選手権や、
ジュニアユースのような大会を運営したり
審判の講習会を開いたりしています。
- 西村
- 競技としてのつなひき。
- 中山
- はい、公式ルールのもとで行われるものです。
世界的にいえば、
1900年第2回パリオリンピックから
つなひきが陸上競技のひとつとして
採用されたこともあります。
- 西村
- へぇーー。個人的には
つなひきといえば運動会のイメージで
老若男女だれでもなじみがある親しみやすい種目、
と思っていましたが
競技としても歴史があるんですね。
- 中山
- 運動会のイメージは強いですよね。
そのおかげでみんながつなひきを知っています。
当たり前のように
誰もがつなひきを
経験したことがあるのは、
たぶん日本ぐらいだと思いますね。
- 西村
- ああ、なるほど。
- 中山
- 歴史のことをもうすこし言うと、
明治時代に健康増進策として
政府が「運動会」というものを奨励したんです。
そのとき、つなひきも種目のひとつとして
運動会に採用されて
定着していったという話は聞きます。
- 西村
- 逆にいうと、世界的には、
あまり知られていないものなんでしょうか。
- 中山
- いえいえ、さかのぼると、
紀元前の古代遺跡にも
人がつなを引く壁画が残っているそうで、
つなを引くことはとてもプリミティブで
世界的に行われていることなんです。
競技だけでなく、
神事としてのつなひきもあります。
豊作とか奉納とかそういうお祝いの行事です。
漁村のチームと農村のチームが綱引をして
農村が勝てば豊作で漁村チームが勝つと大漁になる。
あとは、農村で田んぼに水を引くのに、
農家の人たちが
「うちのほうへ引くんだ」
「あっちへ引くんだ」って争いになって。
「じゃ、つなひきで決めようじゃないか」
っていうので、やったりしていたのが
伝統として残ってるという話もあります。
長野と静岡では、今でも
国盗り綱引っていうのをやってて。
勝ったほうに境界から1mかな、
県境がのびるんです。
- 西村
- へーー、今でも!
綱引って、大昔からいろんな場面で
使われていたんですね。
- 中山
- なんていうんですかね、
やっぱり、勝ち負けがはっきりしてる。
引き分けとか、
微妙な判定とかっていうのがなくって、
引いたほうが勝ち、引かれたほうが負けっていう。
わかりやすいですよね。
- 西村
- たしかに‥‥。
それでは、より具体的なことを
質問していきたいんですけれど、
あの、わたし、なんか、突然、
つなひき部のマネージャーに抜擢されまして。
- 中山
- おめでとうございます(笑)。
- 西村
- やるからにはがんばろう!
と思っているんですけど、
社内でメンバーを選出するために、
どんな人がつなひきに向いているのか
を知りたいんです。
- 中山
- ほう。
- 西村
- たとえば、握力とか、身長とか、
なにか注目すべきポイントはあるんでしょうか。
つまり、こういう人がつなひきに向いている、
というような。
- 中山
- つなひきに向いている人ですか‥‥。
はい、それは、はっきりありますね。
- 西村
- それは‥‥?
- 中山
- まずは、なにより
「心が折れない人」ですね。
それと、「仲間意識の強い人」です。
- 西村
- えっ、身体能力よりも、
「心」が先、ですか‥‥?
- 中山
- はい。
いろんなつなひきの試合を見ていると、
やはり、先にあきらめた方が負けるんです。
試合が始まってから、終わるまで
みんな「あー、きついー!」と思います。
で、そうなったときに
きついのは自分だけじゃない、
仲間もきついんだ、
相手はもっときついはず。
だからチームのために
もうちょっとがんばろう
っていう気持ち、これが大事なんです。
- 西村
- はーーー。
- 中山
- 気持ちが乱れるとつながゆるむんです。
- 西村
- 「気持ちが乱れるとつながゆるむ」。
- 中山
- その隙に、ぐっと引っ張られてしまう。
だから心折れないチームが強いですね。
- 西村
- なるほど‥‥。
耐えるという意味では
スタミナや腕力も必要でしょうか?
- 中山
- スタミナは必要ですね。
でも、じつは、
腕力はそこまで重要じゃないんですよ。
- 西村
- ええっ!?
つなひき、イコール、腕力だとばかり‥‥。
では、強いチームは一体、
どんな力で引っ張っているんでしょう。
- 中山
- 「姿勢」です。
- 西村
- しせい!
- 中山
- 今回のつなひき大会は男女混合、
というお話でしたね。
- 西村
- はい。女性は2人で1人の扱いになっていて。
1チーム6人体制なので、全員女性の場合は
最大12名参加できるというルールです。
- 中山
- なるほど。たとえば、
「男の人1人と女性2人では、
どっちのチーム編成がいいですか?」
という質問があったとすると、
どっちの姿勢がきれいかによって変わります。
たとえば90キロの男子と、
40キロの女子2人が引いた場合は、
姿勢がきれいな
40キロ女子2人のほうが
ぜんぜん強いです。
- 西村
- そんなにハッキリと‥‥。
- 中山
- つなひきの基本の姿勢って
足首から頭のてっぺんを一直線で
40度から45度に保つんです。
なぜ45度かというと
人間の体の中で、1番重いところは頭です。
頭の位置を体の中心より後ろに持っていけば
当然、重りになるんで。
つまりこの姿勢をいかに保てるかが大事です。
ですから、
つなひきって腕で引く必要はないんです。
- 西村
- はーーー、腕で引かない‥‥。
今、私のなかで綱引の常識がひとつ崩れました。
腕力ではなく、物理的に重さを出すことで
引っ張ってるんですね。
- 中山
- はい。
だから、体重が重い方が有利なんですね。
でも、ただ、重いだけではだめですよ。
いくら体格がよくても
途中でだれてしまっては、結局負けてしまう。
やはりスタミナと根性をもって、
正しい姿勢を保てるかどうか、
なんですよ。
- 西村
- はい、はい。わかってきました。
だんだん、競技としての綱引の
勝ち筋が見えてきた気がします‥‥。
- 中山
- 姿勢をキープするには、体幹も関係しますね。
つまり、背筋、腹筋の力があれば
正しい姿勢を保てます。
- 西村
- なるほど。ここまでのお話で、
「折れない心」「姿勢(体幹)」「重さ」が
出てきましたが、それを備えたうえで、
つなひきの戦い方の
セオリーってあるんでしょうか。
- 中山
- それはもう、やっぱり、
「よーいどん!」で一気に
いっちゃったほうがいいでしょう。
- 西村
- 瞬発力が大事ということですか?
- 中山
- 瞬発力は大事だと思いますよ。
スタートするときに、
しゃがんでロープを持った状態から
立ち上がって引くじゃないですか?
このとき、急速に立ち上がったほうが絶対いいです。
立って正しい姿勢になるまで時間がかかるでしょ?
そこの数秒でみんなの息が合ってリードできれば、
それだけで1m、2m違ってくるんです。
- 西村
- 瞬発力があれば、
スタミナ試合になる前に勝負が決まりやすいと。
スタートがかなり大切な競技なんですね。
- 中山
- そうですね。
そして、とくに知っておいていただきたいのが、
つなひきはヒーローがいらない競技
だということです。
強力な選手がひとりいるよりも、
メンバー全員で息をそろえる方が
強いチームになります。
- 西村
- なるほど‥‥
ヒーローがいらない競技‥‥。
- 中山
- ひとりひとりのがんばりも大切ですが、
複数人で1本のロープを引いていますから。
その意味では、具体的にいうと、
みんなでロープを持ったときに
なるべく一直線になれるように
調整していくのがいいですね。
間隔は均等がいいし、
体格も近い方がいいです。
- 西村
- あっ、体格が近いほうがいい?
身長も体重もそろっている方がいい?
- 中山
- まあ、多少でこぼこしていても
ロープを持ったときに
一直線になれるような形
であればよいと思います。
力が入る場所に偏りが出ちゃうと、
もろくて、崩れやすくなっちゃいますからね。
- 西村
- ほんとうに平等というか、
みんなでそろって力を出すスポーツなんですね。
つなひき、アツいです。
より一層燃えてきました。
- 中山
- よかったです!
ロープの握り方や姿勢には、
やはりコツがありますから、
YouTubeなどで
「どういう形がいいか」
「なぜこの形がいいのか」
というのをみんなで共有して見てみてください。
きっと、いいチームになっていきますよ。
応援しています。
- 西村
- ありがとうございます。
優勝目指して、がんばります!!!
(次回、ほぼ日乗組員のデータを測る! オーエス、オーエス!)
2022-08-31-WED