昨年の今ごろ、ほぼ日のページに突如現れた、
この連載を覚えてくださっているでしょうか。
「町内のつなひき大会で
ほぼ日は優勝するつもりです!」

「神田錦町ご縁日」の「つなひき大会」という文字に
心を奪われたほぼ日乗組員たちが、
急遽「ほぼ日ヒッパレーズ」として出場を決め、
宣言どおり優勝するまでをお届けしました。

そしてもちろん今年も、神田錦町のつなひき大会で、
ほぼ日は優勝するつもりです! ‥‥しかし。
「去年優勝できたんだし、今回も余裕でしょ」
そんな甘い考えで挑むつもりは毛頭ありません。
今年は「追われる側」として、栄光の証である
トロフィーを守らなければならないのです。
そのトロフィーというのも、
誰に授けられたわけでもなく
自分たちで勝手につくったのですが、
とにかく死守です。
しかも今年は、昨年のほぼ倍のチームが参戦。
未知の強豪も、次々に登場するとの噂です。
決戦の場は、10月13日のご縁日!
波乱の予感に包まれる神田錦町で、
真の勝者を決める戦いが、開幕‥‥!!

前へ目次ページへ次へ

第4回 決断

こんにちは。
今年のほぼ日つなひき部のマネージャー、
新人の松本です。
そろそろ、「新人です」と名乗るのも
慣れてきました。
今回もよろしくお願いします。
前回、出場チームが出揃った
「つなひきレクチャー会」で、
対戦相手となる方々の気合いを目の当たりにした
ヒッパレーズ。
さらには、日本綱引連盟の中山さんによる
「去年は、ほぼ日さんが強かったのではなく、
他チームのみなさんが『弱かった』のでは?」
という電撃発言から、
「今年こそは『本当の強さ』を示さなければ、
パワーアップした他チームには敵わない」と
痛感しました。
油断してはいられない、すぐにでも特訓だ! 
と、やる気満々で初回練習の日を迎えました。
ヒッパレーズのトレードマークである
赤いTシャツを着たメンバーが、
ぞろぞろと本社の屋上へ集まります。
もちろん、つな持参です。
練習のために購入した、マイつなです。
いったいこの世界に、
つなひき用のマイつなを持っている会社が
どれほどあるでしょうか。
少なくとも、そのうちいくつかはきっと、
ここ、神田錦町に存在する気がします。
有志の乗組員に対戦相手役として集まってもらい、
いざ、練習開始! 

ひっぱれー!! 
おおー、ヒッパレーズ、確かに美しいフォームです。
しかし、昨年の大会でのフォームと、
今の姿勢を確認すると‥‥

「去年より、腰の位置が高くなっちゃってる‥‥!」
やはり、1年のブランクは無視できません。
まずは、去年の感覚を取り戻すのが
課題になりそうです。

一方の有志チームはというと、
くまを連れてくるわ、
くまにちなんで「ブラックベアーズ」
と名乗り出すわ、
なんだか‥‥楽しそうです。
協力してくれたのはとってもありがたいけど、
ヒッパレーズ、ちょっとなめられてるかも!?
これでいいのかヒッパレーズ。
くまに王者の風格を見せつけるのだ、ヒッパレーズ。

気合いを入れ直し、
再びつなを握ろうとした、その瞬間。
‥‥ぽつり。
最初の重たい一滴が落ちてきたかと思うと、
激しいにわか雨が、屋上の我々を襲いました。
こうなってしまったら練習どころではありません。
「一旦退散だ!」
悪役のような捨てゼリフを吐き、
大事なつなを濡れないように抱えて、
私たちはアワアワと社内に戻りました。
幸先の悪そうなスタートでしたが、
天気に恵まれなかったくらいで、
燃え尽きるヒッパレーズではありませんでした。
会議室に着くやいなや、キャプテン
口を開いたのです。
「さっそく、ミーティングだ!」

さすがです、ヒッパレーズ。
つなを引いている彼らは、
もちろんかっこいいです。
ですが、私には、このときのヒッパレーズが
めちゃくちゃかっこよく見えました。
気合十分で迎えた初回練習で、
存分に力を発揮することができなくても‥‥
「最初に片足を出して待機したほうが
立ち上がりやすいんじゃないかな?」

「やっぱり最初に、
腰の位置を低く保ったまま
どれだけ引けるかが勝負なんじゃない!?」

狭いスペースでもできる
フォームの確認をし、
真剣に作戦を練る彼らは、
「そのとき、やれることを全力でやる」
という姿勢を体現して見せてくれたのです。
この姿勢こそが、
ヒッパレーズを根本から支えている強さなんだ。
険しい戦いになりそうな今年の大会も、
きっと彼らなら乗り越えてくれる。
そう思いました。
さっき「幸先が悪い」と、
早々に落ち込みかけたのは、
私だけだったようです。情けない。
こんなことでは、マネージャー失格です。
外では大雨が降り続いていましたが、
私はヒッパレーズの面々を
晴れやかな気持ちで見渡しました。
この人たちなら、大丈夫だ! 

──数日後。
なんとか初回練習で感覚を取り戻し、
安心したのもつかの間、ヒッパレーズは、
大きな選択をつきつけられました。
今年度のつなひき大会に、
新たなルールが追加されたのです。
それが、こちら。
「綱引き参加者の登録人数の上限は12名です。
試合ごとに、12名の中でターンオーバー
(選手入れ替え)しても構いません。」
昨年は、最初から最後まで、
試合に出る選手は固定されていました。
しかし、この新ルールによって、
毎試合、出る選手の組み合わせを変えることが
可能になったのです。
現在のヒッパレーズのメンバーは8名なので、
最大4名、新メンバーを迎えることができます。
人数が増えれば、
ひとりひとりの体力消耗が防げます。
体力のある人を、
新しく仲間にできるかもしれません。
他の出場チームも、おそらくそう考えて、
改定されたルールを利用するでしょう。
ですが、
出場選手を確定する締め切りの日は
数日後に迫っていました。
確実に戦力アップにつながるメンバーを探す時間は、
ほとんど、残されていなかったのです。
「去年の体力測定の結果が良かった人に
頼んで入ってもらうしかないのかな。
でも、今から新しい編成で練習して、
間に合うだろうか。
今のメンバーのバランスの良さが
活かせなくなる可能性もある‥‥」
正直なところ、私は、どうするのが正解なのか
わからなくなっていました。
ヒッパレーズ当人たちも、
「ルール上、
女性2人で男性1人にカウントされるから、
女性4人に入ってもらって、
一試合に出られる人数を増やして、
人数の力で勝負したほうがいいのでは?」
「いや、全乗組員総出で、
一対一でつなを引き合う
勝ち抜き戦をやってから決めよう!」
と、口々に意見を出し合いながらも、
説得力がある、実現可能な答えには
たどり着けずにいました。
しまいには、
「人数勝負なら、僕、が引退して、
代わりに女性2人に入ってもらうのが
いいんじゃないかな?」
「ここにきて、
キャプテンを追放するのは気が引けます。」
とスクワット対決をして勝った人を
入れたらどうでしょう。」
にスクワットで勝てる人は、
社内にはいないと思います。」
と、収拾がつかなくなりそうな気配。
勝ちたい。
その気持ちは確かなのに、
どの方向に舵を切るべきかわからない。
長く続いた話し合いに終止符を打ったのは、
キャプテンでした。
「‥‥わかった。」
うつむきかけていたみんなの視線が、
一斉に、に集まります。
「今年も、元のメンバーでいきましょう。
このメンバーで、勝ちたい。
そして、このチーム‥‥
『初代ほぼ日ヒッパレーズ』は、
今年で解散です。」
「‥‥!」

大胆な決断に、顔を見合わせる選手たち。
あえて新ルールを利用せず、
オリジナルメンバーで挑む? 
そして、初代ヒッパレーズは、今年で解散──?
私も、もちろん驚きました。
しかし心のどこかに、すでにこの決定を、
すんなりと受け入れている自分もいました。
先日の、大雨に見舞われた初回練習が
脳裏に蘇ったのです。
あのとき、彼らは何を見せてくれたのだったか。
 
「勝利に向けて、
今やれることを全力でやる」。
‥‥そうでした。その心意気でした。
新メンバーを入れることが現実的に難しいのなら、
現メンバーの強さを伸ばし、全力を尽くす。
そして来年は、
新ルールに沿ってメンバー構成を一から考え直し、
「新生・ほぼ日ヒッパレーズ」をつくる。
それが、今年の大会に向けて、
それから来年以降に待ち受ける戦いに向けて
「今やれること」の最大であることは、
明らかでした。
「‥‥そうですね。」
「山下さんの言うとおりだな。」
「このメンバーで、勝ちましょう!」
はじめは少し戸惑っていたメンバーたちも、
「自分たちで二連覇」という目標が定まり、
決心が固まったように見えました。
もちろん、
新ルールを活用してくる相手に対して、
勝利を諦めたわけではありません。
「勝ちてぇなあ‥‥!」
が絞り出すようにつぶやいたその言葉が、
全員の意思を代弁していました。
目指すは、このメンバーで、再び優勝。
初代・ほぼ日ヒッパレーズの「本当の強さ」を
証明するのです。
私たちは円陣を組みました。
とにかくこういうときは円陣だ、
という気がしたからです。
「絶対優勝しましょう!」
「「おおおおおーっ!!!」」

この決断が、吉と出るか凶と出るか。
それはまだ、誰にもわかりません。
ただ、この一件をきっかけに、
我々つなひき部の結束が、
今まで以上に固くなったことは確かです。
それからも、びしばしと練習を重ね、
顔を合わせればいつでも
つなひきの話をして‥‥

神田ポートビルに集まり、何度も練習。 神田ポートビルに集まり、何度も練習。

気づいたことやコツがあれば、
ラインで共有し合い、すぐに実践練習。
こうして、ひとりひとりが
徐々に自信を高めていき‥‥

対戦相手候補、株式会社ジンズホールディングスさんとの合同練習。 対戦相手候補、株式会社ジンズホールディングスさんとの合同練習。

ついに、10月13日金曜日のご縁日まで、
あと3日となりました。
すでに、街中にお祭りムードが
漂い始めています。
いよいよだなあ‥‥。
ここで、少しつなひきから離れて、
ほぼ日がご縁日で出店する屋台をご紹介。
販売するのは、昨年も子どもたちに大人気だった
「割れてもさみしくないヨーヨー」です!

今年のヨーヨーには、
オリジナルのくまのシールもついてきます。
ぜひ遊びに来てくださいね。
ほぼ日の屋台以外にも、
楽しそうなお店がたくさん出店されるようですよ。
そしてもちろん、
ヒッパレーズの応援もお忘れなく! 
つなひき大会の開幕は、午後6時30分からです。
果たして、トロフィーは守りきれるのか。
初代・ヒッパレーズの意地は見せられるのか。
当日はテキスト中継に加えて、
YouTubeでの生配信もありますので、
彼らの勇姿を、最後の最後まで、
いっしょに応援しましょう! 

(次回からテキスト中継でお届けします。戦いの一部始終を、お楽しみください! がんばるぞーっ!)

2023-10-10-TUE

前へ目次ページへ次へ
  • line

    つなひき大会でもう一度優勝したい
    〜トロフィーを勝手に死守するための裏側〜
    (ほぼべりTUBE)