
おしゃれな女性ファッション誌『sweet』で
連載中の「シンVOW」では、
毎回、すてきなゲストをお迎えし、
VOWについてあれこれ語りあっております。
このページでは、紙幅の都合で
『sweet』に載せきれなかった部分を含め、
たっぷりロングな別編集バージョンをお届け。
担当は、VOW三代目総本部長を務める
「ほぼ日」奥野です。どうぞ。
加賀美健(かがみ・けん)
現代美術作家。時事問題やカルチャー現象をジョーク的に変換し作品化する。同時に、おかしなものばかり買う人。近著『最近、買ったもの』は22世紀に残したい奇書である。
- 加賀美
- なつかしいなあ。ぼく読んでましたよ。
買ったことはないんだけど。
- ──
- みんなそれ言うんですよ(笑)。
- 加賀美
- 本屋さんで立ち読みしたり、
友だちに借りたり、道ばたで拾ったり。
- ──
- わはは、拾ったりもありますか(笑)。
VOWらしくていい話だなあ。 - 寒さに震えるあわれなVOWを、
あったかいお部屋に連れ帰ってくれて、
ありがとうございます。
- 加賀美
- 久々に見ましたけど、
相変わらず誌面がくっちゃくちゃして、
読みづらくていいですね。 - ケラケラ笑える本なんだけど
じつは、ながら読みできないんですよ。
ちゃんと読まないと、
ちゃんとおもしろがれないっていうか。
- ──
- 何たる慧眼。おっしゃるとおりです。
- そんな加賀美さんの気になったネタを、
いくつか教えていただけますか。
- 加賀美
- いろいろあるんですけど、
ぼくの場合は、
やっぱり手書きに反応しちゃいますね。 - たとえば、
この氷室京介さんのグラフィティとか。
『VOW 30周年スペシャル』より
- ──
- これは「グラフィティ」ですか!
- 加賀美
- グラフィティですよ。
- ──
- その視点‥‥さすがは、
あのグラフィティ集団「D.F.W.」唯一の
日本人クルー・Ken Kagami‥‥。
- 加賀美
- ジャパニーズ・グラフィティです、これは。
- あっちでは「トランプバカヤロー」とか
「警察ふざけんな」とか
「戦争やめろ」とか書いてるわけだけど。
タグっていうスプレーで書いた文字とか、
ぷにゃぷにゃした
スローアップって呼ばれるスタイルでね。
- ──
- ニューヨークの地下鉄とかに
描かれてるアレですよね。
- 加賀美
- そうそう。でも、ぼく自身は日本人だし、
英語で上手に描けないんで、
日本語で「実家帰れ」って書いて
ステッカーにして配ったりしてたんです。 - そういう自分からすれば、
これなんか、立派なグラフィティですよ。
カッコいいです。
- ──
- その加賀美さんの「手書きの日本語」は、
いまやアパレルブランドはじめ、
各方面からひっぱりダコになってますが、
なるほど、
グラフィティという見方があったのか‥‥! - ちなみに「実家帰れ」というフレーズは、
昔から書き続けてますよね。
代官山「ストレンジストア」店内風景
- 加賀美
- もともと小学校のときの野球のチームで
先輩が言ってた口癖なんです。 - エラーとか三振とかしちゃったときとか、
すぐ「実家帰れ!」って、その先輩。
- ──
- しびれるワードセンスの小学生だなあ。
- 加賀美
- おもしろいでしょ。
- でも、あくまで先輩は「素」なんです。
ウケ狙いで言ってたわけじゃないんですよ。
みんな、グラウンドから
徒歩3分くらいの団地に住んでたんだけど。
- ──
- 実家といえば実家ですね(笑)。
- 加賀美
- 出直してこいくらいな意味なんでしょうね。
「加賀美!
お前、そんなショーバンも捕れないんなら、
実家帰れ!」っつって。 - それが、友だちの間で流行ったんです。
そのうち野球のときだけじゃなく
「おまえ、算数のテスト何点だった?」
「3点」
「実家帰れ!」みたいな感じで(笑)。
- ──
- そんないわれのあるフレーズだったのかあ。
- でも、「怒られた感」が高まりますよね。
「実家」って言ったら、
新幹線や飛行機で帰るイメージがあるし。
- 加賀美
- ちょっと都落ち的な雰囲気もあるしね。
- 大人になってからもずっと覚えていたので、
あるときに
ステッカーにして配ってみたんだけど、
人によって受け止め方がちがったんですよ。
そこがまた、おもしろくて。
「母さん元気かな。たまには帰るか」って
故郷を思う人もいれば、
「絶対に俺は東京で成功してやる!」って
奮い立つ人もいるみたいな。
- ──
- あらためて、この作品が
「グラフィティである」という見方に、
目を覚まされた総本部長です。
- 加賀美
- あとは、こういうのとかも好きですよ。
TBCって、あのTBCですね?
- ──
- たぶん。エステティックといえばのね。
そんなバカな。
『VOW 30周年スペシャル』より
- 加賀美
- これもいいな。軽自動車のうしろに
「レクサス」「ベンツ」
「フェラーリ」って、
黒のマジックで書いてあるんだけど。 - カッコいい。
『VOW 30周年スペシャル』より
- ──
- 加賀美さんならではの価値観ですね。
カッコいい‥‥というのは。
- 加賀美
- これ、たとえばだけど、
フェラーリの跳ね馬のエンブレムを
わざわざつくって
軽自動車の頭にくっつけたとしても、
何もおもしろくないじゃない。 - お金持ちのひまつぶしって感じで。
- ──
- それよりも、愛車に
マジックで「ベンツ」って書くほうが、
たとえ高級車じゃなくても、
われわれ
小心者の一般人にはマネできません。
- 加賀美
- しかも「カタカナ」だもんね。
- そういう意味でカッコいいと思います。
革の鞄に「バーキン」って書くとか、
センスのいい人がやってたら、
めちゃくちゃカッコいいと思うんです。
- ──
- マルジェラみたいな人がね。たしかに。
- そういえば、2025年秋冬の
ルイ・ヴィトンのコレクションの中に、
胸に「カタカナ」で
「ヴィトン」って書いた
ベースボールシャツがありましたよね。
- 加賀美
- ああ、クリエイティブ・ディレクターの
ファレル(・ウィリアムス)と、
NIGO®さんがコラボしたやつですよね。 - 何年か前のグッチでも、
カタカナで「グッチ」って書いてある、
金の腕時計があったなあ。
- ──
- 時代がようやく
「加賀美健」に追いついてきたのか!?
- 加賀美
- 自分的には、ちょっと複雑なんだけど。
- 加賀美さんの日本語Tシャツ、
おもしろいけど着れないんですよって
20年くらい言われ続けてきて、
それが自分的にはいい感じだったんで。
- ──
- あー。
- 加賀美
- Tシャツに日本語をプリントするのが、
ファッションの文脈的には
「ダサかった」からこそ、
おもしろがってやってたってところが、
ぼくにはあるので。
【ジュンさんがジルさんに】頭の中が〝真っ白〟になったことでしょう。(兵庫県/小澤翔)わはは、どうしてそうなった! かつて「長介のスポーツでいい汁かこう!」の名作もあり、汁といえばのVOWだけど。(毎日1ネタ更新中のWEB版「VOW」より)
(つづきます)
2025-03-12-WED