
おしゃれな女性ファッション誌『sweet』で
連載中の「シンVOW」では、
毎回、すてきなゲストをお迎えし、
VOWについてあれこれ語りあっております。
このページでは、紙幅の都合で
『sweet』に載せきれなかった部分を含め、
たっぷりロングな別編集バージョンをお届け。
担当は、VOW三代目総本部長を務める
「ほぼ日」奥野です。どうぞ。
加賀美健(かがみ・けん)
現代美術作家。時事問題やカルチャー現象をジョーク的に変換し作品化する。同時に、おかしなものばかり買う人。近著『最近、買ったもの』は22世紀に残したい奇書である。
- ──
- ChatGPTとか影もかたちもないころですが、
VOW2代目総本部長の古矢徹さんと
「AIはVOWを生成できるか?」
という雑談をしたことがあるんですけど。
- 加賀美
- つくれないんじゃないかなあ。
つくれるのかなあ。
- ──
- そのときも、
われらがVOWの誇るおまぬけの品質は
人間でなくては生み出せないハズだ、
どんなに機械に学習させても
無理じゃないか‥‥みたいなところへ、
いったんは
話が落ち着きそうになったんですけど。
- 加賀美
- うん。
- ──
- めちゃくちゃVOWネタを読み込んだAIに
あっさり爆笑ネタを生成されて
「ロボットにマネされてしまったんで、
本日限りでVOWは終了します」
という末路も、
VOWの最期にふさわしい気もするねと。
- 加賀美
- ははは、たしかに。
- ──
- ただ、AIがつくったというだけで
VOWネタの「ありがたみ」みたいなものが
一気になくなるように感じるのは、
われわれ人間の思い上がりなのかなあって、
ふと考えることもあるんです。 - 機械が学習に学習を重ねてつくったネタより、
生身の人間がやらかした
天才的なミスの方が絶対おもしろいだろうと
思いたがるのはなぜだろう‥‥と。
- 加賀美
- どうなんでしょうね。
- いまの話は、
何でもコンピュータでデザインできる時代の、
手づくりや手書きに感じるよさに似てるなと、
ちょっと思いましたけどね。
- ──
- ああー。
- 加賀美
- いまの時代って、商品をつくるにしても、
お店をやるにしても
「デザイン」が重要視されるけど、
だからこそ、
街角に殴り書きされた落書き‥‥
みたいなもののほうが、
パッと目に入ってくるんだと思うんです。
- ──
- なるほど、たしかに。
- 加賀美さんの手書き文字も
ただの黒いマジックで書いてると思いますが、
街中ですごい目立ちますもんね。
- 加賀美
- いまって「デザインされすぎた時代」なのかも。
- ──
- 東京以外の地方にも
おしゃれなカフェとか本屋さんがふえて、
そのこと自体はうれしいことだけど、
味の出まくった喫茶店とか、
古めかしい本屋さんがなくなるのは、
やっぱりさみしいですもんね。
- 加賀美
- ますます「VOWの時代」ですよ。
- ──
- 身のまわりのデザインがよくなっていく、
もっと言えば、
デザイン過剰とも言える時代だからこそ、
VOWとか加賀美さんの書き文字が
かえって目立つ‥‥っていうことですか。 - いまはパソコン1台あれば、
パッと見はスタイリッシュなデザインが、
ぼくら素人でも、
一晩でできちゃう時代かもしれないけど。
- 加賀美
- うん。
- ──
- でも、加賀美さんがやってきたことって、
こうして認められるまで、
「30年」とかかかってるわけですよね。
- 加賀美
- ですね(笑)。
- ──
- その時間こそ、貴重な宝ですよね。
だって加賀美さんと同じようなことを
やりたいと思った人がいたとしても、
それだけの時間をかけて
あきらめずに続けてきた人はいないし、
反対に、いまからはじめても、
人々にわかられ出すのは
「30年後」なわけですもんね。 - だからこそ「長く続ける」ってことは、
難しくなさそうでいて、
じつはなかなかできないことだと思う。
- 加賀美
- ぼく、小学校でVOWを配るべきだって
ずっと思ってるんですよ。
- ──
- おお‥‥すばらしい! VOWの授業。
文科省のみなさん、見てますか。
- 加賀美
- ぼくは、こどもたちに、
ぜひ身につけてほしいことのひとつが、
VOWの感覚だと思うんです。 - この先どんどん
AIだとかコンピュータが発展していって、
スマホのちっちゃい画面で
いろいろ完結していくようになって、
こどもたちも、
それまでの自分の身のまわりになかった
思いも寄らないヘンなものや、
新しいものに
出会いにくくなっちゃうとしたら、
それはちょっとイヤじゃないですか。
- ──
- たしかに。ある時点における
自分の興味に最適化されたモノの中で
暮らしていく人生。 - ファンタジーのようにも聞こえますが、
でも、本当にそうなったら、
ある意味で「自分の牢獄」ですもんね。
- 加賀美
- そこで「VOWの授業」ですよ。
- いまはみんなスマホ持ってるんだから、
1時間めは街に出て、
不意に出会って
おもしろいと思った何かを撮ってきて、
みんなで発表しあうとかね。
- ──
- ああー、いいなあ。
ワークショップとかに近いんでしょうか。 - 誰かの用意した「おもしろいでしょ」を
ただ受け取るんじゃなく、
自分の「おもしろい」を見つけにいく授業。
- 加賀美
- ぼくら子どものころに街へ出ていくって、
一種の探検だったじゃないですか。 - みんなで未知なる驚きを探しに行こうぜ、
みたいな授業ができたらおもしろいなあ。
- ──
- 見ているようで見てなかった自分の街を
ちゃんと見てみる授業でもあるし、
ほっといたら
そのままスルーしてしまいそうなものを
どうおもしろがるか‥‥
という部分を鍛える授業でもありますね。
- 加賀美
- そうそう。
- 「先生、ぼくはこれがVOWだと思った」
「どこがおもしろかったの?」とか。
大人とこどもで大いに語り合ってほしい。
- ──
- われわれ大人が教わることも多そうです。
こどもがおもしろいと思うものって、
きっと、ぼくらとはぜんぜんちがうから。 - でも、ぼくらだって、
かつてはこどもだったわけで、
「こういうのでケラケラ笑ってたよなあ」
みたいな気持ちも思い出せそう。
- 加賀美
- 大人としての常識みたいなフィルターが、
大人には、どうしてもかかってるからね。
- ──
- 単純に目線が低いから、
大人の目では見つけにくいネタなんかも、
見つけてきそうです。
いつもの下世話なネタやエッチなネタは、
大人VOWのほうで
「こっから先は、大きくなったらね!」
ってやればいいし。 - 実現の折には、特別講師として、
ぜひ、加賀美健先生にお願いしたいです。
- 加賀美
- いいですよ、もちろん。やりたいですよ。
- ──
- こどもたちが見つけてきたVOWを
展示したりもいいなあ。こどもVOW展。
- 加賀美
- アートも、VOWも、
差し迫った必要ってないじゃないですか。 - ぼくらの人生においては。
- ──
- ないです。
アートはともかく、VOWにはハッキリとない。
- 加賀美
- でも、何かをおもしろがる心が‥‥
つまり人間の好奇心が、
いろんなものをうみだしてきたわけです。 - その意味で、
アートやVOWは学校で教えるべきですよ。
大人とこどもが一緒になって、
アートやVOWをおもしろがれたら
いいなあと思います。
【今週のタイタニック号】豪華な客船です。(神奈川県/たけお) えーっと? ってことは? レオ様?(毎日1ネタ更新中のWEB版「VOW」より)
(つづきます)
2025-03-15-SAT