
おしゃれな女性ファッション誌『sweet』で
連載中の「シンVOW」では、
毎回、すてきなゲストをお迎えし、
VOWについてあれこれ語りあっております。
このページでは、紙幅の都合で
『sweet』に載せきれなかった部分を含め、
たっぷりロングな別編集バージョンをお届け。
担当は、VOW三代目総本部長を務める
「ほぼ日」奥野です。どうぞ。
加賀美健(かがみ・けん)
現代美術作家。時事問題やカルチャー現象をジョーク的に変換し作品化する。同時に、おかしなものばかり買う人。近著『最近、買ったもの』は22世紀に残したい奇書である。
- ──
- わたくしごとで恐縮ですが、
ぼく、しゃれにならないような田舎で
生まれ育ったんですよ。
- 加賀美
- どこでしたっけ。
- ──
- 群馬県の山の奥です。
小学校の同級生は15人しかいなくて、
その学校も、
もうずいぶん前に廃校となりました。 - 家のまわりに、何もなかったんです。
渡良瀬川という川が流れていて、
あとは名もなき山に囲まれてるだけ。
- 加賀美
- いいとこじゃないですか。
- ──
- いまから思えば静かでいいんですが、
こどもとしては退屈で退屈で。 - 徒歩圏内に友だちも住んでいなくて、
基本的には、自分で毎日、
楽しいことを見つけなきゃらない。
日々、自分で自分を
おもしろがらせなきゃならなかった。
- 加賀美
- 何にもなさすぎて。
- ──
- そう。で、その飢餓状態みたいな体験が、
何らかのかたちで、
いまの仕事の役に立ってる気がしていて。 - じっとしてても
おもしろいものはやってこないんだ、
みたいな。
で、VOWの投稿を見ていると、
あのときの気持ちを
思い出すことがあったりするんです。
- 加賀美
- というと?
- ──
- VOWの投稿には
パッと見でおもしろいのもあるけど、
おもしろがるためには
ちょっと頭で考える必要があったり、
投稿人がコメントでボケたりして
おもしろさがうまれている、
そういう投稿もあったりするんです。
- 加賀美
- あー、なるほど。
- ──
- つまり、VOW投稿人のみなさんは、
おもしろいものや、
工夫次第で
おもしろくなるかもしれないものを、
自ら見つけに行ってる。 - 野球チーム時代の加賀美さんたちが
おもしろがった「実家帰れ」だって、
「おもしろがる心」がなければ、
「ただのヘンな口グセだよねー」で
終わった可能性もありましたよね。
- 加賀美
- どうやったらおもしろがれるかなと
あれこれ考えることは重要ですよね。 - ぼく、やってることが、
小学生のころと何にも変わらないんですよ。
道ばたに落ちてるヘンなゴミを
拾ってみたり、写真に撮ってみたり。
おかしな格好をした街ゆく人を、
じーっと観察したり。
それらを
「どうおもしろがるんだろう、自分は」
みたいなことをしてるんです。
- ──
- VOWじゃないですか。
- つまり「見つける」という行為が、
すでにしてアート的なんだと思います。
- 加賀美
- そうですね、うん。
- ──
- 少し前まで、ぼくら一緒に
「加賀美健の最近、買ったもの」って
ヘンな連載をやってましたが、
あれとか「ぜんぶVOW」ですよね。 - 「巨大なひょっとこのお面」とか、
「Gの着ぐるみ」とか、
「サッチーの写真集」とか‥‥。
- 加賀美
- 「デカすぎるクツ」とか、
「不気味すぎるカッパの頭像」とかね。
ほぼ日『現代美術作家・加賀美健の 最近、買ったもの』vol.23より
- ──
- 加賀美さんが、
いろんなところで見つけ出してきた
おもしろいものたちの
オンパレードで、
メルカリでも買ってるとは思うけど、
ひなびた温泉地のお土産屋さんとか、
思いがけないところで
不意に出会ったものも多いですよね。 - その点、スマホを見ているだけでは、
自分の興味にマッチしたものしか、
画面にはあらわれてくれないわけで。
- 加賀美
- アルゴリズム的な何かでね。
加賀美さん、これ好きでしょうって。
- ──
- 赤瀬川さんや加賀美さん、
VOWの投稿人たちはそうじゃなくて、
スマホを捨てて街へ出て、
目玉をきょろきょろさせながら歩いて、
想像を絶する何かに出会って、
「何だこれ~!」とおもしろがってる。
- 加賀美
- おもしろがる‥‥は重要ですねえ。
- 何かを見たときに、
どんなふうに「何これ?」と思うのか。
そこが、その人独自の視点だから。
- ──
- 群馬の渋川にある原美術館ARCには
アンディ・ウォーホルの
どデカいキャンベルスープ缶があって、
それ、デザインはキャンベル社、
デッカい缶を製造したのは缶工場の人、
色を塗ったのは
ワークショップの学生たちなんですよ。 - デッカいのつくろうよって言ったのは
ウォーホルかもしれないけど、
本人は、とくに何もしてないんです。
- 加賀美
- ああ。VOWも同じだ。
- ──
- そう。誰かがつくった街のヘンなもの、
誰かがやらかした新聞の誤植でも、
その人が見つけて
その人なりにおもしろがった時点で、
その人の作品になる‥‥
みたいなところがある気がしています。
- 加賀美
- リアルな街を歩いて、何かを見つけて、
それをおもしろがる力が大切だし、
そこを磨いていきたいなと思ってます。 - ぼくも、毎日毎日インスタに投稿して
メルカリにもお世話になってて
こんなこと言うのもアレだけど、
スマホの画面にばかり貼りついてたら、
自分の興味って、
ぜんぜん広がっていかないですもんね。
- ──
- VOWの投稿人のみなさんは、
街を歩いてたらヘンなモノに出会って、
おもしろがって写真を撮って、
ひと工夫した文章を写真に添えて
総本部に送ってきてくれるわけですが、
その「おもしろがりかた」が、
その人なりのアートだし、
クリエイティブだし、アイディアなんですよ。
- 加賀美
- その「ヘンなもの」を
自分はこう見た、こうおもしろがった、
ということですもんね。 - 最近のアートの話題で言えば
「バナナを壁にガムテで貼っただけ」
の作品が、
何億円という値段で売れてたでしょ。
- ──
- はい。マウリツィオ・カテランさんの作品で、
たしか「9億円」とかでしたっけ。 - しかも買った人、そのバナナ食べてましたね。
- 加賀美
- 当然、著名アーティストがやったから、
ということはあるし、
ご本人も、
「自分がこういう作品を発表すれば、
おもしろがられるし、売れるだろうな」
と踏んだからやったわけですけど、
あれなんかも、
見方を変えればVOWそのものですよね。
- ──
- 本当に。ニュース全体が、
VOWに投稿されてもおかしくないです。 - 今回は、アートの文脈の中で、
著名なアーティストがやったことだから
アートの世界の椿事として
受け止められているわけですけれども。
- 加賀美
- アートにも、VOWにも、
どっちにも共通してるんでしょうね。 - 「おもしろがることの重要性」って。
【念ずればきっと見える】某Amazonにて発見。このマスクは愚か者には見えないらしい。(広島県/スラスラスラィリー)見えないアナタもあきらめないで。さあ、静かに目を閉じるの。心の目で見るのよ……。(毎日1ネタ更新中のWEB版「VOW」より)
(つづきます)
2025-03-14-FRI