「どうしてキャンプをするんですか？」
これまで４人のかたに問いかけて、
キャンプやアウトドアのたのしみかたを
うかがってきました。
最後にご登場いただくのは、
神奈川県相模原市にある
「みの石滝キャンプ場」の
２代目オーナー、山口英治さんです。
物心ついたときから、
この地で生活してきた山口さんにとって、
キャンプ場は、あそびにいく施設ではなく、
仕事場であり、日常をおくる空間です。
これまで何十年も、
キャンプ場内で過ごしながら
キャンプ場に訪れる人々を
出迎えてきた山口さんは、
キャンプについてどう考えるのでしょう。
東京から電車で１時間、
そこから船で相模湖を渡って約10分。
私たちは「みの石滝キャンプ場」に
山口さんに会いに行きました。
山口さん、キャンプってなんですか？
山口英治（やまぐち・えいじ）
相模湖の湖畔の奥地にあり、
船をつかってでしか行けないキャンプ場、
「みの石滝キャンプ場」の２代目オーナー。
キャンプ場の開業は70年前。
車で行けない隠れ家的な立地もあって、
森、湖、山、小川、滝といった
自然がそのまま残っている。
- ──
- 世の中にたくさんキャンプ場があるなかで、
お客さんはこの「みの石滝キャンプ場」に
何を求めて来るのでしょう。
- 山口
- 経営者としては分析が必要だとは思うのですが、
漠然としかわからない部分ばかりでして。
「船でしか入れない環境や、子どもたちが
カヌー体験をできる施設であること」は
大きいと思いますが、
それだけでは継続が難しいと思いますし。
底上げがどこまで必要なのか、
継続してきてくれている人たちに
教えてもらいながらという状況です。
零細企業ゆえ、スタッフとお客さまの
相性も大切かとは思います。
- ──
- キャンプ場であっても、
そこのスタッフの方の反応がいいと
やっぱりうれしいですし。
- 山口
- 私がお客の立場に立った場合、
必要以上にお店の人に
関わられることが苦手なので、
お客さまとの距離は大切にしています。
また、安易に儲けるためにと、
つくりを変えてしまったら、
ニセモノにものになってしまう感覚があるので
力を抜いて継続する事が大切だと思っています。
「みの石」の価値観だけはブレないようにして、
継続していくことができれば。
- ──
- 継続。それは、このキャンプ場を
「守る」という感覚に近いんでしょうか。
- 山口
- そんな大げさな感覚ではありませんが（笑）。
- ──
- でも、開業から70年のキャンプ場です。
もちろん、進化しながらだと思いますが、
維持するだけでもすごいことですよね。
- 山口
- 「みの石」に自動販売機を置かないのも、
いつも来てくれるお客さんの要望だったり、
いろいろ教えてもらいながらの連続なんです。
- ──
- つまり、「進化が止まっている環境」を
体験しに来るっていう
お客さんもいらっしゃるわけですね。
- 山口
- この環境が変わってしまったら、
いま来てくれているお客さんが
離れちゃうのかな、とは思います。
- ──
- このコンテンツは、写真家の石川直樹さんの
「なんでキャンプするんですか？」
という素朴な疑問からスタートしたんです。
泊まれるなら、ホテルに泊まったほうが楽なのに、
なんでわざわざ不便な思いをするんだって。
- 山口
- ああ、そうですね（笑）。
だから、キャンプって、
「わざわざ自然を味わう」レジャーなんですよね。
- ──
- そうですね（笑）。
- 山口
- キャンプ場に来ると、
多くの人が焚火をするじゃないですか。
- ──
- はい、キャンプの
大きなたのしみのひとつだと思います。
- 山口
- このごろは、
焚き火台を使うマナーが当たり前になって、
昔のように丸太を使った小さな焚き火を
たのしむことなどは
難しくなってきてしまっていますよね。
「昔はこうだった」などと言い出すと
きりがなくなってしまいますけど（笑）。
ただ、このごろはキャンプの内容も変わり、
オートキャンプが定着し、ソロキャンプも確立し、
グランピングもキャンプの
ひとつとなったことから考えると、
ひと言でキャンプといっても
さまざまな過ごし方があるものと思います。
- ──
- このコンテンツでは、何名かの方に
「なぜキャンプするんでしょう？」と
問いかけてきたんですけど、
山口さんご自身はキャンプをする、
というわけではないんですよね。
ほかのキャンプ場にもあまり
行ったことがないそうですが。
- 山口
- キャンプが趣味というわけではないので（笑）。
ただ、仕事を継ぐってなったときに、
「キャンプってなんだ？」ということで、
あらためて日本各地のキャンプ場をまわりました。
そのときに思ったことがあって。
- ──
- ぜひ聞きたいです。
- 山口
- 当時、ログハウスがすごく流行っていて、
キャンプ場の中に建っているのを
よく見かけたんです。
豪華ですばらしいなと思いました。
上高地のキャンプ場もすごく印象に残っていて。
山から川が流れてくるのがほんとうに美しくて、
すばらしい場所でした。
- ──
- このコンテンツで取材した
キャンプギアクリエイターの小杉敬さんも
上高地や八ヶ岳の絶景に
心を奪われたと言っていました。
- 山口
- そして、様々なキャンプ場を拝見して、
ふと「真似でいいのかな？」と
感じるところがありまして、
そのときから、よそと比べることを
やめることにしたんです。
おしゃれな構造物も、
絶景もないかもしれないけど、
ここでずーっと長く培われた「空気感」を
変えずに維持したいという感覚です。
- ──
- それを求めて、きっとお客さんたちはこの
「みの石滝キャンプ場」に来るんでしょうね。
- 山口
- 自然だけであれば、さまざまなところに
すばらしい場所がたくさんありますので、
「みの石」は、「みの石」らしく、
恵まれた自然環境に感謝して、
その自然に調和した「空気感」を
維持することが大切ではないかと思っています。
- ──
- ありがとうございました。
（お読みいただきありがとうございました）
2023-07-23-SUN
