ほぼ日のキャンププロジェクトがスタートします!
じつはずっと前から準備を進めていたのです。
キャンプのたのしさ、おもしろさ、豊かさを、
どういうふうに表現すればいいのか話し合いながら。
さまざまな企画を進めていました。
そんなとき、ちょっとした事件が起こったのです。
キャンププロジェクトをスタートさせるにあたって、
世界のさまざまな場所をめぐり、
写真や文章を発表している石川直樹さんに、
キャンプについて語ってもらおうと、
取材を申し込んだときのこと。
エベレストをはじめとする8000m級の山々に挑み、
テントのなかで幾夜も過ごしてきた石川さんは、
「キャンプそのものを目的にしたキャンプって、
一度もやったことがないんです」と、
私たちが想定してなかったことをおっしゃいました。
ぎりぎりの状況のなかでキャンプをしている
石川さんにとって、キャンプ場は遠い場所だったのです。
そして、やり取りのなかで、石川さんは
こんなふうに私たちに問いかけたのです。
「なんでキャンプするんですか?」と。
じつは、それは、ほぼ日が
キャンプのプロジェクトをスタートするにあたって、
何度も考えさせられたテーマでした。
時間やお金をつかって、手間を掛けて準備して、
キャンプという、いってみれば「不便なこと」をする。
たのしいし、わくわくするし、また行くけど、
どうしてかと問われると‥‥どうしてなんだろう?
いっそ、その「そもそもの質問」から、
ほぼ日のキャンププロジェクトを
はじめてみることにしました。
5人のかたといっしょに「Why Camp?」を考えます。
1人目は、いきなり私たちを揺さぶってくださった、
石川直樹さんです。さあ、どんなやり取りに?
石川直樹(いしかわ・なおき)
1977年東京都渋谷区生まれ。
東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。
人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、
辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、
作品を発表し続けている。
2008年『NEW DIMENSION』(赤々舎)、
『POLAR』(リトルモア)により
日本写真協会賞新人賞、講談社出版文化賞。
2011年『CORONA』(青土社)により土門拳賞。
2020年『EVEREST』(CCCメディアハウス)、
『まれびと』(小学館)により日本写真協会賞作家賞。
『最後の冒険家』(集英社)により
開高健ノンフィクション賞を受賞。
- ──
- 石川さんのひと言で、
ほぼ日のキャンププロジェクトの
スタート地点が決まりました。
- 石川
- いや、ほんとによくわからなくて(笑)。
- ──
- ヒマラヤとか、どうしてもそこで
夜を過ごさなければいけない、という
ぎりぎりの状況で泊まってる石川さんからすると、
「どうしてわざわざキャンプ場に行って、
テントを張って、キャンプをするんだろう?」と。
- 石川
- まあ、そうですね。
ぼくは、いわゆるキャンプ場には
泊まったことがいままで一度もなくて、
なんでそんなことをするんだろうな、と。
なんか、ぜんぶそろってるんですよね?
薪とか、水とか、電気とか。
整地されている平らな場所で。
そういうところでキャンプをしたことないので、
ほんとうにわからないんですよ。
だから、オファーをいただいたときに、
逆にいい機会だなと思って、
「ちょっとやってみようかな」って感じで
お引き受けしたんですけど。
- ──
- キャンプ場でキャンプをする人は、
ちょっと自分から遠い存在、というような?
- 石川
- 理解はしてます。
ふだん、あんまり自然と接する機会のない人が、
何日かちいさなテントの空間の中で
夜を過ごしたりすると、
非日常的な感覚とかが得られて、
たのしいんだろうな、って。
ただ、安全が担保された場所で、
わざわざ寝てみるみたいなことが、
自分にはちょっとよくわからないので、
まあ、あんまり近づかなかったというか。
でも、たのしんでる人がいるのはわかるんです。
わかるんですが‥‥。
- ──
- それは、やっぱり、石川さんがふだん、
生きるか死ぬかという場所で
テントを張っているから。
- 石川
- そんな大袈裟な感じでもないんですけどね。
ぼくは、十代のころから、
テントに寝泊まりしてきましたけど、
それはやっぱりお金がなくて
ホテルに泊まれなかったからで。
ヒマラヤでテントを張って寝るのは、
必要不可欠というか、そうせざるを得ないから。
テントを設置する場所も、
ぐちゃぐちゃ、ぼこぼこ、すかすかのところを整地して、
川辺なら雨で増水しても水が来ない場所を選んで、
雪の山だったら、まず雪を踏み固めて。
そんなことをいつもやってるものですから、
お金を払って泊まるんだったら、
安くてもベッドや布団で寝たいなあ、と。
すみません、なんか(笑)。
- ──
- いえいえ(笑)。そういうことを
ほんとにぼくらも話していたんです。
たとえば、おいしいものがあって、
それをほぼ日でおすすめするのは、
ほとんど悩みはないと思うんです。
「これをどうぞ!」という感じで。
だって、おいしいものを食べるのって、
誰にとってもうれしい、というか。
- 石川
- はい、はい。
- ──
- でも、たとえばキャンプをしてない人に、
「キャンプに行きませんか?」と
呼びかけるときには、ちょっと考えてしまう。
準備も必要ですし、お金も時間もかかりますし、
危険なことだってあるし、面倒なこともあるし。
- 石川
- それをお金払ってやるわけですよね。
だから、ほんとに、よくわかんないなぁ、
という気持ちが完全にはぬぐえないわけです(笑)。
まあ、おいしい食べものにしても、
ぼくはもともと食べられるだけで
ありがたいって考えてるので、
ぜんぜん舌も肥えてなくて、
なんか、行列ができるラーメン屋も、
お客が入ってないようなところも、
等しくおいしく感じちゃうんです。
お腹が減ってたら、なんでも美味くないですかね。
- ──
- つまり、石川さんの場合は、
必要だから、食べるし、泊まるし。
- 石川
- そうですね。
たとえばスポーツのアクティビティとしての
カヌーやクライミングがありますけど、
ぼくは、カヌーに乗らないと
行けない場所があるからカヌーに乗ろう、となる。
クライミングの技術を使わないと、
その場所に行けないから、クライミングをしてみよう、となる。
未知の場所に到達するために、
やらざるを得ないからやるんです。
その活動そのものをたのしむ、
という感覚があんまりなくて。
- ──
- なるほど、なるほど。
- 石川
- それと同じように、
テントでの寝泊まりというのも、
たのしむという考え方がぼくにはあんまりない。
だけど、たのしむっていう感覚自体は、
否定しないし、理解もできるんです。
自分自身はそうじゃないんだけど。
- ──
- そんな石川さんに、
実際にキャンプ場で過ごしていただこうと
思っているんですが‥‥その時間を
石川さんはどういうふうに
受け止めるんでしょうね。
- 石川
- どうなんでしょうね(笑)。
ちょっと考えたのは、
ずっと本を読んでようかなと思ったんです。
- ──
- ああ、なるほど。
- 石川
- やっぱり、本を読む時間って、
年々少なくなってるなって感じていて。
若い頃は貪るように読んでいたけど、
まとまった時間をつくって
みっちり読書する機会が少なくなってくるので。
キャンプ場のテントに泊まるのって、
まあ、強制隔離ともいえるから、
何もしないで、ずっと本を読んでようかな
と思ったりして。
- ──
- ああー、キャンプをするというよりも、
個人として切り離される機会として。
- 石川
- はい。中学、高校、大学のころ、
まだ携帯とかスマホとかがなかった時代は、
かなり豊かな読書体験があったと思うんです。
なんか、降りる駅を乗り過ごして、
山手線一周しちゃうくらい
読書に夢中になっていたりとか。
いまは、そういうことがなかなかないので。
せっかくテントで寝るっていうんだったら、
もうひたすら、本ばっか読んでようかなって。
- ──
- でも、まさに、そういう
「自分の時間」「自分の空間」を
取り戻せるのがキャンプかもしれないです。
- 石川
- ああ、それはそうかもしれないですね。
だから、そういう気持ちは理解できるんです。
(つづきます)
2023-06-23-FRI