キャンプって、ほんとうにすばらしいんですよ!
と、おおいに語り、アピールするまえに、
立ち止まってしっかり考えておきたいこと。
「どうしてキャンプするんだろう?」
準備も後片付けもたいへんだし、
不自由で不便なところもたくさんあるのに。
だからこそ、問いかけるところから、
「ほぼ日のキャンププロジェクト」をはじめたい。
石川直樹さんに続いてお話をうかがったのは、
イラストレーターであり、
キャンプコーディネイターのこいしゆうかさんです。
こいしさんは、女子キャンプや
ソロキャンプの魅力を伝える講座をひらいたり、
キャンプにまつわるコミックエッセイを描いたりと、
多くの人にキャンプのたのしさを伝え続けています。
そんなこいしさんは私たちの「Why Camp?」に、
どのようにこたえてくれるのでしょうか?
こいし ゆうか
1982年生まれ。
イラストレーターとして活躍するなか、
キャンプコーディネイターとして多数メディアに出演、
キャンプの魅力を発信している。
2009年、女性視点のキャンプ情報を発信するブログ
「女子キャンプ*」を開設。
オリジナルテント「PANDA」のデザインも手がける。
主な著書に『ゆるっと始める キャンプ読本』(KADOKAWA)、
『そうだ、キャンプいこう!』(standards)、
『カメラはじめます!』(サンクチュアリ出版)など。
- ──
- キャンプはぜんぶをじぶんで決める自由なもの。
一方で、いまからはじめる人は、
「なにをどう選んでいいかわからない!」
ということがハードルになったりもしますよね。
- こいし
- そうなんですよね。
わたしも講習会で「自由」の話をしながら、
おすすめのものを伝えたりするので、
そのへんは両方をきちんと
お伝えしたいなと思っているんですけど。
やっぱり、自由なキャンプを楽しむためにも、
最低限必要な知識はあると思うんです。
たとえば、キャンプ道具を選ぶうえで、
安さを基準にするのは絶対にやめたほうがいい。
- ──
- 初心者ほど
「とりあえず安いのを買っておこう」
という人も多いような気がしますが。
- こいし
- そうなんですよね。
もちろん、選ぶ自由はたのしんでほしいんですけど、
まずは「選んじゃいけないライン」を
きちんと知っておいてほしいんです。
キャンプの道具は、
ひとつひとつが命に直接関わるものです。
だからこそ、多くのメーカーさんは、
高い開発費をかけて
たくさんの工夫をして道具を作っています。
値段が安いというだけで選ぶと
命の危険につながるので、
「安ければいい」ということは
キャンプ道具に関しては絶対にないと、
これは声を大にして言いたいです。
- ──
- 命に直結するもの。たしかにそうですよね。
「これ、かっこいい!」「かわいい!」
というだけで選ぶものではないと。
- こいし
- もちろん、ちゃんとしたもののなかであれば、
最終的にはデザインで選んでもいいと思います。
そのほうが愛着もわきますし。
一定の品質が保たれていれば、あとは正解がない世界。
だから、「これを買ったら間違いないよ」
っておすすめされたものばかりを買う必要もない。
- ──
- 道具に愛着があるのは
キャンプに行く動機にもなりそうですよね。
- こいし
- そうですね。
あとは、あれもこれもとたくさん買い集めるよりも、
ひとつの道具を長く大切に使ってほしいんです。
キャンプを続けるなかで
「どうしてもあの道具が必要だ!」となったときに
買い足すぐらいがいいなと思っています。
- ──
- たしかに、キャンプにまつわるものって、
魅力的なものが多くて、
ついついたくさん買っちゃいそうになります。
- こいし
- そうなんですよね。
でも、自然のなかにいる時間ぐらいは
ひとつひとつの道具に向き合って、
ああだこうだと試行錯誤する。
そのちょっと不自由なたのしさを
ぜひ味わってほしいんです。
- ──
- 「不自由なたのしさ」、
まさにそれが私たちが向き合っている
「どうしてキャンプをするんだろう?」
ということにつながっている気がします。
不自由だけど、それがたのしい。
- こいし
- そうですね。あとね、キャンプって、
死なない限り、ケガしない限りは、
失敗してもいいんですよ。
他人に迷惑をかけなければ、
あとは自己責任なので。
- ──
- ああ、なるほど。
- こいし
- みんな失敗したくないから
買うまえにいろいろ知識を得ようと
しすぎるところがあるように思うんですが、
失敗するなかで、
自分の道具を見つけていくのも
キャンプのおもしろさのひとつかなと思ってます。
- ──
- こいしさんも、
いまの道具に辿りつくまでに失敗したのですか?
- こいし
- はい、それはもう!
最初は何を買ったらいいかわからなくて、
段ボールをテーブル代わりにしてましたよ(笑)。
- ──
- いまのこいしさんからは想像できない(笑)。
でも、その失敗から
「次からはテーブルを持っていこう」
と学べるわけですね。
- こいし
- そうなんですよね。
事前に得た知識を使って先回りするよりも、
自然のなかで身をもって学ぶのがたのしいんです。
- ──
- こいしさんは、はじめてキャンプにいったときから、
すぐにそういうたのしさに気づいたんですか?
- こいし
- そうですね。わたしの場合は、
友人に連れられて初めて行ったオートキャンプ場が
すごくよかったんですよ。
いきなり上級者向けのキャンプ場で
トイレも汚くて「えー」と思ったんですけど(笑)、
でも夜になったらとんでもなく星がきれいで。
標高の高い山の上だから、
信じられないくらい寒くて、
でも焚火をするとすごくあたたかくて。
自然のなかに身を置くというのは、
こんなにすごいことなのか‥‥と衝撃でした。
- ──
- ちょっとハードなキャンプ場だからこそよかった。
- こいし
- そうだったんだなと思います。
「こんなに大変な環境なのに、
意外と少ない道具でもなんとかなるんだ」
と実感できたのも大きかったです。
- ──
- その後、キャンプを続けるなかで、
どんなところに惹かれていったのでしょうか?
- こいし
- 正解がないから、がんばらなくていいし
うまくならなくたっていいと気づいて、
気楽になれたのがよかったですね。
わたし、仕事で絵を描いているのですが、
「もっと上手くならなきゃ」
と思っちゃうんですよね。
絵に限らず、多くの仕事や趣味ってそうじゃないですか?
- ──
- そうですね。
- こいし
- だけど、キャンプには、上手いも下手もない。
ごはんづくりが上手いとか、道具がそろってるとか、
それってある意味、自己満足の話なんです。
他人と比べても意味がないもので。
- ──
- たしかに、競争するものでもないし、
ランキングとかつけようがないですよね。
- こいし
- そうそう。
テントを早く立てるコンテスト、
みたいなものもあるんですけど、
テントを立てるのが遅いから
キャンプをたのしめないわけじゃないですから。
技術は本質じゃないんです。
(つづきます)
2023-07-01-SAT