ほぼ日手帳ユーザーでもある
お笑いコンビ「エレキコミック」のやついいちろうさんが
初めて書いた本を持って、ほぼ日に遊びに来てくれました。
本の中ではっとさせられたのが
「おもしろくない人はいない」ということばです。
舞台上ですべっても、舞台を下りてから
いくらでも挽回できる、とやついさんは言います。
日常の中から「おもしろい」の種を見つけ、
コントやラジオを通して笑いを届けているやついさんと、
「おもしろいって、何だろう」の話をしました。
担当は、ほぼ日の古俣です。

>やついいちろうさんプロフィール

やついいちろう

1974年三重県生まれ。
1997年、大学の後輩だった今立進さんと
お笑いコンビ「エレキコミック」を結成。
2000年、NHK新人演芸大賞(演芸部門)を受賞。
曽我部恵一さんの勧めでDJ活動を始め、
「DJやついいちろう」名義で9枚のCDをリリース。
2012年から毎年『YATSUI FESTIVAL』を企画。
TBSラジオ「エレ片のコント太郎」は13年目を迎える。
2019年、自身の初となるエッセイ
『それこそ青春というやつなのだろうな』を上梓。

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第4回 ただ、おもしろがりたいだけ。

やつい
なんか、変な声が聞こえる。
──
実は、ほぼ日の見習い宇宙鳥シジュちゃんが、
やついさんに聞きたいことがあると言っていまして。
シジュ
(ガチャ、とドアを開けて部屋に入ってくる)
いちろうさん、こんにちは!
やつい
こんにちは、久しぶりだね。

シジュ
シジュのこと、覚えててくれたの?
おととしの、ほぼ日手帳ガイドブックの取材のときに
ごあいさつしたんだジュな。
やつい
うん、覚えてた。
あのね、本が出たんだよ。
『それこそ青春というやつなのだろうな』
シジュちゃんも読んでね。
シジュ
もしかして、その本に
シジュがおもしろくなれる秘密、書いてある?
やつい
書いてあるよ。っていうか、
もうおもしろいじゃない。2頭身だし。
シジュ
そうなの?
あのね、シジュはもっと売れたいの。
売れるためにどうしたらいいだジュか?
やつい
売れたいのかあ。
でも、やれる役が少ないね。
通行人とかできないもんね。
シジュ
そうなんだジュ。
やつい
でも、匿名性がゼロなんだから、
もっと匿名性を出していけばいいんじゃない?
シジュ
えっ?これから?
やつい
マスクするとか、変装するとかして、
逆にばれないようにしていくっていう。
そうすることで、「あいつばれないようにしてる」
「ばれないわけないのに」っていう方向で。
シジュ
そっかあ!

やつい
自分から攻撃されていくっていうか。
だって、攻撃からの人気じゃない?
シジュ
攻撃からの人気ね。
逆境からの立ち上がりね。
やつい
そうそう。
むしろがんばって個性を消していくのがいいよ。
シジュ
そうだよね。がんばるよ。
岡本太郎さんも「人生積み減らし」って言ってた。
‥‥やついさんのその本、すてきな表紙だね。
やつい
江口寿史さんに描いてもらったんだよ。
シジュ
すごいじゃん!
シジュは『ストップ!!ひばりくん!』と
『すすめ!!パイレーツ』が大好きだジュ。
やつい
シジュちゃんて、いったい何歳なの?
もしかしてぼくと同世代か、もっと上ぐらいじゃ‥‥
シジュ
‥‥。
あ、そうだ。
いちろうさん、ほぼ日で出している本をあげるね。
ちょっと誰かチャック下ろして、チャック!

やつい
えっ?
シジュ
‥‥チャックのすき間から、はい。
この本をどうぞ!

やつい
ああ、これ読みたかった本だ。
ほぼ日のコンテンツも読んでたよ。
池谷先生のインタビューで出てきた文章がおもしろくて、
メモって、コントにしようとしてたの。
なんか、コントだなと思ったんだよな。
シジュ
え! どんなところ?
やつい
ええとね‥‥(と、メモを探しながら)
音には硬いも柔らかいもないのに、
「柔らかい音」と「硬い音」は
だいたいこういう音っていうふうに、
人が考えるのはなぜだろうっていう。
シジュ
うん。
温かい心と冷たい心もないんだよね。
やつい
ないのに想像するってことが
おもしろいと思ったんですよ。
これはコントにできると思って。

シジュ
そのコント、ぜったい見たい!
‥‥それで、みんな、もう取材は終わったの?
やつい
途中だったよ。
シジュ
シジュがじゃましちゃったんだ、ごめんね。
じゃあ、もう行きます。
ありがとう。ばいばーい。
やつい
またね。ありがとう。

 
* * *
──
お騒がせしました。
ええと‥‥「おもしろい」についての
話をしていました。
やつい
おもしろいってね、なんですかね(笑)。
──
ほぼ日でも、
おもしろいコンテンツを作りたいって、
みんなが考えています。
でも、むずかしいです。
やつい
「おもしろい」は「笑える」とも
また違うもんね。
それぞれの人の興味っていうのもあるし。
──
自分ではおもしろいと思ってるものが、
人から見たらおもしろくないっていうことも
ありませんか。
やつい
でも、自分がおもしろいって思うものが
ちゃんとあるってことは、力だと思いますけどね。
人におもしろくないって思われちゃうということは、
ほかのおもしろさに負けただけ。
咲く場所が違っただけで、
どっか違う場所に植えれば、咲くと思う。
──
咲く場所が違っただけ。
やつい
自分はいいと思っているのに、
全然人が買ってくれない、集まってくれない。
でも、自分はいいと思わないものに
人がいっぱい集まってる。
それって、なんでなんだろうって考えると、
おもしろいと思うものを売る能力に
長けているか、そうでないかだけだと思うんですよ。
自分のおもしろいが
ほかの人のおもしろいに負けたわけじゃなくてね。

──
売る能力の違い。
やつい
自分がおもしろいって思ってることが
間違ってるってことはない。
だって、自分っていう人を
おもしろがらせたわけでしょ、それが。
ただ、それを伝えられないだけなんですよね。
──
咲かせる場所や、伝え方の問題‥‥
そうかもしれません。
やつい
それに、おもしろいって
もっともっと大きい価値観だから、
咲かせる場所だって伝え方だって、
本当にいろいろあると思うんです。
──
そうですね。
やつい
お笑いとかコントとかっていうのは、
嘘の芝居を作って見てもらうという
限定的なものであって、
おもしろいの中のすごく一部なんですよね。
ぼくも、お笑いをやっている時間だけが
おもしろいわけじゃないと思っていて。
自分次第で、24時間おもしろく
過ごすこともできるわけですよ。
──
はい。
おもしろいは、いくらでも増やせる。
やつい
だから、最近はとにかく
経験を増やす、引き出しを増やすっていう方向に
自分の活動をシフトしています。
無理矢理にでも毎月、海外旅行に行ってみたり。
未経験なことをしていくのって、
やっぱりすごくおもしろいですよ。
──
自分をつねに
おもしろがってる状態にしておくんですね。
やつい
そう。
自分をおもしろがらせ続けることって
大事だと思います。
ぼくは今まで、たくさんの人に
笑ってもらいたいって思ってやってきたけど、
それって突き詰めると、
ただ自分がおもしろがりたいだけなのかも。
もっと大きい意味では
幸せになりたいだけなのかもしれないって
最近、思うんです。
──
幸せになりたいだけ。
やつい
コントを作ったりDJをやったりしているのも、
人が楽しんでれば自分も幸せだから。
旅行に行くとか、おいしいものを食べるとか、
好きな服を買うとか、好きな人に会うとか‥‥
つねに自分をおもしろがらせて
生きていきたいんですよね。
それで、最後の最後の終わり際に
「なーんか、おもしろかったな」って言えたらいいなと。
──
「なーんか、おもしろかったな」って、最高ですね。
今日は「おもしろい」についてあれこれ話せて、
おもしろかったです。ありがとうございました。
やつい
ぼくもおもしろかったです。
ありがとうございました。

(おわります)

2019-10-11-FRI

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  • やついいちろう
    『それこそ青春というやつなのだろうな』
    1,400円+税(PARCO出版)

    やついいちろうさんが
    大学の落研でお笑いに打ち込み、
    プロになるまでの
    4年間のことをつづったエッセイ。
    家賃1万8千円のアパートで
    次々に起こる事件や
    落研の仲間たちとともに
    経験した失敗と成功‥‥
    おもしろいエピソードが
    たっぷりつまった一冊です。