出会った20年以上前から変わらない。
「いまの東京のカッコいい」を
ずっと引き受けてきた人のひとりだと、
勝手に思ってます。
そんなスタイリストの梶雄太さんに、
いつものお店で「昼めし」を食べながら、
「服とその周辺」について聞く連載。
月に一回、毎月25日の更新です。
お相手は、「ほぼ日」奥野がつとめます。
梶雄太
1998年よりスタイリストとして活動開始。ファッション誌、広告、映画など幅広く活動し、現在に至る。性別・世代を越え、ユニーク且つ、オリジナリティ溢れるスタイリングに定評がある。スタイリストのみならず、ブランドディレクションや執筆なども手掛ける。
梶雄太って、どんな人?
つきあいの長いふたりの編集者に語っていただきました。
A:
おたがいに梶くんとは薄く長いつきあい(笑)。
B:
昔の話だけど、梶くんと一緒に仕事して、
スタイリストってものを
はじめて理解できた気がしたのよ。
A:
はじめに服ありき、ではなく、着る人ありき。
オレはそんなふうに思ったことを覚えてるな。
B:
モデルであれ、俳優であれ、一般人であれ、
その人に似合うものを第一に考えてるよね。
A:
なんとなく選んでるように見せて、
じつはすごく考えられていたり。
本人は否定しそうだけど。
B:
ディテールへのこだわり方に引いたことあった。
繊細よね。きっと世間のイメージとは反対で。
A:
なんか、そういう二面性はあるね。
大胆で繊細、感覚的で理論的、みたいな。
B:
でも、嘘はないし、
相手によって態度を変えることもないから、
スタイリストとしても人間としても
信頼できるってのはある。
A:
褒め殺しみたいになっちゃってるけど、
これで梶くんのことを語れてるんだろうか。
B:
本人は嫌がるだろうね。
でも、このまま載せてもらおう(笑)。
A:
あくまでオレらから見た梶くんってことで。
B:
信じるか信じないかは、あなた次第。
構成・文:松山裕輔(編集者)
居酒屋メニューにライスで
「ぼくの夢のランチ」のできあがり!
ここ、同級生の井澤くんの店なんですよ。当時住んでたマンションも一緒で、すぐそこの鷹番小学校へ仲良く通ってました。お店は「でんば」って読むんだけど、居酒屋なのに「ライス」がある。つまり、好きなメニューと組み合わせれば「ぼくだけのランチ」ができちゃうんです。今日はえっちゃんのコロッケにソーセージ盛り合わせ、なすチーズ焼き、ポテトサラダ、もつ煮‥‥ほら、夢のランチの完成です! え、えっちゃんのコロッケの「えっちゃん」って? 井澤くんのお母さん。自宅でタネを仕込んで、あとは揚げるだけにして持ってきてくれるんだって。これがね、めちゃくちゃいいんですよ。ホクホクしてて、ほどよくクリーミー。油っぽくなくて、やさしい味です。しかもお値段300円。ポテトサラダは、この夢のランチにとっての「オアシス」のような存在。真ん中に置いて、まわりを囲むおかずオールスターズと行きつ戻りつしながら。ライスも、おかわりしちゃいます。
それもこれも「ライス」のおかげ。
居酒屋さんで、めずらしくないですか?
奥さま「わたし、足立区で育ったんですけど、あのあたりの居酒屋さんって白いごはんとかお茶漬け、焼きおにぎりなんかをふつうに出すんです。だから、足立スタイルです(笑)。目黒のカルチャーに合うかなとも思ったんですけど、おうちで食べるようなごはん、きっと目黒の人たちも好きだよねって思って」梶「大好きですよ。最高のおうちごはんです。これは最大級の褒め言葉です」担当編集「ちなみに井澤さんは以前クロネコヤマトのドライバーさんだったそうですね」井澤さん「はい。なので、もとの配達先から食材を仕入れたりしてます。え、ノウハウですか? ヤマト時代に通っていた居酒屋の店主の方に相談したら、ぜんぶ教えてくれました。同じ駅でやってるのに、惜しげもなく。昨日も枝豆を持ってきてくれて、お店で出しなよって。ちなみにその方、もともと佐川のドライバーだったんです」担当編集「ヤマトのドライバーさんがもと佐川のドライバーさんに教えを請い、いまはどちらも居酒屋さん。美しい‥‥」梶「うん、えっちゃんのコロッケやっぱり最高。奥野さんもはやく食べたほうがいいですよ。なくなっちゃいますよ?」
洋服の話でもしましょうか。
今日は全体に茶系のレイヤードですね。
いちばん上は、ベースメントギアという日本のブランドのジップパーカ。無地ばっかりの、いわゆるボディブランドなんですけど、めちゃくちゃ調子いいです。他にTシャツ、ロンT、スウェット、プルオーバーのパーカとかつくってて、もちろんどれも無地。まあ、とくに安くはないんだけど、そのぶん地厚でタフで、ちゃんと品質感のあるつくりをしてます。ポイントは「ジップアップ」ですかね。いま、世の中的にはプルオーバー主流じゃないですか。フーディとかって呼ばれて、頭からかぶるタイプ。こういうジップアップのパーカって、みんなあんまり着ていない。だから、いまこそ着たいなと。この懐かしい感じが、かえって新鮮に見えると思います。パーカの下は、アメリカのボディブランド・ギルダンのスウェット。同じく無地で茶色系。コンサバの女性が着る「ニットのアンサンブル」ってあるじゃないですか。あの気分です(笑)。ダブルニーのチノパンは、バーンストーマーさんが試作してくれたもの。靴はクラークスのデザートブーツ。学生のころ、これでマラソンの授業に出ていたことを、いま急に思い出しました(笑)。
梶さんの着こなしやスタイリングには
いつも新鮮な提案があります。
スウェットの上にスウェットもアリだと思います。すでに過去、無意識のうちにやってた可能性もあるけど。何号か前の『BRUTUS』のファッションページで、スーツやライダースの上から、オーバーサイズのTシャツを合わせたんです。一見あり得ないようなスタイリングだけど、なかなか好評でした。とくに洋服屋さんにウケてましたね。いまって「カッコいい」の方向性が一方通行になっちゃってると思うんです。みんな同じ。ブランドのオウンドメディア含め媒体の数は増えたけど、ビジュアルのつくりが「売上」の方しか見ていないというか。だから結果として、同じようにスタイリッシュで、同じように素敵なイメージばかりが量産されちゃうんでしょうね。昔の雑誌が持っていた批評精神やフェアな気持ちって、やっぱり必要だと思うんですよ。時代がどう変わっても。花森安治さんのころの『暮しの手帖』みたいな。何ていうのかな、もっといろいろカッコよくていいんです。だからせめて自分は、お金とか売上じゃないものさしでジャッジして、自分なりのスタイルを提案し続けていければいいなと思います。ファッションって、いまの世の中にあふれているものより、もっとぜんぜんおもしろいと思うので。
一緒に街角おしゃれスナップに行ったとき、
学ランの高校生をつかまえてましたよね。
ああ、覚えてます。あり得ないですよね、ふつうは。おしゃれスナップなんだから。でも、カッコよかったんでしょうね、その子が。学ラン込みで。思えば、そのころから学ランを気にしてたんだなあ。いや、何年か前に「真っ赤な学ラン」をつくったことがあるんですよ。SANSE SANSE(サンセサンセ)って自分のブランドで。まったく売れなかったんだけど。そしたら、今年(2024年)秋冬のパリコレで、とあるコレクションブランドが「学ラン風の真っ赤なスーツ」を発表してたんです。あの、まったく売れなかったぼくの学ランと金ボタンまで同じ。「おお!」っと思いました。さらに言うなら、もう何年も前に「レザーベスト」をつくったんです。某俳優さんが2時間ドラマで着ていたカメラマン用のレザーベストにオマージュを捧げるつもりで。これもマジで売れなかったんだけど、一部の人がおもしろがってくれて、いまでも部屋のオブジェとして飾ってくれたりしてるんです。そしたら最近になって、また別のメゾンブランドが、そっくりのレザーベスト出してた。もちろん偶然だとは思うんですけど、まわりの人からは「梶くん、いろいろ早いよね〜」って言われます(笑)。
でも、いきなり本気っぽいのは無理。
どのへんからはじめたらいいですか。
(30代・いつかA2デビューしたいパン屋さん)
カバーオールとか取り入れやすいと思います。もともと鉄道作業員や農夫など、今日のアメリカの基礎を築いた労働者のユニフォームとして進化してきた服ですよね。近年はビンテージデニムの価格高騰からか「次」を求める人はカバーオールに注目している気がします。いろんなコレクションブランドもカバーオールモチーフのモデルを発表してますし、今シーズンはカバーオールの当たり年になりそうな気配。大きめサイズのものをふだんのスタイルに合わせるだけで、おしゃれなアメカジ感が出せるのではないでしょうか。あとは、カウチンですね。カナディアンセーターとも呼ばれていますが、アメカジの王道アイテムのはず‥‥なのに、いまいち主役になりきれない感じがするんですよね。デニムやスタジャン、ミリタリージャケットなどわかりやすいアイテムの陰に隠れている感じが、個人的には好きなんです。これ、アメカジっていうけど「カナディアン」だからなのかな‥‥? 今年は、たくさん着たいと思っています。
(つづきます)
タイトル:加賀美健
2024-10-25-FRI