あれだべ?
口の下にはえてる2本のヒゲがよ、
人間のオジサンに似てるっつうんだべ?
それは、べつに言ってもいいど思う。
似てると思ったんだから、しょうがねえべさ。
んだどもよ、なにもそれを、そのままよ、
名前にすることは、ねえべした!
‥‥最初にそれを聞いたのは、
ほら、なんだ、ダイビングっていうのけ?
あれをやりにきた人間をみにいったときだ。
水面のほうまで行ってみたら、
船の上の人間がおれを指さして言うんだよ。
「あの魚の正式名称は、オジサンです」
いやぁ、たまげたぁ。
たまげながら、よらよらと海底に戻って、
「ん?」と気づいたんだ。
ちょっと待で、と。
いくらなんでも、てきとうすぎるべ、と。
‥‥んだから、つまりな、
百歩ゆずって、おれみたいなのはいいのよ。
ほんとうに中年のおっさんだから。
「オジサン」って呼ばれても、すかたねえ。
それは、すかたねえとしよう。
でもよ‥‥‥‥。
じつはおれ、最近、恋をしてるの。
若い女の子とつきあってんの。
そりゃあ齢の差があるから、恋の障害はあるよ。
まわりからいろいろ言われたりするんだよ。
とくにタコが冷やかす! 口笛とか鳴らして!
あいつはやかましくてしつこい! タコ!
‥‥タコの話はともかぐ、
そういう周囲の目もあるけれども、
おれは彼女を大切にしようど、覚悟さ決めたんだ。
話、それてるか?
うんにゃ、それてねえ!
なにを言いてえかっつうと、
「おれのだいじな彼女もオジサンですか?!」
っていうことだよ。
おかしいべさ!!
あんなに若くてぴっちぴちの
かわいこちゃんをつかまえて「オジサン」って、
彼女に失礼だべや!
もいっぺん言うけどよ、
おれは男だからオジサンでもかまわねえ。
んじゃあ、彼女のことはなんと呼びますか?
女だから「オバサン」ですか?
冗談じゃねえ!
彼女はぴちぴちだっつうの。
「オジサンのメス」? 「メスのオジサン」?
「おんなのオジサン」? 「オジサンのおねえさん」?
もう、わけがわがんねえ!
わがんねえだけじゃなくて、
彼女の耳さ、入れるわけにはいかねえぞ、これは。
傷つくべよ、彼女のココロとウロコが。
ああ〜、事態は深刻だ。
タコの耳にも入れられねえ。あいつは、しゃべる。
ああ〜、事態は深刻だ。
こんな名前なら、しらねえほうがよがっだぁ‥‥。
(つぎなる嘆きへつづく)
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