バフンウニの嘆き。  Nageki Of Bahun-uni


和名 ケブカガニ
学名 Pilumnus vespertilio
十脚目
科名 ケブカガニ科
甲の幅 約3センチ
生息場所 熱帯から亜熱帯の珊瑚礁
嘆きその16 ケブカガニ

いかにも、わしは、ケブカガニである。
それがなんだというのだ。
もう一度、声高らかに言おう。
わしの名前は、ケブカガニであるっ!
漢字で書けば、毛深蟹。
──なんでも、近年の風潮では、
さっぱりしている者ほど好まれると伝え聞く。
あぁ‥‥。
嗚呼‥‥…。
嘆かわしいっ!!
じつに、じつに嘆かわしい‥‥。
体毛のすくない、つるつるの輩たちは、
「爽やか」とか「清潔な感じ」などと称えらる。
一方で、体毛が多い者は「きもちわるい」。
なんなのだそれはっ!?
意味がわからない。
「永久脱毛」ぅ? どういうつもりだ!
その考え方が、動物として
どうかしているとは思わんのかっ!?
「毛がはえる」はすなわち、
生きていることの証ではないのかっ!?
それを「きもちわるい」とは、なにごとだっ!!
ああああ‥‥嘆かわしいっ!
わしは口角泡を飛ばして言いたい。
見よ、この肉体を。
毛が、ふっさふさだ。
いや、それどころではない、ぼうぼうだ。
わしは、毛がぼうぼうなのだ!!
毛がぼうぼう。
なんという心地よい響き‥‥。
こういうことこそが、生きる喜びではないのか。
ぼうぼうの体毛、それは、あふれる命のエナジー。
その「命」を、毎日毎日、剃る‥‥?
嘆かわしいことを‥‥。

かように、
わしはわし自身の「毛」に一片の恥は無い。
問題は、そこではない。
わしが嘆きたいのは、
ここに連れてこられたという事実である。
「あなたも、ぜひ」
とバフンウニに誘われた。
‥‥なぜ誘う。
「あんまりな名前」「気の毒な名前」
そう思われているのか‥‥。
口惜しい‥‥。
嘆かわしい‥‥。
その風潮を嘆き、自身の名前には誇りを抱きつつ、
わしは横ばいで穴に帰ろう。
‥‥ちなみに、そんなわしの大きさは約3センチ。
もしも将来、
「チビケブカガニ」などという名前がつけられたら、
わしは再び、ここへ戻ってこよう‥‥。

(つぎなる嘆きへつづく)

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2010-04-20-TUE