バフンウニの嘆き。  Nageki Of Bahun-uni


和名 死球
俗名 デッドボール
英名 hit by pitch
スポーツ
分野 野球
嘆きその40 デッドボール

「──やったのは、お前だな?」

お、おれじゃない、おれは殺してない!

「うそをつけ!」

うそじゃない! 信じてくれ!

「あくまでしらを切り通す気か」

ほんとに殺してないんですよ、刑事さん!

「──おまえ、名前は?」

え? デッドボールです。

「よし、自供」

いやいやいやいや、違うんだ刑事さん!
おれは「デッドボール」だけど、
相手は「デッド」じゃない、
殺ってないんだ!

「10月5日20時頃、おまえ、どこにいた?」

マ、マウンドにいました。

「そうだな。
 そしておまえは打者に向かって投球する。
 キャッチャーの証言はこうだ。
 『私は外角低めのストレートを要求しましたが、
  投球はインコースにすっぽぬけました』」

た、たしかに、そのとおりですが、
それがどうしたっていうんです!

「そして投球は打者の左臀部に接触!
 これは、3万人の観客が目撃してるんだ!
 ‥‥殺ったのは、おまえだな?」

殺ってない! 殺ってない!
ただのデッドボールじゃないですか!

「よし、自供」

じゃなくて! じゃなくて!
そういう名前なんですよ!
ルール上の呼び名が「デッドボール」なの!
こう、かまえてるバッターに
投げたボールが当たったら、
死ぬとか死なないじゃなくて、
「デッドボール」っていうことになるの!

「ほう‥‥そういうルールだと?」

そうです。しょうがないんです。

「──おまえ、野球の発祥国を知ってるか?」

‥‥アメリカです。

「そうだ。じゃあ訊くが、アメリカで、
 投球が打者に当たることを、
 ルール上、なんて呼ぶか知ってるか?」

‥‥‥‥ひぃ。

「答えろ!
 アメリカじゃそれをなんと呼ぶんだ!」

‥‥‥‥ヒット・バイ・ピッチです。

「そうだな? 野球の発祥国、アメリカでは、
 投げたボールが打者に当たることを
 『ヒット・バイ・ピッチ』と呼ぶんだよな? 
 じゃあ、なぜ『デッドボール』なんだ!」

和製英語! 和製英語!

「ちなみにおまえの日本名は?」

死球といいます。

「連行しろ!」

待って、待って、話を聞いて!
おれよりも「危険球」のほうが
よっぽど、たちが悪いんだから!
あと、挟殺プレイとか、三重殺とか、捕殺とか、
野球界は悪人ぞろいなんだから、
おれよりも、そいつらを! け、刑事さん!


(つぎなる嘆きへつづく)

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2010-10-05-TUE