「──やったのは、お前だな?」
お、おれじゃない、おれは殺してない!
「うそをつけ!」
うそじゃない! 信じてくれ!
「あくまでしらを切り通す気か」
ほんとに殺してないんですよ、刑事さん!
「──おまえ、名前は?」
え? デッドボールです。
「よし、自供」
いやいやいやいや、違うんだ刑事さん!
おれは「デッドボール」だけど、
相手は「デッド」じゃない、
殺ってないんだ!
「10月5日20時頃、おまえ、どこにいた?」
マ、マウンドにいました。
「そうだな。
そしておまえは打者に向かって投球する。
キャッチャーの証言はこうだ。
『私は外角低めのストレートを要求しましたが、
投球はインコースにすっぽぬけました』」
た、たしかに、そのとおりですが、
それがどうしたっていうんです!
「そして投球は打者の左臀部に接触!
これは、3万人の観客が目撃してるんだ!
‥‥殺ったのは、おまえだな?」
殺ってない! 殺ってない!
ただのデッドボールじゃないですか!
「よし、自供」
じゃなくて! じゃなくて!
そういう名前なんですよ!
ルール上の呼び名が「デッドボール」なの!
こう、かまえてるバッターに
投げたボールが当たったら、
死ぬとか死なないじゃなくて、
「デッドボール」っていうことになるの!
「ほう‥‥そういうルールだと?」
そうです。しょうがないんです。
「──おまえ、野球の発祥国を知ってるか?」
‥‥アメリカです。
「そうだ。じゃあ訊くが、アメリカで、
投球が打者に当たることを、
ルール上、なんて呼ぶか知ってるか?」
‥‥‥‥ひぃ。
「答えろ!
アメリカじゃそれをなんと呼ぶんだ!」
‥‥‥‥ヒット・バイ・ピッチです。
「そうだな? 野球の発祥国、アメリカでは、
投げたボールが打者に当たることを
『ヒット・バイ・ピッチ』と呼ぶんだよな?
じゃあ、なぜ『デッドボール』なんだ!」
和製英語! 和製英語!
「ちなみにおまえの日本名は?」
死球といいます。
「連行しろ!」
待って、待って、話を聞いて!
おれよりも「危険球」のほうが
よっぽど、たちが悪いんだから!
あと、挟殺プレイとか、三重殺とか、捕殺とか、
野球界は悪人ぞろいなんだから、
おれよりも、そいつらを! け、刑事さん!
(つぎなる嘆きへつづく)
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