嗚呼!
大いなる飛躍をはばまれ、
果てなき無人の凍土に
茨にて幾重にも縛られし
高潔なる魂よ!
貧困の沼に足をとられ、
嫉妬の渦に巻き込まれ、
常識の檻に封じ込められし、
純粋なる魂よ!
そうだ、魂よ、いまこそ、
雨上がりの雲の切れ目に向かって
はなたれるべし!
金剛石の湖面に完璧な波紋を残しつつ、
はなたれるべし!
そして、はなたれた魂は、
はなたれた歓喜に
身を震わせながら‥‥む?
‥‥なにがおかしい!
そこ! なにをくすくす笑っている!
マジメに聞かぬなら、立ち去るがいい。
さて。
嗚呼! 乙女よ!
その半透明なるうなじ、
熟れ落ちる秋の芳醇を予感させる
その小さき耳たぶ、
奔放な黒髪のダンスの切れ目切れ目に
見え隠れする肩口の骨の稜線よ!
嗚呼! 乙女よ!
君の名を呼びかけては口をつぐみ、
君の指を求めかけては愚かさを呪い、
君自身になろうとして我に返る。
ああ、ここに泣き濡れ、
燃料を無闇にくすぶらせているのは、
吾の胸から君の住み家へと向かう
情熱の矢印なり!
さぁ、いまこそ、我が情念よ、
はなたれたまえ!
否、はなたれるべし!
あたかも、
はなたれた子どものように!
‥‥こらっ! なにがおかしい!
我が魂の詩を聞き、なぜくすくす笑うか!
え? なになに? ‥‥「はなたれる」?
‥‥ち、違う! 断じて、違う!
それは大いなる誤解である!
「はなたれる」は
「放たれる」であって、
「鼻、垂れる」ではない!
いや、たしかに、音としては、
「はなたれる」だけれども!
ええい、そんなことはどうでもいい!
そんなくだらんことに
我が魂の謳歌をじゃまされてはならん!
ええと、どこまで叫んだかな?
ああ、そうそう、我が情念ね。
えー、我が情念よ!
ときはなたれたまえ!
はなたれた私は、
はなたれながら、
ひとりの男として、
はなたれまいとする理性と、
はなたれてうれしいという本能に、
鼻垂れながら、あ、いやいや、
放たれながら、引き裂かれつつ、
それでも、はなかみながら、
あ、いや、はにかみながら、
鼻水たらして、いや、違くて、
汗水たらして働くことを、
ふ、ふ、ふぁくしょん! はくしょん!
うわー、風邪ひいたかな‥‥
昨日、ちょっと湯冷めしたから‥‥
チーン、チーン!
‥‥あ、これは、ほんとの鼻ね。
難しい漢字で表すと、洟ね。
うん、これは、はなたれてる。
間違いなく、鼻垂れてる。
チーン、チーン! へくしっ! うー。
で、魂の詩に戻るけれども、
嗚呼! 我が永遠なる魂よ!
はなたれたる魂よ!
はなたれたくて、はなたれたくて、
とうとう、はなたれた魂よ!
乙女の前で、はなたれた俺よ!
君に見つめられ、はなたれた俺よ!
プロポーズのときに、はなたれた俺よ!
めちゃめちゃ、はなたれた俺よ!
すっごく、はなたれた俺よ!
こら! なにがおかしい!
もー、マジメに聞けってば!!
(つぎなる嘆きへつづく)
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