奈良美智インタビュー  NOWHERE MAN  IN THE SPACESHIP  ひとりぼっちの絵描き。
糸井 じゃあ、もう、奈良さんは、どこにいようと
自分の絵を描くことができますよね。
奈良 できると思う。
糸井 那須でも、東京でも、六本木でも。
奈良 あー、でも東京いるとダメかもしんない。
糸井 そう?
奈良 うーん、やっぱり、
たのしいものがいっぱいあるから。
糸井 (笑)
奈良 飲みに行こうとか言われると、
行っちゃうだろうし。
そういうところは強くないんですよ。
糸井 ああー。
奈良 どっかにひとりで
行くことに関してはぜんぜん平気で、
そういう面では、はたからみたら
すごく強い人間に思えるのかもしれないけど、
みんなといたら、そっちに行っちゃう(笑)。
糸井 案外、「みんな」ってやつは強力で。
奈良 うん(笑)。
糸井 だから、世捨て人ではないんですよね。
奈良 ぜんぜん、世捨て人とは違いますよ。絶対。
糸井 ね。
孤独っていうものの貴重さを、
いつでも味わえるといいつつ。
ただ、そこでの「みんな」って、
人数でいうと、5、6人の感じ?
奈良 うん。そうですね。
そうかもしれない。
糸井 おもしろいなぁ‥‥。
ああ、でも、オレ、奈良さんに会って、
今日から思うことにするわ。
ひとりで、どこにいても、
宇宙船っていう感覚を
一瞬でも味わえる可能性があるかもしれない、
って信じるわ。
奈良 うん(笑)。
糸井 それは、今日聞いて、ほんとによかった。
奈良 ほんとにね、その感覚よくあって。
たとえば二十歳のころに、
部屋でひとりで絵を描いていて、
窓の網戸とかに、蛾が来てるのを見ると、
すごいその蛾がいとおしくなる。
糸井さんが森の中できのこを見つけたのと同じ。
糸井 ああ、わかった。
一回だけ、それに近い感覚を
人に説明できたことがある。
ひとりで、朝早く釣りに行って、
ほかに誰も知らないような場所で
糸をたらしていると、糸の向こうを魚が、
ぷるん、と通っていくんですよ。
奈良 あー。
糸井 そのときに、もう泣けるほど、
「いたっ!」って、うれしくなるんですよ。
奈良 あー、すごいですねぇ。
糸井 うん。
それは友だちといたんじゃ、絶対に味わえない。
「ひとり」じゃないと、味わえない。
奈良 たしかに。
糸井 で、そのとき、
糸を揺らしてくれた魚っていうのは、
自分が釣る相手なんだけど、
同時に最高の友だちだし。
奈良 うん。
糸井 いってみれば、宇宙ぜんぶだし。
奈良 うん。そう。
糸井 何度もはない、その感じは。
奈良 ほんとに「ひとり」じゃないと。
糸井 そう。
奈良 なんか、昔、アポロで月に行って帰って来た人が、
地球に降りてきて、鉄が錆びてるの見ただけで、
その錆び自体が、ものが酸化するということ自体が
いとおしくて、感動したっていう話を聞いて、
そういうのとも似てるなと思った。
糸井 うん。阿寒の森でもね、
苔とか、地衣類みたいなものが
時間の流れと空間を埋め尽くしてる感じとかが、
なんか、たまんないんだよ。
奈良 すごく貴重な体験したんですね。
ぼくも、この前ね、
アイスランドってところに行ったんですよ。
糸井 うん。
奈良 そしたら自分がこびとになったくらい
自然がでっかくて。
糸井 そっか、そっか。
奈良 とにかく、スケールが大きくて。
自分が菌の一部になった気がした。
糸井 そう、それだよね。
きっと、人も音楽も‥‥。
奈良 うん。いらない。
鳥のさえずりとかが、
すごくよく聞こえるんです。
ほんと、人間のつくったものがいらなくて。
糸井 その意味では、ぼくらがいつも
「人間」や「人間のつくったもの」で
遊んでるっていうのは、
代理の遊びなのかもしれない。
奈良 うん。
糸井 だから劣ってるっていうことじゃなくてね。
奈良 うん。だからこそ、人に伝わるのかもしれない。
糸井 そうだね‥‥。
いや、この感じ、もったいないから
今日は、この話、ここでやめよう。
奈良 はははははは。
糸井 やめるね。
奈良 ボロがでないうちに。
ははははは。
糸井 ありがとう。
最後に、もう一度言うけど、
その、ひとりの宇宙船の話は、
たまんなかった。
奈良 ああ、ほんと(笑)。
糸井 うん。
奈良 そっか。
糸井 あー、おもしろかった。
きっと、奈良さんが想像しているより、
ずっとぼくはおもしろかったよ。
奈良 ほんと(笑)。
糸井 うん(笑)。




奈良美智さんと糸井重里の話は
これでおしまいです。
最後まで読んでいただき、
どうもありがとうございました。


2010-11-30-TUE

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN