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糸井 |
レゾネ(全作品集)をつくるんだって?
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奈良 |
そう。
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糸井 |
若いころの作品もぜんぶ?
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奈良 |
うん。
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糸井 |
どのくらいになるんだろう。
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奈良 |
なんか、5000点近く収録されるみたい(笑)。
1冊じゃ収まらないから、2冊になるのかな。
とにかく、紙に描いたものとかは
めちゃたくさんあるから。
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糸井 |
「持ってる人いませんか?」って
呼びかけたわけでしょう。
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奈良 |
そう。
数は、すごいことになっていて。
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糸井 |
覚えてない絵とかも出てきたりする?
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奈良 |
うん、たくさん出てきた。
でも、やっぱり、見たら思い出す。
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糸井 |
ああ、そうなんだ。
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奈良 |
うん。
たとえば、酔っぱらって、
どこかの店で描いたようなものって、
描いた記憶はないんだけど、
その絵をパッと見た瞬間に、
「あ、描いた!」ってありありと思い出す。
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糸井 |
そういう絵ってさ、
存在も忘れちゃってるくせに、
絵の中にすごく自分が出てたりしない?
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奈良 |
うん(笑)。
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糸井 |
それって、怖いよね。
怖いし、けっこう恥ずかしい。
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奈良 |
自分じゃないようだけど、自分なんですよね。
なんていうか、ボクサーとかで、
パンチ打たれて、一瞬気がとんでるんだけど、
戦い続けて勝っちゃって、
勝ったときのこと覚えてない、とか。
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糸井 |
そうですよねぇ。
若いときの絵なんて、
そういうものの集合なんじゃないか。
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奈良 |
そうかも(笑)。
紙に描いたやつは、ほとんどそういう感じ。
ほんと恥ずかしいし、恥ずかしいものほど、
「オレだ」って思うものが残ってる。
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糸井 |
いいねぇ(笑)。
その気持ちはなんだか、貴重だねぇー。
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奈良 |
じつは、うちにまだ、
かなりの量のドローイングがあるの。昔の。
それは、まぁ、誰にも見せないでおけば、
そのままで終わるから、いいんだけど。
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糸井 |
それはなに、隠してるわけ?
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奈良 |
いや、隠してない(笑)。
ドイツで描いてたときのものが
そのまま残ってるだけなんだけど。
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糸井 |
捨てたくはないんだよね。
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奈良 |
捨てたくはない。
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糸井 |
昔、書いたラブレターみたいなものかな。
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奈良 |
あ、そうですね。
そういうのは、ヤバいです(笑)。
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糸井 |
ヤバいよねぇ。
ヘタさも、ウソも、
ぜんぶ自分にはわかってるもんね。
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奈良 |
ラブレターっていうより、
もう、そのものずばり、
好きな子にあげた絵とかが出てきたら‥‥。
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糸井 |
うわー、たまんないな、それ(笑)。
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奈良 |
ははははは。
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糸井 |
つまり、そこには、
非常に不純なものが入ってるわけですよね。
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奈良 |
入ってるんだよね。
やっぱり人に見せるためっていうか、
特定のこの人のためにって描くから、
不純っていうよりも、なんかこう‥‥。
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糸井 |
気に入られようとしてますよね。
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奈良 |
そうそう(笑)。
なんなんだろうね。
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糸井 |
まぁ、それこそが純粋だ
という言い方もできるけど、
自己のうちなるほとばしりを表現するのが
自分の絵だとすると、
その、気に入られようとしている絵は‥‥。
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奈良 |
自分じゃない。
でも、めっちゃ自分。
うーん、なんだろうね?
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糸井 |
でも、音楽なんてそういうものばっかりでしょ。
セレナーデじゃないけど、
その、あなたを口説くために歌ってる歌って
ようするにそういうことだよね。
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奈良 |
そうそうそう。
だから、はたから見てると、
すごい滑稽に見える。
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糸井 |
で、同時に、
「だからいい!」ってところも。
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奈良 |
うーん‥‥他人がやってたら、
「だからいい!」って
やっぱりオレも言うだろうね(笑)。
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糸井 |
言うだろうね(笑)。
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奈良 |
でも、自分がそれやってるのを見ると
穴があったら入りたいぐらい(笑)。
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糸井 |
ははははは。
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奈良 |
でも、人がやってたら、
「その気持ちは大事だよ!」とか。
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糸井 |
言うだろうね。
「そのギクシャクしてるとこがいいんだよ!」
とかね。
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奈良 |
うん、うん。
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糸井 |
でも、誰もがそれは、やってますよね。
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奈良 |
そうだよね。
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糸井 |
やってると思うよ。
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奈良 |
やってない人をオレは疑うな。
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糸井 |
ねぇ。いい話だなぁ、それ(笑)。
‥‥うーん、今日は、
この話を聞けただけでも、いいかもしれない。
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奈良 |
そんな話は今日は‥‥あ!
(ICレコーダーを見つけて)
もう、はじまってるの!?
ウソ、まったく知らなかった。
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糸井 |
ははははは。
To Be Continued...... |