奈良美智インタビュー  NOWHERE MAN  IN THE SPACESHIP  ひとりぼっちの絵描き。
糸井 話を聞いてると、
奈良さんのキーになってるのは、
やっぱり「ひとり」だっていうこと。
奈良 そうですね。
糸井 競争もないもんね、ひとりでは。
奈良 うん。
だから、ほんと、競争すると、
逆に一所懸命になっちゃう。
糸井 男の子成分みたいなものは
誰にだってあるからね。
よーいドンって言われたら走っちゃう。
奈良 そう。
実際、走るのとか好きですよ。
糸井 あ、そうですか。
奈良 うん(笑)。
こう、ストップウォッチで
測れるじゃないですか。
勝っても負けても納得できるし。
でも、絵を描くとか、
文学とか、音楽とか、そういうものって、
測れるもんじゃないから。
たくさん客が入る大きな会場でやって
成功したらすごいかっていうと、
そういうものでもないし。
糸井 そうだね。
奈良 そのときはなんでもなかったけど、
何年か経ってから結果が出るものだってあるし、
もしかしたら、何百年経ってから
結果が出る人だっているかもしれない。
だとすると、そのときに無名だったり
競争してたりなんていうことは、
まったく次元の違うことになっちゃう。
糸井 なるほどね。
それは、さっき言ってた
「時給800円って決まってるとすごくラク」
っていう話といっしょだね。
絵でもらえるお金が増えていくことは
なんだかよくわからないけど、
時給で働いたぶんだけもらえるなら、
ふつうにうれしくて、つかうのもラクっていう。
奈良 そうそうそう。
だから、そういう競争は、逆にしたいんですよ。
それこそ、かけっことか。
糸井 いや、よくわかる。
その成分がないはずはないもんね。
奈良 ないはずはない。
格闘技とかも大好きだし。
ルールがある戦いって、すごい好き。
勝ち負けがはっきりしてて。
糸井 つまり、ゲームとしてのルールがあると、
終わった瞬間にノーサイドになるもんね。
奈良 そうそう。
糸井 そうか、そうか。
で、いまの絵を描く生活で考えると、
自分が参加できない場所が多い。
奈良 うん。
糸井 だけどさ‥‥ああ、いや、
「だけど」って言わなくてもいいんだよな。
あのね、なんだろう、さっきから、
奈良さんがなんか言うたびに、
こう、質問を考えてる自分が、
ちょっと悪いほうから言おうとしてるんですよ。
「でも、あるでしょ?」とかさ。
奈良 ああー(笑)。
糸井 そうしないと、
自分のバランスがとれなくなっちゃうんだろうね。
でもね、だからといって、
ぼくと奈良さんの考えが違うかっていうと
むしろ逆で、奈良さんの言ってることは
すごくよくわかるんです。
ただ、さっきも言ったけど、そういうことって、
ぼくは歳をとってから考えるようになった。
それを、奈良さんは若いころから、
当たり前に感じてたっていうのが
ぼくにとってはおもしろいところで。
奈良 ああ、そうなんだ(笑)。
うーん、若いときって、
ほんとになにも考えなくて。
糸井 うん、そこも含めて、おもしろい(笑)。
奈良 でも、若いころに本能的に選んでたことが、
歳を取ってから、
ああ、そういうことだったんだって
わかってくることはすごくあって。
糸井 あーー、なるほどね。
奈良 若いころ、なぜか引き込まれて
ずっと聴いてた音楽を、
最近になって、また聴きだしたら
めっちゃよくわかったり。
糸井 うん、うん。
奈良 当時、なにがいいのかわんないけど、
理屈なしに、なにかいい、と思って、
だからほんとに、いいとか、かわいいとか、
きれいしか言えなかった自分がいて、
で、いまは、それがもっともっとよくわかる。
糸井 それ、うらやましい気分だなぁ。
奈良 もう、ほんと、たのしいです。
そういうことが、最近多くて。
糸井 音楽ってほんとには説明できないからね。
「わかった!」って
自分が心から思ってるときが
わかったときだから。
奈良 うん。
あと、当時は情報が少ないから、
ぜんぶ想像するしかなかった。
ジャケットの写真と
紙切れ1枚のライナーノート見て、
聴きながら想像する。
英語もよくわからないし。
糸井 うん。
奈良 でも、それでぼくは
想像力っていうのを、すごい鍛えた。
ジャケットの1枚のビジュアルと音楽だけで、
どんな世界を自分は想像できるか、
みたいなことをやってたんだと思う。
それはたぶん、他の大学生が
やってたこととは、ちょっと違う。
糸井 届かないけれども、
想像力でそっちに向かっていたんだね。
奈良 そうそう。
糸井 で、いまになったら、あ、届いてた、と。
奈良 そう、届いてた。
なんか英語もわかんないから、
すごく浅くしかわかってなくて、
そのころは日本語しか話せない自分を
悔しく思ったりもしたけど、
最近、外国に行って音楽の話をしたら、
向こうの人よりも、
そういう音楽を愛している自分がいて
あ、オレのほうが好きだったんだ、とか。
糸井 ああー。
ことばがわかんなくても、
体と体みたいなところで
理解できてたところがあったんだろうね。
奈良 うん。
だから、最近になって、
「ああ、間違ってなかったんだ」
って思うことが多い。
糸井 あの、若いときに知り合ったやつがさ、
「糸井さんこう言ってたじゃないですか」
なんて言うことがあって、
たいてい覚えてないから
「え、オレそんなこと言った?」って
恥ずかしい思いをすることが多いんだけど、
そのことばに含まれるかけらみたいなものには、
すごく共感できたりして、
ああ、一所懸命言ってたんだなって思うんです。
わかっちゃいないのに、正解だったよ、って、
いま言ってあげたい、みたいな。
奈良 うんうん、あるある。
自分でまったく忘れてて、
昔、こんなこと言ってたよって。
ものすごい恥ずかしいけど、
いいこと言ってたなって思う。
糸井 そうそうそう。
そのときの理解はきっと浅いんだろうけど、
ヒントはつかんでたんだな、みたいな。
きっと、絵って、もっと出ますよね。
奈良 そうだね。
けっきょく、自分の絵見ても、
昔の絵といまの絵で変わらない
モチーフとか背景があったりとかして。
いま、レゾネをつくるために
昔の作品をたくさん見てるから、
あらためて発見して、
自分でもびっくりしたりする。
To Be Continued......


2010-11-25-THU

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN