奈良美智インタビュー  NOWHERE MAN  IN THE SPACESHIP  ひとりぼっちの絵描き。
糸井 昔描いた絵を、いま直せる?
奈良 直せる。
糸井 あ、直せるんだ。
でも、だとすると、
ずっと直し続けることにならない?
奈良 いや、ずっとは直さないけど、
そのときそのときの自分が、
ちょちょいっと直すと思う。
糸井 そうやって直すと、
いまの絵になっちゃったりしないかな。
奈良 昔のよさを残しつつ、
いまのテイストを加えていくんじゃないかな。
糸井 昔のよさも残したまま。
奈良 うん。
描いたときと、直すときと、
年齢的にスパンが空けば空くほど、
当時のよさが残せると思う。
糸井 あー、そうなんだ。
奈良 だから、二十歳のとき描いたものを、
自分が25歳だったらぜんぶ消しちゃうよね。
30歳でもぜんぶ消しちゃう。
でも、二十歳のときの絵を、
40歳の自分だったらうまく直せると思う。
30歳のときは10年前の自分の若さが
恥ずかしくて許せないと思うけど、
40歳になったら、それを残して、
違うところをいじることができると思う。
いま、ぼくはもう50歳だから、
いくらでも直せる(笑)。
いい感じに直せて、完璧なものに近づいていく。
糸井 すごいなぁ。
そういえば、横尾忠則さんが
自分の絵を複製したりするのも
そういうことなのかな。
奈良 あー、どうなんだろうね。
糸井 盛んにやりますよね、横尾さんは。
自己模倣したり、コラージュしたり。
奈良 あ、ぼくはね、絵が描けないときとかは、
紙に、ドローイングで、自己模倣しますね。
10枚ぐらい、無理矢理。
「奈良の絵を描いてみよう」と思って、
自分を真似して描いてみる。
糸井 へーー、おもしろい。
奈良 で、10枚ぐらい、
そうやって描いてると調子が出てきて
その10枚をぜんぶこう、ビリって破いて、
そこから新しいものができたりする。
糸井 ふーーん。
プロ野球の選手が、
甲子園時代の自分のフォームを
見るっていうんだよね。
甲子園のときの、なんにも習ってないときに
のびのび野球をしてる自分を見て、
なにかつかんだりするんだって。
奈良 ああ、うん、うん。
糸井 ちなみにぼくはね、
昔、書いた文章なんかを見ると、恥ずかしいし、
いまはこうしないなってはっきりわかるんだけど、
じゃあ、どう直すんだっていうことになると、
ぜんぶ直すことになっちゃうんですよ。
奈良さんみたいに、昔の自分のよさを
活かしてあげられない。
だから、昔のものに関しては、目をつむって、
もう、触らないことにする(笑)。
奈良 それも、わかります(笑)。
糸井 もう、62歳なんだけどなぁ。
一同 (笑)
奈良 なんていうか、
若くて青いのは、誰でも当たり前で、
よく考えると若くて青い時期に、
年寄りぶって斜に構えてた人のほうが、
逆にかっこ悪いわけで。
糸井 うん、うん。
奈良 若いときにしか、
青いことってできないんだから、
逆に歳をとるとそれが誇りに思えてくる。
糸井 青臭くないとそこまで走れなかったなぁ、
みたいなことだらけですよね。
奈良 ほんと、そうです。
糸井さんもそう?
糸井 そうですよ。
ぼくは、アーティストじゃないし、
請負仕事をしていた立場だけど、
請負仕事のなかにも、
やっぱり自分っていうのは
どうしても入り込んじゃうから。
奈良 うん、うん。
糸井 スタートは請け負いだったけど、
はじめちゃったらオレのもんになるっていうか。
だから、アーティストじゃないんだけど、
若いからできたんだな、みたいなことは
もう、ほんとに、山ほどありますね。
奈良 そうですよね。
糸井 おもしろいよねぇ。
なんか、奈良さんと、場所も時代も
違うところで生きてきたのに、
ときどき重なるっていうのが
うれしいですね。
奈良 そうですね、
ぼくもうれしいですよ(笑)。
糸井 ふふふふ。
ちょっと話が戻るけど、
自分の昔の絵を実際に直したことはありますか?
奈良 ありますよ。
糸井 あ、そうですか。どうでした?
奈良 うーんとね、なんていうのかな、
時間のスパンがあるだけ、っていう感じだった。
たとえば、ある絵を5日間かけて描いて、
そのあと1週間描かないで、
やっとなんかが見えて、
一筆入れて完成させたとすると、
それは1週間後に直したともいえるし、
1週間かかったともいえるじゃないですか。
糸井 ああー。
奈良 だから、それが1年後になるか、2年後になるか、
5年後になるかっていうだけのことで。
なんかそういう感じで直せるっていうか、
見えてから直すんだったら、時間は関係ない。
迷ってる状態で直すんじゃなくって、
ほんとになにをつけ足すべきか、
どこを削って、なにをくっつけるべきか、
わかったときに、さっと直せばいいから。
すごい短い時間で、すごい効果的に、ピタっと。
それはやっぱり、歳をとらないとできない。
糸井 うーーーん、
かっこいいねぇ、それは!
奈良 (笑)
糸井 そっか。
つまり、3秒後も10年後も同じなんだね。
奈良 同じだと、ぼくは思う。
糸井 そうすると、ぜんぶが未完ともいえる。
奈良 うん。
でも、そのときどきで完成はしてる。
これは28歳だから、これでいいだろうとか。
これは40歳だから、ここまでやろうとか。
糸井 ああーー、そうか、そうか。
奈良 完成っていうのは、
やっぱり、その時点での完成で、
つぎの日になったら、
完成作品じゃないんじゃないかな。
厳密には、そう思う。
糸井 じゃあ、奈良さんの手を離れてる絵に関しては、
そこで止めているものとして、
自分で納得できてるんですか。
奈良 うん。
ただし、そこに年号がちゃんと振ってあれば。
糸井 ああーー。
奈良 だから、年号がついてない状態で、
自分の絵が雑誌とかに載ってたりすると、
すごい不安になって、
「これ、いま描いた絵だと
 思われたらどうしよう?」
とかって思うんです。
糸井 ははははは。
昔の、気弱な自分に戻って。
奈良 そうそうそう(笑)。



To Be Continued......


2010-11-26-FRI

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN