奈良美智インタビュー  NOWHERE MAN  IN THE SPACESHIP  ひとりぼっちの絵描き。
糸井 若いころ、ずっと絵を描いてたときに
心配事がなかったわけじゃないですよね。
たとえば絵を描くということにしても、
ずっと描き続けているうちに
苦しくなってきたりもしますよね。
奈良 ‥‥いや、なったことないです。
糸井 ないですか。
奈良 ないです。
糸井 はぁー。
そこが違うんだ。
奈良 たぶん、ある面ではすごく楽観的というか、
それ以上を望まないようなところがあって、
ちゃんと比べると他の人より
絶対収入が少なかったりとか、
生活が苦しかったはずなのに、
なぜか、そこに不満を感じたり
っていうことが一度もなかった。
糸井 あー、その言い方だと少し共感できる。
まぁ、ぼくと奈良さんでは
レベルが違うと思うけど、
ぼくも、24歳とか25歳のときに、
自分で金持ちのつもりでいたんですよ。
けど、どうも、違ってたんだよね。
奈良 ああ(笑)。
糸井 明らかに、そんなことはなかった。
でも、やっぱり、不満はなかったんですよ。
なんだろう、好きなことをやってる
っていう実感があったのかな。
奈良 うーん、どうなんだろう。
たぶん、なんにも考えてなかったですね。
糸井 ああー、そうだね。そうかも(笑)。
奈良 未来のこととかも、なんにも。
だから、目標というものがぜんぜんなくて。
そもそも美大とか芸大行ってる人って、
デザイン科以外は就職活動もしない人が多くて、
将来自分が就職するなんていうことを
まったく考えずに4年生になって、
何人かが学校の先生になるとか、
広告代理店を受けるとか、
そういう感じなんですね。
だから、すくなくとも当時は、
みんな、なにも考えてなかったと思う。
糸井 ああ、それは、奈良美智をつくるには
いい環境だったね。
奈良 うん(笑)。
あんまりつくられちゃ困るけど。
糸井 ははははは。
じゃ、若いころ苦しいっていうことは、
ほんとになかったんですね。
奈良 なかったですね。うん。
糸井 とすると、なんていうんだろう、
自分の中の、影の部分、
心の影の部分っていうのは、
なにによって育つんですか。
奈良 なんで育つんだろうねぇ。
糸井 だって、影はあるよね、明らかにね。
奈良さんの中に。
奈良 ‥‥うーん。
それねぇ、やっぱり、なんなんだろうね。
子どものときは、
物理的にひとりぼっちだったときが多いけど。
糸井 ああー、「ひとり」。
奈良 なんか、大人になって、
美大とか、芸大行くようになっても、
やっぱり、なんか、
ひとりぼっちだなって感覚はすごくあって。
糸井 うん、うん。
奈良 それはいまもありますね。
それじゃないかなぁ。
糸井 いちばん大きいのは、
「ひとりぼっちだ」っていう感覚。
奈良 うん。
糸井 その、たとえばさ、
20代の男の子だったらさ、
女の子のことが
気になったりするじゃないですか。
奈良 気になりましたよ。
糸井 なりますよね。
で、そんなにうまくいかないですよね、絶対。
奈良 ‥‥ええっと。
糸井 いった? うまく?
奈良 ぼくはもう、めっちゃ、うまくいって。
糸井 ‥‥‥‥ちっきしょう(笑)。
一同 (笑)
奈良 大学1年の学園祭みたいなときに、
お互いになんとなく
確かめ合うような感じで。
糸井 ようするに、両方が両方を好きで。
奈良 そうそう。
大学院ぐらいまでつき合った。
糸井 そうか。それは、よかった。
奈良 でもね、なんていうんだろう、
そこで満ち足りてたかというと
それはちょっとよくわかんなくて、
つき合うことになったときに、
けっこう、自分のなかでは、
終わっちゃってたのかもしれない。
糸井 ああー。
奈良 だから、いま思うと、
映画とかも2回ぐらいしか行ってないし。
糸井 うん、うん。
奈良 やっぱり、絵を描くことを‥‥選んじゃう。
糸井 おもしろーい。
見えなくなっちゃうんだね。
目を閉じれば、絵なんだね。
奈良 いまだったら違うと思うんだけど。
糸井 あ、そう?
奈良 たぶん。
糸井 どうだろうね。
奈良 どうだろう。
そのときは、はじめてちゃんと
女の人とつき合ったんだけど、
それでもいま思うとやっぱり
絵のことを優先していて。
だから、なんていうか、
青春時代をある意味で
無駄にしているようなところが
あったかもしれない。
糸井 そんなことないよ。
奈良 ほんと?
糸井 それはそういう青春だよ。
奈良 なんか、与謝野晶子とかから叱られそうな。
糸井 うん。
与謝野晶子からは叱られるかもしれないね。
一同 (笑)
To Be Continued......


2010-11-23-TUE

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN