page design : prigraphics
photo : 清水肇+吉田健人(prigraphics)・「ほぼ日」菅野
illustration:みどりちゃん
どうやら猫屋台は
「住宅+記念館+カフェ+猫のための場所」の
融合体のようなものになるようです。
そんな不思議な施設が実現できるんでしょうか、と、
スピークの吉里さんに訊いてみたところ
「日本で、民宿ってこともできてるんだから、
やりようはあると思います」
という、力強いお答えをいただきました。なるほど。
ところで、この猫屋台のリノベーションについて
ハルノさんはどのくらいの予算を
考えているのでしょうか。
「おとうちゃんの
『お亡くなり特需』で儲かった分を
今回の予算の中心にしようと思っています。
だからまぁ、数百万てとこですね」
猫屋台計画の大きなポイントとして、やはり
「飲食業を開業する」ということを
無視するわけにはいきません。
食品関係の営業施設を開く場合は、
「食品衛生責任者」を
施設ごとに置かなくてはいけないと定められています。
(東京都の場合、こちらで講習を
受けることができます)
ハルノさんは、冬のあいだに
この「食品衛生責任者」の資格を取ってきました。
「そこでおもっくそ、講習を受けた結果、
お客さま用のトイレを
つくんなきゃいけないこともわかりました。
従業員用の手洗いも要るし、
キッチンも、家用と業務用、
ふたつないといけない」
地域によっては
飲食店をつくることがそもそも「不可」の場合もあります。
「吉本さんの書斎を公開してお茶を出す」のが
おおもとのコンセプトだとして、
その延長線上でふくらませる場合、
営業許可がどの程度必要なのでしょうか。
それぞれの自治体の考え方もあるし、
まわりの環境も影響します。
どんな人がどう判断するかでも、ちがう。
つまりは、実際に保健所や消防署に
話を持っていってみないとわからない!
だから、やろうと思ったらあれこれ考えず、動くしかない!
そのあとで実現の道をひねり出すのが得策のようです。
ハルノさんが「食品衛生責任者」の資格も取ったとこだし、
ラフなプランを描いて、とにかく
スピークの川合さんといっしょに
保健所に相談しに行こう、ということになりました。
そのあとに消防署。
消防法では「飲食店併用住宅」ということになり、
避難経路の設定なども必要になってくるようです。
打ち合わせを重ね、いつのまにか春を迎えました。
ハルノさんが
「改装にあたってそれほどウキウキしていない」
「夢見がちではない」
「おしゃれとかステキとか言わない」
という状態であることに、
全員が、完全に慣れました。
もともと「基本的にいじくらない」と
ハルノさんは言っていたし、吉里さんも
「ほぼ変えない、ということでいけるね」
とおっしゃっていました。
スピークの吉里さんは、
東京R不動産をたちあげた人です。
東京R不動産といえば、
いまどきの、あたらしく、おしゃれな、
おもしろい不動産屋さん、
という(菅野の勝手な)イメージがあります。
スピークは、東京R不動産とも連携しつつ
コンセプト立案から設計、賃貸売買仲介まで
建築を一貫してプロデュースしています。
土地や建物の使い方、とらえ方を
さまざまな視点で提案し、ときには運営もする。
不動産のもつ魅力をフルに活かすことが仕事です。
その、いわば最先端の人たちが
猫屋台については「最低限の改装で」という
結論を導き出したことに、やっぱり私は驚きました。
「戦後思想界の巨人の吉本隆明邸」だし、
腕まくりしたい気持ちはなかったのでしょうか。
私は、猫屋台の打ち合わせに同席するうち
「改装前」と「改装後」で
ビフォー&アフターの写真が撮れるといいな、
とすら、思ってしまっていました。
そんなふうに、パッとわかりやすい
おもしろい場面が出てくるといいな、と考えていたのです。
でも‥‥
ハルノさんのおとうさんである吉本隆明さんが
枠にはまってなにかをしたようなことが
あっただろうか。
ない。
こちらが想定したような答えや行動は、
返してこなかったのです。
糸井とともに伺ったお話で
吉本さんにとってことばとは何ですか、と訊いたら
「ことばの根幹は沈黙です」という答えでした。
吉本さんにとって大切なものはなんですか、と訊いたら
「そのようなことは誰でも
同じように考えるものです、それよりも、
自分の目で何を見ようとしているのかが
自分をあらわしているのです」
という答えをいただきました。
子どもにとっていい先生とはなんですか、と訊いたら
「いい先生になろうとしないこと」
という答えでした。
そのときどきで、糸井と目を合わせて驚きました。
吉本隆明さんの答えにはいつも背筋がぞくぞくしました。
ハルノさんもそうです。
せっかく家を改築するならふつうこうだろう、
という決まりきったようなことはしません。
そんなもの、なんの意味もありません。
ひとことではわかりにくい、
その人とつきあわなければわからない、
本質のようなところをくみ取って、かたちにしていく。
家をつくるということはこういう仕事なのか、と
このとき私はやっと気づくことになりました。
(つづきます)
2014-10-03-FRI