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photo : 清水肇+吉田健人(prigraphics)・「ほぼ日」菅野
illustration:みどりちゃん

猫屋台の最初のお客さんは、
ハルノ宵子さんの高校の同級生14人でした。
同級生のみなさんは「開店祝い」といって、
差し入れのお酒を
たくさん持ってきてくれました。
ハルノさんと同級生のみなさんは
卒業後40年経っても変わらぬ友情で
この人数単位で
月イチのペースで呑んでいる、とのこと。
(いつもは近所のお店に集まっています)
▲14人、居間にギッチリ座っています。
▲床の間にお祝いのお酒が並ぶ。
ハルノさんはいきいきと
厨房に立っていました。
この日のメインメニューは白菜鍋でした。
▲よっ、店主!
▲エプロンがヘンな柄(男性の裸の柄)なのですが、
それはまぁいいか。
▲なぜかダンボールの「食品衛生責任者」。
掲げる紙はなんでもいいらしいのですが‥‥。
高校時代からの長いつきあいであっても、
ハルノさんが「お料理好き」であることは
それほど知られていなかったそうです。
同級生のみなさんは
「こんな人になるなんて思わなかった」
と、口々に言っていました。
▲ハルノさんは、同級生に「タコ」と呼ばれていました。
(本名が吉本「多子(さわこ)」だから)
▲盛り上がって思い出話に花が咲きます。
同級生のみなさんは、こんなふうに話してくださいました。
「高校時代は、タコのお料理より、
おとうちゃんのお弁当のほうが有名でしたよ。
パセリだらけのお弁当をタコが持ってきたりして
おっかしかったなぁ。
あとね、タコが持ってきたお弁当で、
私たちはプチトマトをはじめて見たんですよ。
プチトマトって、当時はなかったからね。
やっぱりめずらしいものを持ってくるなぁ、って。
それも、おとうさんが入れたんだよね」
へぇえ。
「タコん家に遊びに来ると、
おとうさんが、私たちに
もろこしを焼いてくれたよ。
いまここに座ってる、あいつも、こいつもみんな、
おとうさんのとうもろこしは、食べてるよね」
「うん、うん」
ハルノさんのお話だけでなく、
みなさんは、たのしそうに隆明さんの話をしてくれました。
それは、猫屋台の食堂スペースに
吉本隆明さんの仏壇があるからかもしれません。
やっぱり、吉本家は昔から
とてもユニークな一家だったんだな‥‥。
吉本さんは「おもしろおとうちゃん」だったんだ。
▲部屋の角に吉本隆明さんの写真。
▲ぽんぽんとお酒が抜かれていきます。
▲お祝いの「ねこ屋台」ラベルのお酒。
この日私は、ぐつぐつの白菜鍋や
〆のリゾットを見るのみ。
すごく、おいしそうでした。
そして、日を改めて
オープンを心待ちにしていた糸井重里といっしょに
「猫屋台」を訪れることにしました。
予約を入れるときに、ハルノさんに
猫屋台の料金体系をうかがうと
「まぁ、適当に、
1000円コース、3000円コース、5000円コースかな」
というざっくりさ。
5000円のコースをお願いすることにしました。
そして、糸井の大好物の
「恐ろしいササミフライ」を出してください、と
お願いしました。
「恐ろしいササミフライ」は
ササミひとつにつき
バターの立方体のかたまり3個ほどを挟んだ、
カロリーのもとのようなフライでです。
バターには刻んだパセリが混ぜこんであって、
香りがさわやかになるためか、
予想外にたくさん食べてしまうとのこと。
(くわしくはハルノ宵子×糸井重里対談
「父と母と、我が家の食事。」をごらんください)
改築後もそんなに雰囲気が変わらない
ひさしぶりの吉本家に足を踏み入れ、
糸井はまず、吉本さんのお仏壇に
手を合わせていました。
そして、ハルノさんに
「いやぁ、いよいよだ、できたね」
と声をかけました。
「糸井さんはお酒を飲まないから、
代金のもとが取れそうになくて申し訳ないけど」
と言いつつ、ハルノさんはいくつもの
おいしいおいしいお料理を出してくれました。
▲うにのクリームムース。
▲柿と湯葉のクリームチーズあえ。
▲タコとカブのあえもの。
▲牛たんと里芋の煮つけ。
▲牡蠣の葱焼き。
▲みんながお料理に舌鼓を打っている頃に‥‥。
▲ハルノさんはキッチンで「恐ろしいフライ」を
仕込んでいました。
▲恐ろしいフライ(揚げる前)。
▲来ました。恐ろしいです。
▲これです。黄金色。
▲待ちに待った!
▲「おお、うまー!!」
▲フライは瞬く間に消失しました。
ササミの歯ごたえと、
じゅわっと流れ出る
パセリ入りバターの暴力的なうまみ、
さくさくのころも。
ああ、いま、このとき(原稿を書いている、いま)も
食べたいです。
▲シメは自然薯のとろろごはんでした。
▲おいしかったぁ!
私は料理をいただきながら、ハルノさんが、
「そのとき手に入る、できる限りいい素材を
手順どおりにていねいにつくる」
と以前おっしゃっていたことを
思い出していました。
猫屋台は、旬の素材を使うので
時期によってメニューが異なります。
たとえば夏は、カツオのたたきや
冷やしチャーシューが出たり。
シメはだしのしっかりきいた
冷たいそうめんだったりします。
▲おなかいっぱいでもつるっと入る冷やしそうめん。
(つづきます。次回は最終回です)
2014-10-09-THU