page design : prigraphics
photo : 清水肇+吉田健人(prigraphics)・「ほぼ日」菅野
illustration:みどりちゃん
猫屋台の最初のお客さんは、
ハルノ宵子さんの高校の同級生14人でした。
同級生のみなさんは「開店祝い」といって、
差し入れのお酒を
たくさん持ってきてくれました。
ハルノさんと同級生のみなさんは
卒業後40年経っても変わらぬ友情で
この人数単位で
月イチのペースで呑んでいる、とのこと。
(いつもは近所のお店に集まっています)
ハルノさんはいきいきと
厨房に立っていました。
この日のメインメニューは白菜鍋でした。
高校時代からの長いつきあいであっても、
ハルノさんが「お料理好き」であることは
それほど知られていなかったそうです。
同級生のみなさんは
「こんな人になるなんて思わなかった」
と、口々に言っていました。
同級生のみなさんは、こんなふうに話してくださいました。
「高校時代は、タコのお料理より、
おとうちゃんのお弁当のほうが有名でしたよ。
パセリだらけのお弁当をタコが持ってきたりして
おっかしかったなぁ。
あとね、タコが持ってきたお弁当で、
私たちはプチトマトをはじめて見たんですよ。
プチトマトって、当時はなかったからね。
やっぱりめずらしいものを持ってくるなぁ、って。
それも、おとうさんが入れたんだよね」
へぇえ。
「タコん家に遊びに来ると、
おとうさんが、私たちに
もろこしを焼いてくれたよ。
いまここに座ってる、あいつも、こいつもみんな、
おとうさんのとうもろこしは、食べてるよね」
「うん、うん」
ハルノさんのお話だけでなく、
みなさんは、たのしそうに隆明さんの話をしてくれました。
それは、猫屋台の食堂スペースに
吉本隆明さんの仏壇があるからかもしれません。
やっぱり、吉本家は昔から
とてもユニークな一家だったんだな‥‥。
吉本さんは「おもしろおとうちゃん」だったんだ。
この日私は、ぐつぐつの白菜鍋や
〆のリゾットを見るのみ。
すごく、おいしそうでした。
そして、日を改めて
オープンを心待ちにしていた糸井重里といっしょに
「猫屋台」を訪れることにしました。
予約を入れるときに、ハルノさんに
猫屋台の料金体系をうかがうと
「まぁ、適当に、
1000円コース、3000円コース、5000円コースかな」
というざっくりさ。
5000円のコースをお願いすることにしました。
そして、糸井の大好物の
「恐ろしいササミフライ」を出してください、と
お願いしました。
「恐ろしいササミフライ」は
ササミひとつにつき
バターの立方体のかたまり3個ほどを挟んだ、
カロリーのもとのようなフライでです。
バターには刻んだパセリが混ぜこんであって、
香りがさわやかになるためか、
予想外にたくさん食べてしまうとのこと。
(くわしくはハルノ宵子×糸井重里対談
「父と母と、我が家の食事。」をごらんください)
改築後もそんなに雰囲気が変わらない
ひさしぶりの吉本家に足を踏み入れ、
糸井はまず、吉本さんのお仏壇に
手を合わせていました。
そして、ハルノさんに
「いやぁ、いよいよだ、できたね」
と声をかけました。
「糸井さんはお酒を飲まないから、
代金のもとが取れそうになくて申し訳ないけど」
と言いつつ、ハルノさんはいくつもの
おいしいおいしいお料理を出してくれました。
ササミの歯ごたえと、
じゅわっと流れ出る
パセリ入りバターの暴力的なうまみ、
さくさくのころも。
ああ、いま、このとき(原稿を書いている、いま)も
食べたいです。
私は料理をいただきながら、ハルノさんが、
「そのとき手に入る、できる限りいい素材を
手順どおりにていねいにつくる」
と以前おっしゃっていたことを
思い出していました。
猫屋台は、旬の素材を使うので
時期によってメニューが異なります。
たとえば夏は、カツオのたたきや
冷やしチャーシューが出たり。
シメはだしのしっかりきいた
冷たいそうめんだったりします。
(つづきます。次回は最終回です)
2014-10-09-THU