2021年から2022年にかけて、
株式会社ほぼ日は「デザイナー」を6名採用しました。
当社比でみれば、過去に例のない極端な採用です。
ほぼ日デザインチームにとっても、
メンバーの数が倍近くになるおおきな変革です。
そんななか、デザインチーム最年長者の廣瀬正木が、
ある日、急に、こんなことを言いました。
「6人の新人デザイナーぜんいんに、
ほぼ日ハラマキのデザインを考えてもらいます」
廣瀬はどういうおもわくで
この企画を思いついたのでしょう?
新人たちのデザインはほんとうに商品になる?
などと気になることもありますが、
そういうあれこれを吹き飛ばして、
ワクワクする企画だと思いました。
新人たち6人のデザインを見てみたい。
6人が悩み、試行錯誤を繰り返し、
商品化される(かもしれない)までの流れを、
ここで追いかけます。
さあ、カモン、6人の新人たち。
自由にのびのびやっちゃってください。
6名の新人による発表会は中盤です。
4番手は、千野裕太郎。
会場を歩く糸井重里の横に立ち、彼は、
「よし」というおももちで解説をはじめました。
- 千野
- ぼくは、自分が描きたいものと、
ハラマキの機能について考えた
デザインをつくりました。
- 糸井
- 描きたいものと、機能。
- 千野
- はい。
これは、「モグラの穴」です。
モグラ探しのようなイメージで、
ひとつだけ、穴がポケットになっています。
- 糸井
- いちばん最初の高澤さんが、
割りばしを入れたようにね。
何かを入れる穴を。
- 千野
- はい。
へそぐらいの大きさの穴だと
いいなと思って。
- 糸井
- へそ。
- 千野
- あの、おへそって、
最初はへその緒でお母さんと
つながっていたところですから、
実はたいせつな場所だと思って。
へその緒のイメージで、
ちいさめのポケットにしました。
- 糸井
- おへそは、大事ですね。
- 千野
-
はい。
で、こちらは「真実の口」を
ハラマキのデザインにしたものです。
これも口に手を入れると、
中がちいさなポケットになっています。
- 糸井
- 穴ですね。
- 千野
- 穴です。
- 糸井
- この穴も、へそのサイズ?
- 千野
- はい。この穴を裏から見ると、
細い筒がピロピロ出ている感じです。
入るものは限られますが、
不思議なハラマキになるかなと思いました。
小銭が入るくらいの穴です。
- 糸井
- なんか、
穴だけでだいぶしゃべってるね(笑)。
- 千野
- あ、そうでうすね、すみません。
もともと、お腹にまつわるものを
つくりたいと思っていたので‥‥。
最初は子宮をイメージしたデザインを
考えていたんですが、
ややセンシティブではないかと言われました。
- 糸井
- そう言われたんだね。
- 千野
- はい。
それで、ほんとうに売るなら、
そういうことも
考えなきゃいけないんだなと思って、
がっつり描きたいものを描くのではなく、
お腹に「宿っている」感じを
表現することにしました。
- 糸井
- 子宮な感じを。
- 千野
- はい。
お腹というのは、生命をつくる
大切なところなんだと思います。
ですからぼくは、重みのある
デザインにしたいと思ったんです。
- 糸井
- ‥‥なんだか今、
彼に説得されそうです(笑)。
- 一同
- (笑)
- ──
- 千野くん、気持ちが入ってますからね。
落ち着いて、続きをお願いします。
- 千野
-
すみません、ありがとうございます。
これは、「生命」というタイトルです。
- 千野
- ハラマキはお腹を大事にするものなので、
柄としてそれを見せられたらと思って
つくりました。
- 糸井
- うん。
- 千野
- 次にこれは、
ダメージジーンズを着想に、
ハラマキの作り方から考えてみました。
- 千野
- ダメージジーンズって
やぶけているのがおしゃれなので、
ハラマキも二重にできないかと思って。
表面の生地が
ところどころ切れていて、
内側のニットが見えたら
かわいいかなと思ってつくりました。
- 糸井
- なるほど。
‥‥こっちのは、龍安寺の石庭?
- 千野
- はい。
「枯山水」です。
- 千野
- 実際にハラマキにするときは、
編み模様ででこぼこ感を表現できたら
おもしろいなと。
- 糸井
- 絨毯ぽくなってね。
- 千野
-
はい。
これは、「バナナ」です。
ダメージジーンズ風のハラマキと
同じ発想で、二重編みのイメージです。
- 糸井
- スイートスポットだ。
- ──
- 黒い点々があります。
このバナナは皮をむけるんですね。
- 千野
-
そういうイメージです。
で、こちらのふたつは、
趣味でスケッチに描いている
イラストをデザインにしました。
- 千野
- 「TSUMIAGE」は、
湾曲している人を積み上げていって、
柄に見えるような、
見えないような感じにしています。
- 糸井
- 柄という感じではないですが、
こういう感じが今はウケているのかな?
- 千野
- ウケてるかはわからないですが‥‥
「連なる人」は、
人間がどんどん奥にいくのを表現したくて
つくりました。
- 糸井
- 千野くんが「描きたいもの」のほうですね。
- 千野
-
はい。
次は、シンプルに「ハグ」です。
- 糸井
- ハグ。
- 千野
- 一見、ハグだということが
わからない感じの
グラフィックにしました。
- 糸井
- ハグしているようで、してないような。
- 千野
- 次は、赤ちゃんの顔です。
ハラマキをつけると、
ほっぺをちょっと伸ばしたみたいに
見えます。
- 千野
- 続きまして、タテに10cm長い、
「+10サイズ」用のデザインです。
- 糸井
- 人が胴長に。
- 千野
- ハラマキをささえるように、
人間がのびている感じなんですけど、
脱いだあとのハラマキは
ちょっとクシャッとなるので、
おもしろい感じになると思って。
- 糸井
- 脱いだあとの様子を考えたんだね。
- 千野
- はい。
最後は、動物シリーズです。
骨に集まっている犬のデザインと、
首をのばしているキリンです。
- 糸井
- 犬のお尻がかわいいですね。
- 千野
-
ありがとうございます。
これで、以上です。
(一同拍手)
- 糸井
- ぜんたいに、
肉体にすごく興味がある感じです。
- 千野
- はい。
- 糸井
- この「真実の口」もね、
おへそを中心にと言いながら、
ぜんぶ肉体の話ですよね。
- 千野
- ああ‥‥。
- 糸井
- どういう仕事の仕方で、
デザインをつくっていったんですか?
画面を見ながら?
- 千野
- まず曲線をイメージします。
たとえば、お腹とか、お尻とか、
お腹まわりのやわらかさも含めて、
曲線で考えることが多いです。
- 糸井
- 曲線。
- 千野
- はい、曲線が好きです。
線からイメージして、
想像を広げていくやり方をしています。
あとは、新しいハラマキというか、
ハラマキの可能性を‥‥。
- 糸井
- 探した。
- 千野
- 探して、考えていったつもりです。
大学で、ものづくりを学んだので、
そこで学んだことから考えたり。
あとは、趣味のイラストから考えたり。
- 糸井
- わりと、ロジックでつくっているんですね。
- 千野
- あ、そうなのかもしれません。
- 糸井
- 感覚的に見えるけど、
じつはロジックでつくっている
っていうのが印象的です。
- ──
- 千野くんのメンターは、
杉本さんですね。
- 杉本
- はい。
- ──
- どんなアドバイスを?
- 杉本
- 初めにスケッチを見せてもらったんですが、
体がいっぱい描いてあって、
すごく有機的だったんです。
- 糸井
- やっぱり、肉体が(笑)。
- 杉本
- はい。体温を感じるというか。
本当にそういうものに興味があって、
表現したいんだなと思いました。
説明も一貫しているので、
糸井さんのおっしゃるとおり
ロジックで組み立てているんだと思います。
- 糸井
- すごいブレてないですよね。
- 杉本
-
はい。
あとは、途中経過を見せてくれたときに
ハラマキチームのみなさんから、
「自由な発想なのはいいけれど
ハラマキとしての表現も考えてごらん」
とアドバイスをされていたので、
千野くんなりに
そこを考えてくれたのかなと。
- 糸井
-
うん。その感じもありますね。
ぼくは、この線の太さが
この人の個性だなと思って。ハグの。
- 杉本
- ああ~。
- 糸井
- となりにある絵の線の太さと
同じじゃないですか。
赤ちゃんもそうだし、
ぜんぶ、この線で描いてるなっていう。
- ──
- なるほど、ほんとですね‥‥。
千野さんは自分でいちばんどれが好きですか?
- 千野
- そうですね‥‥
ハラマキを二重にしてみたデザインです。
実際に毛糸でやってみたら、
どうなるんだろうと。
つくってみたいなと思いました。
- ──
- 肉体的な柄の方じゃないんですね。
- 千野
- あ、そっちも好きなので、
二重重ねのハラマキと
2枚セットで売りたいです。
- 糸井
- それはずうずうしいです(笑)。
- 一同
- (笑)
- ──
- くぎを刺されました(笑)。
- 糸井
- やっぱり、ぼくも先輩ですから。
正直にずばっと言います。
- 千野
- すみません。
- 糸井
- いや、でも彼のも、おもしろかったです。
繰り返しになりますけど、
それぞれみんな、
かならず自分の動機のところに
たどり着くのがおもしろいですよね。
うん。
いいと思います。
- 千野
- ありがとうございます。
- ──
- 千野さん、ひとまずお疲れ様でした。