こんにちは、「ほぼ日」のです。
去年の6月から8月の2カ月間、
「劇団「マームとジプシー」との52日間。
今日マチ子の稽古場日記。 cocoon 」という
コンテンツを連載しました。
このコンテンツでは、
マンガ家の今日マチ子さんが
沖縄のひめゆり学徒隊から着想した
ご自身の作品「cocoon」の
舞台化をレポートしてくださいました。
この「cocoon」の舞台化に挑んだのが、
「マームとジプシー」という演劇団体です。
舞台「cocoon」は前売り券は早々に完売、
数少ない当日券のために
多く人が劇場に足を運んで長い列をつくるなど、
大盛況のうちに幕を閉じました。
その「マームとジプシー」が
次に挑戦してるのは、
『乳と卵』で芥川龍之介賞を受賞した
小説家の川上未映子さんの詩を
一人芝居として上演すること。
実はこの舞台はすでに昨年の9月、
東京で3日間行われ、たいへん好評だったのです。
そして、この春より新たな詩を加えて、
長野、京都、大阪、熊本、沖縄、東京の6カ所を
約3週間、機材や小道具をバンに乗せてまわるというのです。
しかも、各地の会場は
なかなか味のあるところばかり。
たとえば、大阪の会場「味園ユニバース」は
創業50年の元キャバレーで
「宇宙をイメージしたレトロでゴージャスな空間と
ビックなステージ」なんだとか。
ここでマームとジプシーが一人芝居をするなんて、
どんな舞台になるのか、想像が、できない‥‥。
ということで、くわしいお話をうかがいに
3月の後半にさしかかったころに、
公演に向けた練習を見学させていただきました。
「こんにちはー、ご無沙汰してます!」
稽古場にお邪魔すると、
俳優の青柳いづみさんが出迎えてくれました。
舞台「cocoon」では
主役の「サン」を演じた青柳さんは
「マームとジプシー」を支える役者さんのひとりで、
今回の舞台では、川上さんの詩を彼女が一人で演じます。
今日は、3月21日に「I-Play Fes」で
はじめて上演する予定の
「戦争花嫁」という詩を練習するとのこと。
青柳さんは
5年前に図書館で読んだ雑誌でこの詩に出会い、
その場で夢中になってノートに書き写すほど
衝撃を受けたんだそうです。
現在は青土社から発売されている『水瓶』に
収録されています。
そもそも、
「マームとジプシー」主宰の藤田貴大さんに
川上さんの詩を演出するのをすすめたのは、
青土社のユリイカ編集長、山本さんだったのだとか。
そして、山本さんは
「cocoon」の舞台化を提案した方でもあります。
今日の練習には、音楽を担当している
レコーディングエンジニアのzAkさんの姿も。
zAkさんは、これまで
フィッシュマンズや山﨑まさよしさんなど
さまざまなアーティストのレコーディングを
担当なさってきた方なのですが、
舞台「cocoon」から「マームとジプシー」も
手がけるようになりました。
この取材の前日、
zAkさんはご自身のスタジオで
藤田さんとともに
「戦争花嫁」でつかう音を完成させたそうです。
そして、
稽古がしずかにはじまりました。
「戦争花嫁」では、青柳さんは目を閉じながら、
長い長い詩を朗読します。
旗にもたれかかったり、旗を振ったり、
船をこぐような動きをしたり。
藤田さんは青柳さんの演技をじっと見つめながら、
音と演技をチェック。
ときには大きな声で演出の指示を出します。
パンフレットなどの配布物の制作も大詰め。
これは、上演する詩のひとつ、
「先端で、さすわ さされるわ そらええわ」の
全テキストです。
青柳さんの頭の中には、これが‥‥。
さらに、5篇分の文字が記憶されているなんて‥‥。
2時間ほどで、稽古は終わりました。
一人芝居を続ける青柳さんから
目が離せなかった、ぜいたくな2時間でした。
一段落したころ、
藤田さんと青柳さんに
少しだけお話をうかがいました。
―― | 今回は、昨年の9月に上演した 「先端で、さすわ ささされるわ そらええわ」、 「冬の扉」、「まえのひ」の3篇に 今日観せていただいた「戦争花嫁」を含む 3篇を新たに演出する予定だとか。 |
青柳 | そうなんです。 「戦争花嫁」のほかに「治療、家の名はコスモス」、 「少女はおしっこの不安を爆破、心はあせるわ」の 2篇を新しくやるつもりです。 |
―― | 「戦争花嫁」は長い詩でしたが、 あれってどれくらいの期間で覚えるんですか? |
青柳 | うーん、だいた2日間くらいかなぁ。 |
―― | た、たった2日‥‥。すごい。 川上さんの文体って、 藤田さんの文体とは まったくちがうと思うのですが、 文体がちがう、ということは、 演じることもちがってくるものなんですか? |
青柳 | そうですね、やっぱり、 最初はちがうなぁって思っていました。 だけど、藤田くんの演出がつくので、 やっている気持ちとしては 変わらないなあ、と。 |
―― | なるほどー。 藤田さんとしては、 川上さんの詩、表現というところで、 自分との共通点というか、 通ずるものを感じられているんですか? |
藤田 | 難しいけど、未映子さんが描く、 女性像みたいな物に、共感する、 みたいなところはあります。 そこが共通点というわけではなくて、 それをまだ言葉にできないけれど、 そこが何かをまずは試したいと思っています。 未映子さんの文章って、 ものすごい畳み掛けがあるから、 感情として迫ってくるものがあると思っていて、 その畳み掛けが、 「マームとジプシー」の特徴のひとつである 「リフレイン」と合うとも思っていました。 |
―― | 何度も同じセリフや動きを 繰り返す演出法(リフレイン)と、 川上さんの畳み掛けるテキスト。 わたしは藤田さんの脚本での舞台を 何度か拝見させていただいてますし、 今回、はじめて川上さんの詩の朗読を 観させていただきましたが、 たしかに、「迫ってくる」感じは どちらにも、ものすごくあると思います。 |
藤田 | 未映子さんのテキストって、 なんかスルメみたいな感じなんですよ。 |
青柳 | スルメ(笑)。 |
―― | スルメ‥‥。 噛んでも噛んでも味が出てくる、ということ? |
藤田 | そうそう、 ずっとつくっていても、飽きない。 なんていうんだろう、 ずっと考え続けられるんですよね、 未映子さんの作品は。 それがたのしくて。 これからツアーで1カ月くらい 未映子さんのテキストと つきあっていかなくちゃいけないのは 実は、ものすごく体力がいるんですよ。 ここでいう体力っていうのは 時間的なことじゃなくて、 僕が演出につかうエネルギーのことです。 未映子さんのテキストは、 そういう自分のエネルギーをフルにつかって、 ヘトヘトになってもやりたいと思っています。 |
―― | だからこそ、ツアーもできる。 |
藤田 | そうそう。 未映子さんのテキストじゃなきゃ、 こんなに時間をかけて、 全国を回るツアーにはしなかったと思います。 |
青柳 | あと、 今回は会場も今までにないところで。 |
―― | 各地、ユニークな場所だとか‥‥。 |
藤田 | 京都は廃校になった小学校の音楽室、 大阪なんか、元キャバレーだったところで。 当時はローラースケートで ドリンクを運んでたらしいですよ。 |
―― | ローラースケートっ! 時代を感じますね‥‥。 それにしても、 素朴な音楽室と元キャバレーって、 すごいギャップが。 |
藤田 | そうですね、だから、もちろん、 6編の中からそれぞれの会場に合わせて セットリストを変えるし、 演出にも濃淡をつけていくつもりです。 たとえば、 京都は小学校だから、 牧歌的な感じでやってみようとか 大阪はド派手にいこうぜ、みたいな。 まだどうなるかわからないけど‥‥。 |
―― | 内容は同じでも、 舞台全体から感じられることは、 各地で変わってくる、と。 「cocoon」のときに 日々演出を変更、追加されていたように、 今回も同じ舞台になることはなさそうですね。 |
藤田 | きっとそうなると思います。 なかなかこういう形にしないと 行けない場所もあるので、 お近くの方は、 足を運んでいただけるとうれしいです。 |
青柳 | お待ちしています! |
このツアーは、
4月15日の長野からスタートし、
5月4日の東京で千秋楽を迎える予定です。
小さな会場もあり、席数が限定されますので、
チケットを予約することをおすすめします。
予約は下記の公式サイトで受付中です。
川上未映子×マームとジプシー テキスト:川上未映子 |