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【後編】
「どうして、そのウワサを流したんですか?」
7月19日(火)
調査再開
7月15日の調査で、オカムラさんからは
有力な手がかりを得られなかったので、
他のデザイナーたちに手当たり次第に
話を聞いてみることにしました。
まずは、おおにしさんのもとへ。
「菊地さんのウワサについては、
よくわからないです。
デザインチームの飲み会の記憶も、
半分くらいしかないなあ。」
とのことで、調査に進展はなし。
やっぱり、飲み会に出席したデザイナーたちの
記憶をたどるのは難しいのか‥‥と思いながら、
次に、星野さんのもとへ。
「私、デザインチームの飲み会のことは
けっこう覚えていますよ!
ウワサのことは、
杉本さんが話していたような‥‥。」
―あのー、杉本さんは
「オカムラさんからウワサを聞いた」って
言っているんです。
それで、オカムラさんに話を聞いたら、
「僕はウワサを流してない」って。
「え、そうなの?
うーーん、他に誰か話してたっけ‥‥。」
―がんばって思い出してください。
「‥‥あ! なんか、いわくろさんも
話していたような気がする。」
―本当ですか?
もしそうなら、調査が前に進みそうだ。
ちょっと、いわくろさんにも聞いてみます。
ということで、デザイナーの
いわくろさんに話を聞きに行きました。
隣の席に、同じくデザイナーの
平本さんが座っていたので、
一緒に話を聞くことに。
18時を過ぎた頃、場所は、
会社のミーティングスペースでした。
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―菊地さんのウワサについて、
なにか知っていることはありませんか?
「いわくろさんがウワサについて話してたかも」
って星野さんが言ってたんですけど。
「いわくろさん。
もう、言っちゃいましょうよ。」
「うん‥‥。」
―え? もしかして?
「結論から言うと‥‥、
そのウワサ、僕が流しました。」
―おおーっ、ついに出所にたどりついた!
いわくろさんだったんですかー。
どうしてウソのウワサを流したんですか?
「僕は本当に、菊地くんは
日焼けサロンに行ってると思っていたんです。
だから、ウソをついたつもりは
まったくなかったし、悪気はありませんでした。」
―どういう事情があるのか、詳しく教えてください。
「2月29日の『サボる日』のイベントの後に、
くんやさんを交えた数人で、
会社の近くのたこ焼き屋さんに飲みに行きました。
その飲み会のときに、
『菊地くんがパーマをかけている』
という話になったんです。
それで、僕はそのパーマの話に
めちゃくちゃ驚いたんですよ。」
―日焼けサロンの話じゃなくて、
パーマの話に驚いたんですね。
「そうです。
パーマの話の後に、
菊地くんの肌が黒いって話になって、
『日焼けサロンに行ってるんじゃないの?』って、
みんなで冗談を言って盛り上がったんです。」
―あくまで冗談ですよね?
「はい、冗談でした。
でも、その飲み会が終わった後、
僕は『菊地くんは日焼けサロンに行ってる』と
間違って記憶していました。
どうして記憶違いをしたのか、
自分でもよく分かりません。
あえて理由をつけるなら、
パーマをかけているということの方が
僕にとっては衝撃的で、
日焼けサロンの話はぼんやりとしか
覚えていなかったからかもしれません。
あと、お酒もけっこう飲んでいましたし。」
―そして記憶違いをしたまま、
6月30日のデザインチームの飲み会で
話してしまったと。
「その通りです。
『こんなにおもしろい話はないぞ!』と思って
みんなに言いたくて仕方なかったので、
最初に、デザインチームの飲み会で正面に座っていた
平本くんに話しました。」
―はあーっ。
そうやってウワサが始まったのかあ。
最初に話を聞いた平本さんは、
ウワサがウソだと思わなかったんですか?
「最初は疑ったよ。
『あの菊地さんが日焼けサロンに
行くわけないじゃん!』って思った。
でも、いわくろさんのことは
すごく信頼しているから、
いわくろさんが言うんだったら
本当の話なのかなあって。
いわくろさん、ウワサについて話してたとき、
すごく真っ直ぐな目をしてたからね(笑)。」
―話している本人は、
ウソをついているつもりはなかったですからね。
「そうですね。」
「あと、僕の心に少しだけ、
『菊地さんが本当に
日焼けサロンに行ってたらおもしろいなあ』
という気持ちがあった。
ウワサを信じたい気持ちがあったんだよね。」
―その気持ちはわかります。
「それと、菊地さんの好きな食べものって
かいわれ大根とスイカと砂肝でしょ。
だから、『菊地さんはちょっと変わった人』って
イメージが僕にはもともとあって、
日焼けサロンに行っててもおかしくないかもって
考え始めちゃったんだよね。」
―かんちがいにかんちがいが重なって、
ウワサが始まって、広がったんだ。
いわくろさんにも平本さんにも
なんの悪気もなかったんですね。
・
「ほんっとにありません。」
「申し訳ないなあと思ってます。
菊地くんには、今すぐに謝りたいです。」
―なんだかホッとしました。
あと、もう1つ聞きたいんですけど、
さんが、
「オカムラさんから菊地さんのウワサを聞いた。
オカムラさんは、その話を
菊地さんから直接聞いたらしい。」って
言っているんですよ。
どうしていわくろさんじゃなくて、
オカムラさんがウワサを流したことに
なっていると思いますか?
「まず、さっきも言いましたけど、
僕と菊地くんとオカムラさんは
たこ焼き屋さんでの飲み会で同席していました。
僕もはっきりとは覚えてないけど、
菊地くんやオカムラさんと
たこ焼き屋さんに飲みに行ったことも
デザインチームの飲み会でも話したかも。
それで、杉本さんの記憶が
ごっちゃになっているのかな。」
「それと、オカムラさんと菊地さんって
すごく仲がいいんだよ。
オカムラさんなら
みんなが知らない菊地さんの姿を
知ってそうだから、
オカムラさんがウワサを流したって
かんちがいしてもおかしくないね。」
「飲み会の席でのことだから、
はっきりとした原因はきっとわからないと思うけど、
杉本さんがかんちがいする条件は
そろっていると思うよ。」
―なるほど。
かんちがいしても仕方ない状況だったということですね。
わかりました。
ありがとうございました。
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これで、ウワサの出所にたどり着きました。
ウワサがどのように生まれ、
どのように広まっていったのかを整理するために、
ここまでのインタビューでわかったウワサの流れを、
ウワサの出所から時系列順に並べ替えてみます。
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2016年2月29日
菊地さん・いわくろさん・オカムラさんの3人を含めた
数人の乗組員が、たこ焼き屋さんで飲み会をした。
「菊地さんはパーマをかけている」という話(事実)と、
「菊地さんは日焼けサロンに行っている」
という話(冗談)が話題に上る。
ウワサのポイント(1) いわくろさんが 「菊地さんは日焼けサロンに行っている」 という冗談を、 事実だと記憶違いしてしまった。 (理由) ・菊地さんがパーマをかけていたことに驚き、 日焼けサロンの話はぼんやりとしか 覚えていなかった。 ・お酒をたくさん飲んでいた。 |
6月30日
デザインチームの飲み会で、いわくろさんが
「菊地さんは日焼けサロンに行っている」
という話を、事実として話す。
→ウワサに。
ウワサのポイント(2) いわくろさんに最初に話を聞いた 平本さんは、話を信じてしまう。 (理由) ・信頼しているいわくろさんが話していたから。 ・ウワサを信じてみたかったから。 ・「菊地さんはちょっと変わってる」という イメージがあったから。 |
ウワサのポイント(3) デザイナーたちが、 「菊地さんはパーマをかけていて、 ヒゲも整えている」 という話をしているところに、 「日焼けサロンに行っている」 という話がプラスされた。 そのため、 「菊地さんは色黒になることにより、 強そうに見られたがっているのでは」 という憶測が生まれ、飲み会が盛り上がった。 |
ウワサのポイント(4) 杉本さんは、 「菊地さんが日焼けサロンに行っている」と 最初に話したのはオカムラさんだと かんちがいしてしまった。 (理由) ・たこ焼き屋さんでの飲み会で、 オカムラさんは菊地さんと同席していたから。 ・オカムラさんと菊地さんは仲が良く、 菊地さんの秘密を1番知ってそうなのは、 オカムラさんだったから。 |
7月1日
杉本さんが、
「菊地さんは日焼けサロンに行っている。
なぜなら、色黒になって強そうに見られたいから。」
というウワサをふじたさんとひぐちさんに広める。
ウワサのポイント(5) デザインチームの飲み会で出た 「菊地さんは色黒になることにより、 より強そうに見られたい。」 という憶測が、もっともらしい理由となり、 ウワサの拡大を加速させた。 |
7月はじめ ~
その他の乗組員の間でもウワサが広まる。
ひぐちさんなど数人の乗組員が
菊地さん本人に真偽を確認したことにより、
ウワサがウソであるとわかる。
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これにて、調査は終了しました。
その後、いわくろさんは菊地さんに謝り、
ウワサは笑い話で終わりました。
今回の調査で、ウワサがどのように生まれ、
どのように広まっていったのかを
明らかにしていきました。
その過程には、
おもしろくて、少しぞっとするような
現象がいくつか見つかりました。
まず、ウワサが広まっていくその背景には、
ウワサを流し、広めた人たちの
たくさんのかんちがいがありました。
ウワサを聞いた人たちは、
そのウワサにリアリティを持たせるような
都合の良い事実を自分で勝手に重ねて、
さらなるかんちがいをしてしまっていました。
そして、ウワサの内容に、
「広めたい」とか「信じてみたい」と思わせる
おもしろさや驚きが備わっていたことも、
今回のウワサが広まったことに
大きく影響していると思います。
ウワサの内容が好奇心を惹くものだったからこそ、
それについて考えたり、話したりする人が
ウワサのまわりに集まってきたのだと思います。
さらに、ウワサを最初に言い出した人が
周りに信頼されている人であれば、
そのウワサの信頼度も上がります。
ウワサの内容はウソっぽいものでも、
その出所が信頼されている人ならば、
ウワサの信頼性も高まるのだと思います。
ここまでのまとめをもって、
「ウワサの流れ方っておもしろいですね」と
終わってしまってもいいのですが、
ウワサの当人にインタビューできるチャンスも
なかなかないことだと思ったので、
最後に菊地さんにインタビューをしました。
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―まず、自分のウワサが広まって、
率直にどういう気持ちになりましたか?
「ひぐちさんが1番最初に、
『日焼けサロンに行ってるってほんと?』と
僕に確認しに来てくれて、そのときに初めて、
『自分がウワサになっている』と知りました。
その後も次々に乗組員たちが確認に来たので、
すでにウワサがけっこう広まっているんだなって、
すごく驚きました。」
―誰がウワサを言い出したのか、
気にならなかったですか?
「そんなに気になりませんでした。
というのも、
僕が日焼けサロンに行ってるというのは、
自分でもおもしろいというか、
僕がイヤな気持ちになるような
ウワサではなかったですから。
誰が言いだしたのかということよりも、
どうやってウワサはこんなに広まったのかなって
すごく気になりましたね。」
―「菊地さんは日焼けサロンに行っている。
なぜなら、色黒になって、
強そうに見られたいから」という
ウワサの内容については、どう思いましたか?
「内容には本当に心当たりがなかったです。
そもそも、僕が本当に
強そうに見られたいと思っているなら、
肌を黒くするよりももっとやるべきことがあります。
体を鍛えたりとか、もっと食べたりとか。」
―あははは、すいません。
笑ってしまいました。
失礼しました。
「強そうに見られるためにやるべきことは、
一応自分でも分かってます(笑)。」
―でも、日焼けサロンには行っていないにしろ、
本当に肌は黒いですよね。
長時間屋外でスポーツをしているとか、
なにか肌が黒い理由があるんですか?
「一応たまに草野球もやりますが、
基本的には、地黒です。
地黒なことは、前から周りにいじられていて、
子どもの頃のあだ名は『チョコ』でしたからね。」
―わはははははははは。
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(おわりです。)