物語は、
どこから来るのか。

第4回

混ぜると、生まれる。

──:
そういえば、ニコラさんて、
SFみたいな雰囲気のオペラの舞台も、
手がけてらっしゃいますね。

ホームページで拝見したのですが。
ニコラ:
はい、昨年パリで上演した作品ですね。

モーツァルトの音楽を
クラシカルなオーケストラが演奏して、
オペラ歌手が、
イタリア語で歌うものなんですけど。
──:
へぇ、登場人物たちの格好からして、
モーツァルトとか、
そういう内容だったとは、意外です。
ニコラ:
私自身は、舞台美術と衣装デザインを
担当させてもらったんですが、
あの仕事で、
ギャバンの衣装をつくっていた会社と
コラボすることができたんです!

東京の八王子にある、
レインボー造型という会社なんですが、
本当に、うれしかった(笑)。
──:
モーツァルトのオペラのための衣装を、
ギャバンの衣装を手がけていた
日本の会社の、レインボー造型さんが。
ニコラ:
そう、『羊飼いの王様』という作品で、
宇宙を舞台にしたスペースオペラです。

パリのシャトレ座で上演しました。
──:
戦隊モノっぽい登場人物が、
モーツァルトのオペラを演じている、と。
ニコラ:
そうそう。特撮オペラって感じ(笑)。
──:
ものすごいミックス感覚ですね。
ニコラ:
今から思い返しても、あの仕事は、
自分自身、とってもおもしろかったです。

しかも、レインボー造型さんで、
戦隊モノのコスチュームを手がけている
吉川さんという人が、
ギャバンのプロデューサーをやっていた
吉川進さんの息子さんで。
──:
ええ。‥‥へえ。
ニコラ:
その方がご紹介してくれたおかげで、
私、大葉健二さん、
あの方にお会いすることができたんです!
──:
大葉さん‥‥というと、俳優さんの。
ギャバンの主人公の、「一条寺烈」役の。
ニコラ:
そう!
──:
もう、そんなに目をキラキラさせて‥‥
よかったですねぇ(笑)。
何せヒーローですものね、ニコラさんの。
ニコラ:
はい、とっても興奮しました(笑)。
──:
ちなみに、ニコラさんが、
ギャバンやグレンダイザーを観ていた当時、
フランスでは、
日本のポップ・カルチャーって
どのように、受け止められていたんですか?

ニコラさんご自身を見ていると、
「好きだから、好き」という感じですけど。
ニコラ:
正直言って、特撮モノには
あまり注目していない大人たちもいました。

当時は、特撮は、子どもたちの興味の対象、
ということだったかもしれません。
──:
そうですか。
ニコラ:
ただ、大人たちが夢中になっていた
日本のアニメも、もちろんあります。
──:
たとえば‥‥。
ニコラ:
『キャンディ・キャンディ』や
『ベルサイユのばら』は
いろんなママたちが
夢中になって観ていたと思います。
──:
へぇー‥‥。
ニコラ:
私の母も、そうでした。

宮崎アニメも、
さまざまな世代の人たちに人気でしたね。
──:
なるほど。
ニコラ:
ともあれ、特撮モノについては、
大人たちには、
あまり注目されていなかったんですけど、
私たちは、ギャバンに夢中になりました。

どんな物語であれ、
自分で観なければ判断できないんだから、
おかしな話だと思うんですけど。
──:
では、ニコラさんが
中世のヨーロッパのクラシカルな文化にも、
現代日本のポップ・カルチャーにも、
おとなになった今でも
公平な態度で接しているのには、
何か理由というか、心当たりがありますか?
ニコラ:
やっぱり私は、物語が、好きなんです。

古典にも現代カルチャーにも、
それぞれに、おもしろいものがあるし、
同じように、
おもしろくないものも、ありますよね。
──:
ええ。
ニコラ:
私には、それらのカルチャーのすべてが、
ひとつの流れとして、
ひとつながりになっているように思える。

そういうイメージを、持っているんです。
──:
なるほど。
ニコラ:
で、そういう流れのイメージのなかで、
自分のやりたいことは
歴史や地域や言語を超えたカルチャーを
ミックスして、
新しい物語をつくることなんだな、
というところに、たどり着いたんです。
──:
まさしく、
そういう創作をしてらっしゃいますもんね。
ニコラ:
そのとき、異なる文化をミックスするには、
「どっちが上だ、どっちが下だ」
と言っていたのでは、うまくはいきません。

フランス人作家の
エドゥアール・グリッサンの概念のような、
言語や文化のクレオール化の問題と同じく、
異なるカルチャーに対して、
公平な態度で接しないと、ダメなんです。
──:
異なるものの混交が、新たなものを生み出す。

ニコラさんの創作においては、
「混ぜる」がひとつの大事な要素なんですね。
ニコラ:
ピュアなシンメトリーの表現にたいして
おもしろみを感じないように、
変化を好む、ということなのかもしれません。
──:
今日、お話をうかがってみて、
「新しい物語」が、どこからやって来るのか、
ひとつのヒントをもらった気がします。
ニコラ:
そうですか。
──:
同時に、エルメさんとの仕事を拝見して、
コラボレーションってすごいなあ、とも。

プロフェッショナル同士が
リスペクトし合ってコラボできたら、
お互いにとって、
そしてお客さんにとって、
うれしいものができあがるんですね。
ニコラ:
きっと、分野がまったくちがうことが、
よかったんだと思います。

単純に新鮮な発見がたくさんあるので
楽しいですし、
別の経験を持っていますから、
互いが互いを尊敬しやすいと思います。
──:
コラボレーションって、
「異なるもの同士が混じり合うことで
 新しいものが生まれる」
ということの、最たる例ですものね。
ニコラ:
あらゆる経験や物語に公平に接して、
いいなあと思ったら、
リスペクトして、シェアして、ミックスして、
まったく新しいものを、つくりだす。

そうすることでとても勉強になりますし、
自分でも
思いもよらないものが生まれたりします。
──:
はい。
ニコラ:
そして何より、私を刺激してくれるんです。

誰かの知らない物語に触れるということは、
いつでも。

<おわります>

2016/12/23 金曜日