物語は、
どこから来るのか。

第3回

きっかけは
『宇宙刑事ギャバン』。

──:
きっと日本のアニメはお好きだろうなと
思っていたのですが‥‥。

永井豪さんに『宇宙刑事ギャバン』って、
本当に、お詳しいんですね。
ニコラ:
いろんな物語に興味があるんです。
──:
では当然、本格的な文学などにも?
ニコラ:
はい、今日も、何冊か持ってきましたが‥‥
たとえば、この本は、
ルドヴィーコ・アリオストという人が書いた
『狂えるオルランド』というイタリア文学。
──:
いわゆる古典的名作、ですよね。
読んだことありませんけど‥‥。
ニコラ:
古代ギリシアの抒情詩『オデュッセイア』も、
好きでよく読みます。
19世紀のフランスの小説家である
ジュール・ヴェルヌなんかも、大好きです。

ヴェルヌは
『八十日間世界一周』という作品を書いた人。
──:
あ、映画になったのは観ました!
ニコラ:
でも、いちばん好きなのは、
アルゼンチンの小説家の、ボルヘスですね。

迷宮、無限、鏡、バベルの図書館‥‥
伝奇的、幻想的なモチーフ、
ファンタスティックな短編が、すばらしい。
──:
じゃあ、アニメは?
ニコラ:
ディズニー映画も、永井豪さんも、
『キャプテン・ハーロック』も好きですが、
でも、やっぱり、
いちばん影響を受けたのは宮崎アニメ。

とくに『千と千尋の神隠し』は、最高です。
日本に行こうと思った、
もうひとつのきっかけになった作品です。
──:
おお、その作品ならよーく知ってます。
得意げに言うことでもないですが‥‥。
ニコラ:
エコール・デ・ボザールという
フランスの芸術大学に通っていたときに
映画館で観たんですが、
もう、ものすごくショックを受けました。

物語、絵、色使い、キャラクター、背景、
アニメーション‥‥
すべてが
それまで「観たことのないもの」でした。
──:
ニコラさんの描く女の子の絵なんかにも、
どこか、
宮崎アニメへの敬意を感じますものね。
ニコラ:
そうかもしれません。
──:
日本に来ようと思ったきっかけが
『宇宙刑事ギャバン』と言ってましたけど、
そうやって
日本のカルチャーにハマっていかれたのは、
だいたい、いつごろですか?
ニコラ:
私と同じ世代のフランス人と同じように、
子どものころに、です。

というのも、テレビで
日本のアニメや特撮を放送していたから。
──:
じゃ、ギャバンも、その流れで?

その後にシャリバン、シャイダーと続く、
一連の特撮シリーズですよね。
ニコラ:
そうです。
私たちみんな、ギャバンが好きでした。

友だちと、自転車を
アルミホイルでグルグル巻きにしたり、
ダンボールで剣をつくったり。
──:
海の向こうのフランス人の子どもたちが、
ギャバンの愛車サイバリアンや、
レーザーブレードを手づくりしてるとは。
ニコラ:
鎧や甲冑を思わせるコスチュームも
ピカーッと光る目も、ぜんぶカッコいい。

毎回毎回、興奮しながら観ていました。
──:
ギャバンって、子ども心に、
ちゃんと「怖かった」って記憶があります。
ニコラ:
そうそう、そうなんですよね。
子ども向けだけど細部が適当じゃないです。

敵のキャラクターの造形とかも怖いし。
──:
ええ。
ニコラ:
爆発も、本格的で‥‥。
──:
爆発?
ニコラ:
特撮モノには爆発シーンが、ありますよね?
栃木のほうで撮っているそうですが。
──:
あー、石切場みたいなところで「ドカーン!」
みたいな、お決まりのあのシーン。

「栃木」までは、知りませんでしたが(笑)。
ニコラ:
同じようなSFっぽいテレビシリーズで言うと、
アメリカの『スタートレック』、
『ナイトライダー』『600万ドルの男』‥‥。
──:
もう止まらないって感じですね(笑)。
ニコラ:
あと、『宇宙からのメッセージ』‥‥。
──:
え?
ニコラ:
日本の『宇宙からのメッセージ』です。
それほどメジャーではないんですけど。
──:
いえ、知ってます。

成田三樹夫さんが‥‥
あのヤクザ映画でおなじみのシブい名脇役、
成田三樹夫さんが、
「銀のカニ」みたいなお姿で出演している、
深作欣二監督のSF映画です。
ニコラ:
え、銀の何?
──:
石ノ森章太郎さんの原作だったと思います。

僕はたまたま知ってましたけど、
そこを挙げるのって‥‥すごすぎませんか。
ニコラ:
真田広之とか千葉真一も出てた。
──:
はい、そうです、志穂美悦子さんとかね。
いやあ、ビックリしました‥‥。

<つづきます>
2016/12/22 木曜日