12.我慢を学ぶには?

糸井 学校で習う大きなことのひとつに、
「やりたくないことをやらなきゃダメだよ」
があります。
負の要素をどうこなせるようになるかについて、
かなり言われる気がするんですが。
吉本 僕がそういうことで
いちばん気になるところは何かといったら、
先生だったら先生が、親なら親が
「自分が子どものときに
 どうだったか」

を忘れてるんじゃないか、ということです。
忘れてるから、
考えから除外してるんじゃないでしょうか。

自分がどうやっていたかを考えれば
何もかも
すぐにわかるのではないだろうかと思います。

いじめっ子やいじめられっ子のことも、
言い換えると「もののあはれ」です。
その後の夫婦生活なんかの予行演習を、
子どもなりにやっているわけです。
やらせておくほうが
正しいんじゃないかなとも思うんですけど
「やっぱりそれはいけない」と
先生や親は言いますね。
でも、ちょっと見当が違うんじゃないですか、
という感じがするんです。

子どもに「いけないよ」と言う人が
「自分がそうだったときに、どうだったか」
ちょっとでも考えてみれば
いいじゃないかと思うんです。
糸井 自分もできなかったことを、子どもに
無理にさせるわけにはいかないですし‥‥。
しかし、吉本さんは、
文筆生活を送られてきて、
締切を本当に逃しちゃったことはないとか、
約束があるときには眠いけど起きるとか、
そういうことは、
身につけてこられたわけですよね。
吉本 ええ。ある程度は身についてきていますね。
糸井 それが身についてきた秘密とは、
何だったんでしょうか?
吉本 ええと、これは、
考えさせられる問いであって、どうも(笑)。

‥‥つまり、ある程度身について、
ある程度は身についていませんね。
これは、
調和を覚えたんだと思います。


「はいはい、それはやるよ」と言いながら、
ぜんぜんやらないで遊んでたり、
ボヤッとしたりすることは、当然あります。
でも、思いがけないときに、
いつの間にかやっていたりもします。

そういう調和や加減を自分で覚えた、
ということでしょう。
何かを言われて
いつも張り切ってやってた、
ということではありません。
糸井 ありませんね。
僕も、そうじゃないです。
吉本 みんな寝ちゃったのに、
ノソノソ起き出してやってみたりして(笑)
やってきた、そのバランスが、
自分なりに合うということを覚えたんです。
その調子でいけばいいんじゃないか、と
やっていくうちにわかってきたのでしょう。

ですから、決して
努力することを覚えたとは
思いません。
努力することも覚えたけど、
そのかわり、怠けることも
ちゃんとうまく覚えた、

と言えるんじゃないでしょうか。
糸井 考えてみれば、
すべて怠けるという状態も、
なかなか大変で(笑)。
吉本 そうそう(笑)。
いまみたいに年を食うと、
痛切に感じます。
「やりたい」と思ったって
目が利かない、なんていうこともあるわけです。
そういうときは、やめて休みますものね。
「やる」そのこと自体がどうというより、
それに付随する外側のことが
ダメなこともあるわけです。

ですから、口で言うほど
僕はうまく行ってないけど、とにかく
「やりたいこととやりたくないことを
 うまく調和している、その状態がつづく」
というよりほかないですね。

自分がそうなんですから、
子どもたちもそういうことを
自分で覚えていくのではないかと
僕は思います。

(おしまい)
 
これで、吉本隆明さんの
今回のお話はおしまいです。
ご愛読、ありがとうございました。
「ほぼ日」では、10周年を迎える今年、
吉本隆明さんの大きなコンテンツを
いくつもやろうと思っています。
どんなものがはじまるかは、
もうすぐお知らせいたします。
みなさん、どうぞ
たのしみになさっていてください。

今回の最後のオマケとして、
吉本さんと糸井重里が
おしゃべりしているようすを
すこしだけですが、ご紹介します。
どうぞムービーでごらんください。



2008-05-09-FRI




(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN