糸井 | ちょっと『蛇イチゴ』の話なんですけどね、 「この監督は、悪いなあ」と思ったのは、 あの、おばさんの着替えのシーン。 |
西川 | 絵沢萌子さんだ(笑)。 |
糸井 | もう本当に悪いの。 こう、おっぱいの、 斜めの垂れ方を撮ってるでしょう。 |
西川 | あれはいちばん 撮りたかったカットなんです(笑)。 |
糸井 | もう本当にね、あなたは悪い!(笑) でも、同性だから撮っていいんだよ。 |
西川 | そうですね。 |
糸井 | あれはぜったい男は撮らないです。 |
西川 | そうですか? 撮らないかなあ。 |
糸井 | 撮らない。 「それはないことにしときましょう」 ってなりますよ、男は。 |
西川 | へええー。 |
糸井 | いや、だから、 『ディア・ドクター』の中にも、 そのニュアンスがあるんですよ、やっぱり。 |
西川 | そうですか。 |
糸井 | 本人が「はい、どうぞ」っていうの。 女の人が自分の性的な部位を 粗末に扱うのがぼくはすごく好きなんです。 「ほれ」っていう。 |
西川 | いますよね(笑)。 |
糸井 | あるいは、ストリッパーがね、 「はい、どうぞ!」って。 |
西川 | 60くらいのストリッパーとか(笑)。 |
糸井 | うん、その何ていうんだろう‥‥ 性的な部位はとくべつ大事なものじゃなくて、 「だって腕とか顔と同じでしょ?」という扱いは、 かえってエロティックに見えるんですよ。 ‥‥自分だけの感性かもしれないけど(笑)。 |
西川 | どうなんでしょう(笑)。 |
糸井 | この映画で八千草さんが、 「はい」って診てもらってるのは、 そういう感じだなあと思いましたねえ。 |
西川 | ああ、はいはい(笑)。 |
糸井 | それを勝手に男たちが色眼鏡で、 「本当に見ていいんですかぁ」と。 |
西川 | そう、そう(笑)。 |
糸井 | その関係がぼくは‥‥‥‥好きなんですよ。 そこを描いた映画を いままで観たことなかったんです。 だから‥‥興奮しましたね。 |
西川 | そんな見方をしてくださった方は、 はじめてです。 |
糸井 | ていねいでしょお?(笑)。 |
西川 | 驚きました。 そんな細かいところまで‥‥。 |
糸井 | なにしろ2回観てますから。 ‥‥あ、またいいところ思い出した。 あの、「スイカの粗末な扱い」。 |
西川 | あ、はい、スイカのシーン。 |
糸井 | 大きな嘘を抱えている鶴瓶さんの部屋に、 瑛太さんが、スイカを皿にのせてやってくる。 あのスイカは大事ですよね。 |
西川 | うん、そうですね、まさに。 |
糸井 | 「食べますか」って持ってきた瑛太さんは スイカを大事に持ってきた。 でも、あのときの鶴瓶さんはそれどこじゃないから スイカがただのブツにしか見えてない。 ふたりの置かれてる状況が スイカを通して出ちゃってますよね。 |
西川 | うん。 |
糸井 | あれは脚本を書いたときには どうだったんだろうって考えたら、 もう悩ましくて(笑)。 |
西川 | そうなんですよ、やっぱり本の時に‥‥ |
糸井 | もう考えてますよね。 |
西川 | 考えてます。 何を小道具にするかというのがいちばんで。 だから、鶴瓶さんの部屋の家具も、 あのスイカをどう扱うかってところから、 逆算して決めたんです。 |
糸井 | うわぁ、いいですねぇ。 |
西川 | 椅子に座るべきなのか、 地べたに座るべきなのか。 スイカをめぐるあのお芝居をするには、 やっぱり地べたじゃないと ああいう動きにならないので。 |
糸井 | ダメですね。 足に近い食い物にならないですよね。 粗末にならない。 |
西川 | テーブルか地べたか、と考えて、 地べたに決めました。 |
糸井 | テーブルでちゃんと食べるスイカと 地べたで粗末にされるスイカっていうのは、 さっきのおっぱいの話と同じですね。 |
西川 | ‥‥ああ。 |
糸井 | いわゆる普通のすばらしいおっぱいと、 「ほれ」って粗末に出されるおっぱい。 同じです、関係が。 |
西川 | ああ、ほんとだ。 |
糸井 | だから、西川さん、 無意識にそういうことをいっぱい 描いてるのかもしれないですね。 こっちから見るとつまらないものが、 逆から見るとすばらしいものに見えて、 でも同じものなんですよ。 というのをいつも描かれてます。 |
西川 | そうですね。 昨日はこっちから見てたのに、 今日はあっちから見る。 あの‥‥人って、変わるじゃないですか。 |
糸井 | 変わります。 |
西川 | それがやっぱり残酷だし、 おもしろいところだなと思ってるんです。 でも映画でそれを描くと みんな違和感を感じてしまうんですよ。 「あれ? キャラが変わってる」みたいな。 |
糸井 | うん。 |
西川 | 小説なんかだと、 そういう理由のない変化をスルスルっと読んで 納得できてしまったりしますよね。 それをなんとか映画で、 行動原理の整合性とかなく、やってみたいなと。 |
糸井 | やりたいですよねえ。 因果がないと、 「ロジカルじゃない」って言われちゃうでしょ。 |
西川 | そう、そう、そう。 |
糸井 | でも、見えない因果は、山ほどある。 |
西川 | そう! そこなんですよねえ‥‥。 (つづきます) |
2009-09-09-WED