糸井 | 原田さんがランニングしたりして閃くアイデアって、 ただの思いつきをアイデアに変えていくプロセスが あるわけですよね。 |
原田 | いやいや、そんな大層なものじゃないです。 けっこういい加減ですよ。 あとでかっこよく理由づけをするみたいなものです。 でも、自分のいい加減な思いつきで言ったのが ものすごい当たったりすると すごく快感を覚えますね。 |
糸井 | ホームランバッターのスイングみたいなものですね。 |
原田 | 「おぉ、当たった!」って手応えがすごいんです。 クォーターパウンダー※1とか 期間限定で販売していた 「ビッグアメリカ」シリーズ※2なんかは まさにそれです。 ※1 0.25ポンドの重さのハンバーグが売りの ハンバーガー。発売当初、話題になり 爆発的ヒットを記録した。 ※2 クォーターパウンダーをアレンジした テキサスバーガー、ニューヨークバーガー、 カリフォルニアバーガー、ハワイアンバーガーの 4種類を期間限定で発売したシリーズ。 テキサスバーガーのときに初日売り上げ記録を更新。 |
糸井 | そのふたつの商品は見事に成功しましたよね。 でも、最初は爆発的に売れたけど なかなか定着しない商品だな、と思ってたんです。 |
原田 | はい。 |
糸井 | 「定着しないからやめよう」 という考えもあったと思うんです。 でも、そうではなくひたすら出し続けた。 そのうち気づいたら定番商品になっていたわけです。 物事って、ここで諦めてやめてしまうと負けだけど、 歯を食いしばってあとふた押ししたら 結果、勝ちに転がる、みたいなことありますよね。 |
原田 | 社内ではそういう長く続けることで いい方向に転がる現象を クリティカルマスって言ってます。 最初は流行に敏感な人に普及し、 市場全体の普及が保守的な層にまで到達すると 伸びが一気に跳ね上がるという現象です。 要は、中途半端に終わらせたんじゃ 臨界点を突破しないというわけなんですよ。 |
糸井 | なるほど。 すべてがそうである、というわけじゃないですけど 長いあいだ定着しないときって 割とあきらめちゃうものですしね。 |
原田 | そうなんですよ。 仮に、全体的な目標を 100に定めていた仕事があったとします。 そのうえで、110の結果を出すのと、 90の結果を出すのとではどちらを褒めるか、 とお店のマネージャーたちに聞いてみたんですね。 |
糸井 | うんうん。 |
原田 | どのマネージャーも 「110の成果を上げた人を褒める」って答えました。 「90だったら目標を達成してないからダメ」だと。 でも、それは間違いなんです。 目標100の仕事をクリアーして110の結果出した人は 次に90の結果を出しても満足してしまう。 そして90が80になり70になる。 その結果、達成度がどんどん下がってくるんです。 みんなコンサバになっていくんですよ。 |
糸井 | あ、僕もそれよくわかります。 だって自分がそうだから(笑)。 100を目指して110の結果を出したなら 翌日は休みますよ、多分。 そうじゃなくて、結果が110でも90でも 翌日、100を目指して何かを考える、 ということがきちんとできるのが いちばんいいんじゃないでしょうか。 |
原田 | そうなんです。 だから、さっきのビッグアメリカのとき、 「売り切れました!」なんて報告を聞いたときは 単純に喜べないわけです。 |
糸井 | 110になったわけですもんね。 |
原田 | セールスプロモーションなんかでも 「予算達成できませんでした、失敗です」 なんていう報告を聞いたりするんですが、 「そのプロモーションをやってなかったら どうなっていたかわからないでしょ。 少なくとも売れたんだから、なぜ売れたのか、 次はどうすればもっと売れるのかを考えよう」 と言ってますね。 |
糸井 | とにかく、考えることが必要だと。 |
原田 | やっぱり、110と90の話のように いい報告だけをしようとする傾向にあるんですよ。 このあいだもひさしぶりに 起こってはいけないような問題が発生して 店長クラスの人間を集めようとしたんです。 で、前日、担当者に 「店長たちに明日話すテーマは伝えた?」と訊くと 「もちろん伝えてあります」と言うんです。 |
糸井 | はい。 |
原田 | でも、テーマが問題点の解決ですから、 私は店長たちが自分の評価を守るために、 その問題に対しての ディフェンシブなトークをしてもらっても 集まる意味がないんです。 だから、その店長たちではなく、 その店長に近い存在の別のメンバーを集めました。 それで当日、 なんで集められたんだかわからない人たちの前で 私は開口一番 「いいことを言う人、間違ったことを言う人、 何も言わない人がいます。 何も言わない人は一番ダメ。 いいことを言う人が二番目にダメ。 間違ったことを言う人、これを私は評価する」 というふうに説明したんです。 |
糸井 | 間違ったことを言う人っていうのは 間違ってもいいから、素直に思ったことを言う人、 っていうことですか? |
原田 | そうですそうです。 そのあとで お店で起こっている問題のことを話しました。 「みなさんを評価しようとしてるんじゃない。 私の課題発見のために助けてほしい」とね。 そうしたら、すぐに問題が浮き彫りになりました。 結局その問題は、 そんなことしてたら、そりゃそうなるよ、 っていう簡単なことだったんです。 |
糸井 | つまり、用意しておいた優等生的な意見が、 その問題を根深くしていた、ということですよね。 |
原田 | えぇ、まさにそうでした。 |
糸井 | じょうずにものが言える人が混じることで 問題が見えなくなるっていうことがありますからね。 僕も「君は言葉がうますぎるからダメ」って よく言いますもの。 正直言ってうまく言わないでほしいくらいです。 |
原田 | 言葉はうまいけど、中身がないとかね。 |
糸井 | うんうん。 (つづきます) |