原田泳幸さんと、 価値について。 「人間の価値ってお金じゃないんです」
第4回 100に対しての90と110の関係
糸井 原田さんがランニングしたりして閃くアイデアって、
ただの思いつきをアイデアに変えていくプロセスが
あるわけですよね。
原田 いやいや、そんな大層なものじゃないです。
けっこういい加減ですよ。
あとでかっこよく理由づけをするみたいなものです。
でも、自分のいい加減な思いつきで言ったのが
ものすごい当たったりすると
すごく快感を覚えますね。
糸井 ホームランバッターのスイングみたいなものですね。
原田 「おぉ、当たった!」って手応えがすごいんです。
クォーターパウンダー※1とか
期間限定で販売していた
「ビッグアメリカ」シリーズ※2なんかは
まさにそれです。

※1 0.25ポンドの重さのハンバーグが売りの
ハンバーガー。発売当初、話題になり
爆発的ヒットを記録した。

※2 クォーターパウンダーをアレンジした
テキサスバーガー、ニューヨークバーガー、
カリフォルニアバーガー、ハワイアンバーガーの
4種類を期間限定で発売したシリーズ。
テキサスバーガーのときに初日売り上げ記録を更新。
糸井 そのふたつの商品は見事に成功しましたよね。
でも、最初は爆発的に売れたけど
なかなか定着しない商品だな、と思ってたんです。
原田 はい。
糸井 「定着しないからやめよう」
という考えもあったと思うんです。
でも、そうではなくひたすら出し続けた。
そのうち気づいたら定番商品になっていたわけです。

物事って、ここで諦めてやめてしまうと負けだけど、
歯を食いしばってあとふた押ししたら
結果、勝ちに転がる、みたいなことありますよね。
原田 社内ではそういう長く続けることで
いい方向に転がる現象を
クリティカルマスって言ってます。
最初は流行に敏感な人に普及し、
市場全体の普及が保守的な層にまで到達すると
伸びが一気に跳ね上がるという現象です。
要は、中途半端に終わらせたんじゃ
臨界点を突破しないというわけなんですよ。
糸井 なるほど。
すべてがそうである、というわけじゃないですけど
長いあいだ定着しないときって
割とあきらめちゃうものですしね。
原田 そうなんですよ。
仮に、全体的な目標を
100に定めていた仕事があったとします。
そのうえで、110の結果を出すのと、
90の結果を出すのとではどちらを褒めるか、
とお店のマネージャーたちに聞いてみたんですね。
糸井 うんうん。
原田 どのマネージャーも
「110の成果を上げた人を褒める」って答えました。
「90だったら目標を達成してないからダメ」だと。
でも、それは間違いなんです。
目標100の仕事をクリアーして110の結果出した人は
次に90の結果を出しても満足してしまう。
そして90が80になり70になる。
その結果、達成度がどんどん下がってくるんです。
みんなコンサバになっていくんですよ。
糸井 あ、僕もそれよくわかります。
だって自分がそうだから(笑)。
100を目指して110の結果を出したなら
翌日は休みますよ、多分。
そうじゃなくて、結果が110でも90でも
翌日、100を目指して何かを考える、
ということがきちんとできるのが
いちばんいいんじゃないでしょうか。
原田 そうなんです。
だから、さっきのビッグアメリカのとき、
「売り切れました!」なんて報告を聞いたときは
単純に喜べないわけです。
糸井 110になったわけですもんね。
原田 セールスプロモーションなんかでも
「予算達成できませんでした、失敗です」
なんていう報告を聞いたりするんですが、
「そのプロモーションをやってなかったら
 どうなっていたかわからないでしょ。
 少なくとも売れたんだから、なぜ売れたのか、
 次はどうすればもっと売れるのかを考えよう」
と言ってますね。
糸井 とにかく、考えることが必要だと。
原田 やっぱり、110と90の話のように
いい報告だけをしようとする傾向にあるんですよ。
このあいだもひさしぶりに
起こってはいけないような問題が発生して
店長クラスの人間を集めようとしたんです。
で、前日、担当者に
「店長たちに明日話すテーマは伝えた?」と訊くと
「もちろん伝えてあります」と言うんです。
糸井 はい。
原田 でも、テーマが問題点の解決ですから、
私は店長たちが自分の評価を守るために、
その問題に対しての
ディフェンシブなトークをしてもらっても
集まる意味がないんです。
だから、その店長たちではなく、
その店長に近い存在の別のメンバーを集めました。

それで当日、
なんで集められたんだかわからない人たちの前で
私は開口一番
「いいことを言う人、間違ったことを言う人、
 何も言わない人がいます。
 何も言わない人は一番ダメ。
 いいことを言う人が二番目にダメ。
 間違ったことを言う人、これを私は評価する」
というふうに説明したんです。
糸井 間違ったことを言う人っていうのは
間違ってもいいから、素直に思ったことを言う人、
っていうことですか?
原田 そうですそうです。
そのあとで
お店で起こっている問題のことを話しました。
「みなさんを評価しようとしてるんじゃない。
 私の課題発見のために助けてほしい」とね。

そうしたら、すぐに問題が浮き彫りになりました。
結局その問題は、
そんなことしてたら、そりゃそうなるよ、
っていう簡単なことだったんです。
糸井 つまり、用意しておいた優等生的な意見が、
その問題を根深くしていた、ということですよね。
原田 えぇ、まさにそうでした。
糸井 じょうずにものが言える人が混じることで
問題が見えなくなるっていうことがありますからね。
僕も「君は言葉がうますぎるからダメ」って
よく言いますもの。
正直言ってうまく言わないでほしいくらいです。
原田 言葉はうまいけど、中身がないとかね。
糸井 うんうん。

(つづきます)

2010-08-19-THU

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