原田泳幸さんと、 価値について。 「人間の価値ってお金じゃないんです」
第5回 エンジニア魂
原田 うちのプロモーションを担当する部っていうのは
よく最初にお皿を買ってきちゃうんです。
糸井 お皿?
原田 えぇ、イベントをやるときに、
まずイベント会場を押さえるんです。
糸井 なるほど、お皿が先(笑)。
原田 そのあとでそのお皿に載せる料理を考える。
極端な話ですが、イベント会場を先に押さえて
どんなイベント内容にするか
直前になって考えるんです。
それ、とんでもないことですよ。
糸井 うんうん。
原田 「まず、料理作れよ」ってよく言いますよ。
以前、糸井さんに来ていただいたイベントのときも
お皿用意しているのに
料理をなかなか作らないから
私が最後の最後で料理を作ったんですよ。
前日の晩に「おい、お前はこれを話せ」って。
糸井 さきほども話していた、監督でいたいのに
プレイヤーになっちゃうわけですね。
原田 そうですそうです。
いいお皿は用意できてるのに
料理がなかなか伴わない。
コンピュータで言うと
ハードウェアばかり高性能で
ソフトウェアがまったくない、
そういう状況なんです。
糸井 ソフトウェアがない、っていうことは
そのイベントなんかを通じて
よろこんだり笑ったりする人の顔が
見えてないんじゃないですかね?
原田 うん、まさにそうですね。
さっき話していた
言葉がうまい、話がうまいっていうのは
ハードウェアの性能なんですよ。
中身が伴っていない。
糸井 原田さんが、
人の根底にあるようなソフトウェアの部分に
そこまで興味を持つっていうのは、
社長としての使命感みたいなものなんですか?
原田 よく訊かれるんですけど、
それがね、わからないんですよ。
糸井 なんかね、
おもしろがっているような気がするんですよ。
前に誰かと話しているときに聞いたんですけど、
プログラマーの人たちが見るような掲示板に
解決しにくい問題を投げかけると
みんなが「俺が! 俺が!」って手を挙げて
「こうすればいいんだよ」って
言ってくるらしいんです。
原田 ふふふ、それ、おもしろいですね。
糸井 もうね、その手の人たちは
「解決できること」自体に
興味や関心を持っているんですって。
原田 そう言われてみると
僕にもその傾向はありますね。
「エンジニア魂」みたいなものなのかもしれません。
糸井 ですよね。
問題解決にアイデアを駆使して挑むその姿勢は
まさにそれだと思います。
原田 エンジニアっていうのは
若いころから理不尽な仕事をさせられるんです。
とにかくコストが理不尽、スケジュールが理不尽、
そのうえで「とんでもないもの作れ」
って言われますからね。
糸井 なるほど。
原田 最初は「できない!」って思うんですよ。
でも自分もエンジニアの端くれですから
そんなすぐにさじを投げるわけにもいかない。
するとある日、すべてが解決できるような
アイデアが閃くんです。
それこそ
「なんでこんなこと思いつかなかったんだ!」
っていうようなアイデアなんですよ。
糸井 それはジョギング中(笑)?
原田 いやいや(笑)。
で、その理不尽な仕事を片づけると
また次の理不尽な仕事がやってくる。
それをドンドン繰り返していくんです。
このブレイクスルーに快感を覚えていくのが
エンジニアなんじゃないですかね。

だから、私は社員に
「非常識を常識にするのがビジネスだ」
っていつも言ってるんです。
それもそういうエンジニア時代に培ったものから
生まれてきている意識ですね。
糸井 この対談のあいだ、どんな話でも
「原田さん、エンジニアだからね」で
片づけられそうな気がしてきた(笑)。

(つづきます)

2010-08-20-FRI

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