糸井 | これまで原田さんが話してきた イベントだったり、 マネジメントだったり商品の話って 全部お金がからむことですよね。 原田さんって絶えずお金の海の中にいる、 そういう存在だと思うんです。 |
原田 | えぇ。 だからお金のことっていうのは つねに考えてきたつもりです。 その例として、僕はマクドナルドに入ってきて、 最初にやったことが 営業の報酬システムを導入することだったんですね。 売った人、売らなかった人で ちゃんとインセンティブがつくようなシステムを 社内に確立したんです。 |
糸井 | はい。 |
原田 | それで社長賞みたいなものがあって 金一封が入った封筒を配ったりするんですよ。 ふつうの会社だったらその封筒には 会社名だとか社長の名前が入っているんだろうけど うちはそうじゃないんです。 |
糸井 | なんて書いてあるんです? |
原田 | 「お客様」って書いてあるんです。 「誰がそのお金をくれたのか? 社長じゃないよ、お客様だよ」 そこをきちんと認識させることを まず最初に社員へのメッセージにしましたね。 |
糸井 | それはもう、お金をどう考えるか、ということに モロに直結してますよね。 |
原田 | えぇ、そうなんです。 もうひとつ徹底してやったのが、 お金の使いかたと使い道。 やはりヒト、モノ、カネという3つの経営資源を どういうふうに配分していくかにかかっている。 新たに生まれるキャッシュフローを より大きくするために配分することこそ 経営だと思います。 |
糸井 | なるほど。 |
原田 | ただ、そこでちょっと特殊なのは、 マクドナルドの場合、商品によって、 通常とはまったく違うお金の使い方を 考えなければいけないんですよ。 |
糸井 | ほぅ。 |
原田 | 単純なところで言うとふつうは キャッシュフローを大きくするために 「広告宣伝費」というお金を商品に使います。 でも、世の中には広告宣伝費がゼロでも キャッシュフローを ずっと大きくしていける商品があるんです。 |
糸井 | 何も言わずに売れている商品ですね。 マクドナルドだと……なんだろう。 |
原田 | ビッグマック※1なんです。 ※1 言わずとしれたマクドナルドの看板メニュー。 バンズ(パン)は3層、パテ(ハンバーグ)は2枚。 味の決め手は秘伝の「ビッグマックソース」。 |
糸井 | ビッグマックってそういう商品なんだ! |
原田 | そうです。 永遠に売れていて、 それでいて広告宣伝費ゼロですから。 |
糸井 | それはスゴイ商品ですよね。 |
原田 | えぇ、うちで一番の親孝行です。 こういう商品をキャッシュ・カウと言います。 |
糸井 | キャッシュ・カウ……。 牛ですか? |
原田 | お金を生み出す牛です。 このキャッシュ・カウを軸に どういうお金を使うか考えないといけないんです。 このキャッシュ・カウのような商品を ほかにも作るのか? それとも、いまのキャッシュ・カウを もっとお金を産む牛に育てるのか? お金の使い道と優先順位が大事なんです。 |
糸井 | なるほどー。 親孝行な牛は大事にもされる(笑)。 |
原田 | そうですそうです。 100円マックシリーズ※2も メイドフォーユー※3もすべては キャッシュ・カウである ビッグマックに集約するようにした 考えかたなんです。 ※2 100円で購入できる商品。 オーソドックスなハンバーガーや ホットアップルパイなど 単品のメニューが数種類揃っている。 ※3 注文を受けてから調理するシステム。 無駄を省き、出来たての商品を提供できる。 |
糸井 | 原田さんがいま挙げてくれた例って 会社が使うお金、いわば すごく大きなお金の話ですよね。 いっぽうで、 お客さんが払ってくれるのは小さなお金。 でも、どっちも大事なお金じゃないですか。 原田さんの中で小さいお金と大きいお金、 意識すべき種類のお金がふたつありますよね? |
原田 | もちろんです。 糸井さんにお越しいただいた 横浜でのイベントで私のプレゼンテーションは 「1年間のお客様の数は15億人。 その15億人のお客様からあと1円いただいたら 15億円利益は上がる」というものでした。 |
糸井 | はい。 |
原田 | その続きはこうです。 「そのかわり1円をうっかりすると、 15億円失ってしまう。 その1円の大切さをよく考える必要がある」と。 |
糸井 | たしかにそのとおりですね。 |
原田 | でもそのいっぽうで 「スプーンを使って風呂桶をいっぱいにするような チマチマしたこと考えるな。 でかいことやれ」というスケールの話をしたり。 |
糸井 | やっぱり大きいお金と小さいお金、 その両方が原田さんの中に混在してますね。 |
原田 | お金って大きい小さいに限らず、 どちらも大事なんです。 |
糸井 | もうひとつ言うと、お金って 客観性と主観性の両方が混じってきますよね。 自分が10000円落としたら 「10000円落とした!」って大騒ぎする。 でも、誰かが10000円落としても 大変だとは思うけど 自分のときほどの感情はわかないですよ。 いちいちそこに感情をわかしてたら 5000億円の話なんてできないですもん。 |
原田 | やっぱり自分のお金と 会社のお金の差って大きいですよ。 だって、うちの人間もちょっとしたイベントやると 「数千万円かかります」って言うわけです。 |
糸井 | しかも平気な顔して、ね。 |
原田 | そうそう。 平気で数千万円とか言う。 数千万って家一軒ですよ。 商品ひとつの数時間の発表会に数千万かい、と。 自分だったら数千万つかうなんて とんでもなく真剣に考えることでしょ? だから、僕は会社のお金にしても 主観的な視点で使わないといけないんじゃないかな、 って思います。 |
糸井 | 悪い例を挙げると アメリカの強欲な経営者たちが1000億単位のお金を 上のほうの人間で山分けしよう、 みたいなことをやる。 あれって、会社のお金を 自分のお金だと思っている人がやることですよね。 |
原田 | 上場が目的のベンチャー企業とかですよね。 投資してもらって株価を上げて、 その瞬間に売り抜けてしまったり……。 それは、ひどい話だと思います。 だから僕は 「商売っていうのは価値を創出して それをお客様に提言して 買っていただくことで対価を得る。 価値と対価、この循環しかない」って 社員にずっと言ってるんです。 |
糸井 | うん、そうだと思います。 |
原田 | だから 「価値を上げずに値上げをしちゃいけない。 値を上げるなら価値も上げろ」という意識で ずっとやってきてます。 価値を上げるための投資、 これがいちばん大事なんです。 (つづきます) |