原田 | お金を使ううえで もうひとつ大事なことがあります。 それは使うお金すべてが、 お客様が意識する価値につながっているか、 ということです。 これはすごく単純なことで、 販売店を例に挙げてお話すると、 私は、販売店というものは 販売する商品のマージン分の価値を お客様に還元する必要があると考えています。 |
糸井 | うんうん。 |
原田 | もし還元できていないのなら、 そのマージンは不要なコストなんです。 言わば、無駄です。 かつてアップルの社長をやっていたときに 大規模な販売店のリストラをやったんですが、 それはこの考えからの行動でした。 顧客価値を生み出さない部分はすべてカットし、 お客様に還元できる部分に使ったんです。 |
糸井 | なるほど。 それはどういうところに使ったんですか? |
原田 | 顧客サポートの充実や 店舗の説明要員の増員なんかですね。 もちろん商品開発にも使いました。 |
糸井 | たしかにそれはダイレクトに お客さんに返ってくる使いかたですよね。 |
原田 | えぇ。 |
糸井 | その話を聞いていて思い出しました。 昔、アップル時代の原田さんと話していたときに 誰も見ていないような看板にたいして 高額なお金を使っていることに怒っていて、 「僕に考えがある」って言ったんです。 |
原田 | (笑)。 |
糸井 | そのとき僕はどうするのかを 教えてもらえませんでした。 で、そのあとしばらくしてから アップルストア銀座店※1が建ったんです。 「あぁ、このことだったんだ」と思いましたね。 ※1 2003年に開店した日本初のアップル直営店。 銀座という一等地にあり、建物の外観に掲げられた 巨大なアップルマークはとても人目を惹く。 |
原田 | ちなみにそのあとアップルを退社するんですが、 アップルストアと東京大学のコンピュータを すべてMacに替えた※2のが 私の置き土産みたいなものでしたね。 ※2 2004年、東京大学は 約3万人が使用する情報教育システムの 標準情報端末をすべてMacに変更した。 |
糸井 | 銀座の一等地に看板よりも大きい看板として 存在してますよね。 あれはお金の使いかたの いい見本のひとつだと思うなぁ。 |
原田 | やっぱりお金は賢く使わないといけないんです。 そのときに絶対に忘れちゃいけないのが 「価値に対しての対価を得る」ということ。 それは会社としての認識だけでなく、 社員個人の認識でもそこを思って欲しいんです。 |
糸井 | うんうん。 社員は会社に貢献し、 会社はお客さんに貢献するということですね。 |
原田 | そこに貢献できない社員は 給料をもらっちゃいけないと思っています。 だから私は全部成果主義にしてるんです。 人以上によくやった人は大きくリターンを返します。 |
糸井 | あ、加点主義なんだ。 |
原田 | えぇ。減点主義じゃなく加点主義です。 結果が出せる人は 評価に値するわけですから出世できる。 なので、成果主義の導入とともに 年功序列を廃止しました。 で、年功序列を廃止するのに 定年があるのはおかしいと思って 定年も廃止したんです。 |
糸井 | そういう大事なことを いっぺんにやったわけですね。 |
原田 | そうですそうです。ほかにも、 たとえば一度部長になった人間が あまりいい働きができなかった場合、 課長からやり直して、もう一度チャレンジする、 みたいなシステムも作りました。 |
糸井 | へぇ。 |
原田 | ようは適材適所だと思います。 駄目だった人は、 その人が輝ける場所を見つけるまで チャンスを与え続けてあげる。 定年に関して言えば、 会社が培った人材の財産を 全部捨てるようなものですから とんでもない話なんですよ。 |
糸井 | それってマクドナルドのアイデアなんですか、 それとも原田さんのアイデア? |
原田 | これは私ですね。 |
糸井 | ということは世界のマクドナルドが そういうことをしているわけではない? |
原田 | そうです。 マクドナルド本社にだって定年があります。 |
糸井 | それはちょっとした発明ですよね。 いや、大発明かも。 |
原田 | その自負はありますよ。 日本の上場企業で定年制度を廃止したのは うちだけでしょうね。 |
糸井 | 成果主義の導入、年功序列の廃止、 そして定年の廃止。 その3つがちゃんとリンクしてる。 すごいなぁ。 |
原田 | やっぱり矛盾がないことを 突き詰めてやる必要があるんです。 どこかでもっともらしいことを言ってごまかすと すぐに歪みが生じるわけですから。 |
糸井 | うんうん、すごくよくわかります。 |
原田 | ただ、上場企業でそういうことをやったもんだから、 マスコミもいろいろ言ってくるんです。 「変な従業員がずっと居座ったらどうします?」 なんてことを聞いてきたりとか。 |
糸井 | (笑)。 |
原田 | でも私はその質問に対して 「いや、あなたは経営をわかっていない。 これは、変な従業員をどうしようか、 なんていうことが悩みではなく、 どうやって優秀な従業員を育てるかが 一番の悩みなんだ」と答えたんです。 |
糸井 | なるほどねぇー。 |
原田 | 事実、優秀な従業員を育成していくと 変な従業員は自然淘汰されていくんですよ。 |
糸井 | いやぁ、原田さんらしい。 (つづきます) |