原田泳幸さんと、 価値について。 「人間の価値ってお金じゃないんです」
第7回 社員は会社に、会社はお客さんに貢献する。
原田 お金を使ううえで
もうひとつ大事なことがあります。
それは使うお金すべてが、
お客様が意識する価値につながっているか、
ということです。
これはすごく単純なことで、
販売店を例に挙げてお話すると、
私は、販売店というものは
販売する商品のマージン分の価値を
お客様に還元する必要があると考えています。
糸井 うんうん。
原田 もし還元できていないのなら、
そのマージンは不要なコストなんです。
言わば、無駄です。
かつてアップルの社長をやっていたときに
大規模な販売店のリストラをやったんですが、
それはこの考えからの行動でした。
顧客価値を生み出さない部分はすべてカットし、
お客様に還元できる部分に使ったんです。
糸井 なるほど。
それはどういうところに使ったんですか?
原田 顧客サポートの充実や
店舗の説明要員の増員なんかですね。
もちろん商品開発にも使いました。
糸井 たしかにそれはダイレクトに
お客さんに返ってくる使いかたですよね。
原田 えぇ。
糸井 その話を聞いていて思い出しました。
昔、アップル時代の原田さんと話していたときに
誰も見ていないような看板にたいして
高額なお金を使っていることに怒っていて、
「僕に考えがある」って言ったんです。
原田 (笑)。
糸井 そのとき僕はどうするのかを
教えてもらえませんでした。
で、そのあとしばらくしてから
アップルストア銀座店※1が建ったんです。
「あぁ、このことだったんだ」と思いましたね。

※1 2003年に開店した日本初のアップル直営店。
銀座という一等地にあり、建物の外観に掲げられた
巨大なアップルマークはとても人目を惹く。

原田 ちなみにそのあとアップルを退社するんですが、
アップルストアと東京大学のコンピュータを
すべてMacに替えた※2のが
私の置き土産みたいなものでしたね。

※2 2004年、東京大学は
約3万人が使用する情報教育システムの
標準情報端末をすべてMacに変更した。

糸井 銀座の一等地に看板よりも大きい看板として
存在してますよね。
あれはお金の使いかたの
いい見本のひとつだと思うなぁ。
原田 やっぱりお金は賢く使わないといけないんです。
そのときに絶対に忘れちゃいけないのが
「価値に対しての対価を得る」ということ。
それは会社としての認識だけでなく、
社員個人の認識でもそこを思って欲しいんです。
糸井 うんうん。
社員は会社に貢献し、
会社はお客さんに貢献するということですね。
原田 そこに貢献できない社員は
給料をもらっちゃいけないと思っています。
だから私は全部成果主義にしてるんです。
人以上によくやった人は大きくリターンを返します。
糸井 あ、加点主義なんだ。
原田 えぇ。減点主義じゃなく加点主義です。
結果が出せる人は
評価に値するわけですから出世できる。
なので、成果主義の導入とともに
年功序列を廃止しました。

で、年功序列を廃止するのに
定年があるのはおかしいと思って
定年も廃止したんです。
糸井 そういう大事なことを
いっぺんにやったわけですね。
原田 そうですそうです。ほかにも、
たとえば一度部長になった人間が
あまりいい働きができなかった場合、
課長からやり直して、もう一度チャレンジする、
みたいなシステムも作りました。
糸井 へぇ。
原田 ようは適材適所だと思います。
駄目だった人は、
その人が輝ける場所を見つけるまで
チャンスを与え続けてあげる。

定年に関して言えば、
会社が培った人材の財産を
全部捨てるようなものですから
とんでもない話なんですよ。
糸井 それってマクドナルドのアイデアなんですか、
それとも原田さんのアイデア?
原田 これは私ですね。
糸井 ということは世界のマクドナルドが
そういうことをしているわけではない?
原田 そうです。
マクドナルド本社にだって定年があります。
糸井 それはちょっとした発明ですよね。
いや、大発明かも。
原田 その自負はありますよ。
日本の上場企業で定年制度を廃止したのは
うちだけでしょうね。
糸井 成果主義の導入、年功序列の廃止、
そして定年の廃止。
その3つがちゃんとリンクしてる。
すごいなぁ。
原田 やっぱり矛盾がないことを
突き詰めてやる必要があるんです。
どこかでもっともらしいことを言ってごまかすと
すぐに歪みが生じるわけですから。
糸井 うんうん、すごくよくわかります。
原田 ただ、上場企業でそういうことをやったもんだから、
マスコミもいろいろ言ってくるんです。
「変な従業員がずっと居座ったらどうします?」
なんてことを聞いてきたりとか。
糸井 (笑)。
原田 でも私はその質問に対して
「いや、あなたは経営をわかっていない。
 これは、変な従業員をどうしようか、
 なんていうことが悩みではなく、
 どうやって優秀な従業員を育てるかが
 一番の悩みなんだ」と答えたんです。
糸井 なるほどねぇー。
原田 事実、優秀な従業員を育成していくと
変な従業員は自然淘汰されていくんですよ。
糸井 いやぁ、原田さんらしい。

(つづきます)

2010-08-24-TUE

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