糸井 |
生産についてのクリエイティブっていうのは、
どんどん発達したんですね。
つまり、肉の獲り方については、
弓矢が発明されて、
組織的な動きが発明されて、
貯蓄が発明され、流通が発明され、
全部、できたんですけど、
消費と贈与のクリエイティブっていうのは、
結局、後回しになった。
つまり、エネルギーが足りない時代、
少ない生産者で、全員の食料ぐらいは
確保できるっていう時代に、
脳もふくめ、人体って、できてるんで、
冷蔵庫作っても倉庫に眠ってるような、
過剰生産の時代っていうのが
来ると思ってなかった。
だから消費のアイディアっていうのは、
いままで芸術以外では、
なかったんだと思うんですよ。
休み方っていうのも、
レジャーで稼ぐ人の
生産のクリエイティブとして発明された。
お金の使い方もおなじ、
寄付の仕方もおなじっていうことで、
消費をクリエイティブするっていうことは、
やっぱり、まだはじまったばっかりなんです。
中世からあとのルネッサンスの時期でも、
大金持ちたちが、何したかとか、
あの辺は、ちょっと歴史が3、4代続くと
クリエイティブするじゃないですか。 |
|
ルディー |
うん。 |
糸井 |
いい絵描きがいたから連れてきたんだよとか、
みたいなことって、偶然だったり、
犬も歩けば棒に当たるみたいなことの蓄積で、
金持ってる人の態度としては、
かっこいいなぁっていう拍手があったり、
芸が磨かれていくように、
消費のクリエイティブっていうのも、
ちょっと続くと磨かれてくるんじゃないかな。
IT長者の人たちは、
一代限りどころじゃなくて、
数年でなっちゃうから、そっちは磨けない。 |
ルディー |
うんうん。 |
糸井 |
結局マンション買って、
女の子にモテて、
フェラーリ買っておしまい。
だから、絵が凡庸なんですね。
歴史見ても、天国の図っていうのは、
あんまりいい絵がないんです。
で、地獄絵図については、
ものすごいクリエイティブがあるわけで、
やっぱり、歴史がそっちの、
アートに現れてる資産を、
貧しい側から、いっぱい時間をかけてきたから、
ここから先、飯がいき渡るようになってからの
消費のクリエイティブっていうのが、
たぶん、仕事になるんだろうなぁと
思ってるんですね。 |
ルディー |
うん、うん。 |
糸井 |
昔は、貴族が先にやって
それを庶民が真似してっていう。
いま貴族っていないんで、
それは貴族と千利休が
一緒になって考えるんだろうなぁと
思ってるんですけどね。
寄付の仕方だってアイディアありますからね。 |
ルディー |
はい。そうですよね。 |
|
糸井 |
シルク・ドゥ・ソレイユの寄付は
50人のチームがいるらしいんですよ。 |
ルディー |
そうなんですか! |
糸井 |
もともと大道芸から生まれたサーカスだから、
儲かっちゃって寄付するにしても、
どういうふうにしたら、いちばんよろこばれて、
自分たちのお金が、役に立つ消費ができるか、
贈与ができるかっていうのを、
本気で研究している。
そういうことがそろそろ、
行われてきてるみたいですね。 |
ルディー |
日本は、ほんとについ最近まで、
わりと、ある程度公平って、
みんなが思ってた社会なので、
格差社会っていうのは、
これからだと思うんですよね。 |
|
糸井 |
うんうん。
コレステロールが余ってしょうがない、
って言うようになって、30年。
30年って、知ってるよ、オレそのときのこと、
っていうくらい最近なんですね。
そこまでは痩せてたわけで。 |
ルディー |
そうですよね。 |
糸井 |
早い話が全部過栄養になってるわけでしょ。
その短い歴史の中で、
使い方だとか、無理ですよね。
そこをなんか、「そっちのほうが
かっこいいなぁ」っていうと、
いまの人たちって、貴族にならなくても
すっとそっち行っちゃうことができる。
その意味では、ぼくらのやることを
おもしろがって見てもらえてるのは、
その辺の人たちが、こう、
支えてくれてるんじゃないかなぁと思ってて。
だからルディーさんの本が売れてなくて、
なんでぼくががっかりしたかっていうと、
オレのやってることは、
やっぱり少ない人数かっていう、
その寂しさがあったんです。
でも、なんだろう。
こんなにちがう道なのに、
おんなじような興味を持ってる人が
消費のクリエイティブって言葉を軸に
集まれてるんだから、
なんかこう、あるんでしょうね。
時代的にね。 |
|
ルディー |
ほんとにおっしゃる通りだと思います。
これからどういうふうに
消費していくのかとか、
贈与っておっしゃいましたけど、
‥‥うーん。
お金。
とにかく、日本は、金融資産が
たくさんあるってことは、
貯めることとか、そういうことには
すごく一所懸命やって、
でも、結局そのまま置いてあるってことで、
どこに使っていったらいいか、
わかってないってことですよね。 |
糸井 |
男っていう性が持ってる、
性的なエネルギーっていうのは、
単純に言うと、精子2億個なんですよ。
そのまま円にすれば、2億円ですよね。
で、いつでもばら撒く用意があるんですよ。
なのに、受け入れてくれる、
消費させてくれるフィールドがないんですよ。
で、結婚しない男子だとか、モテたいだとか、
あれはつまり、使いたいっていう欲望ですよね。
で、男の性のやるせなさと
いまの消費社会の行き詰まり感って
そうとうぼくは似てると思うんですよ。 |
ルディー |
ああ、あると思います。
いますごく興味があるのが、
動物行動学者の
リチャード・ドーキンスが言ったように、
ほんとうに人間の脳っていうのは、
その人間が長生きして、
たくさん繁殖して子孫を残すように
プログラムされているわけで、
お金とか食べ物とか、
そういうことに関して報酬系は
今でもちゃんと活性化しているじゃないですか。 |
|
糸井 |
うんうん。 |
ルディー |
それがなぜか自分の子孫を残すというところになったら
ぜんぜん活力がなくなってしまったっていうのは、
なんなんだろうなって思います。 |
糸井 |
そこはねぇ、謎なんですよね。
国全体がね、そのことについてね
過剰な幻想を持ってた時代が長かったんですよね。
つまり、栄養というか、
脂身に象徴されるようなものを
わさわさみんなが奪いあっていた。
動物がそうですよね。 |
ルディー |
ええ。 |
糸井 |
脂身とか大好きですよね。
たぶん人間もそうだったんですけど、
例えば、これもう逸脱してるんですけど、
従軍慰安婦という発想がありましたよね。 |
ルディー |
ええ。 |
糸井 |
あるいは、いろんな
小説の世界の中の男たちは、
自分の性的な煩悩と、
ものすごく格闘してるんですね。 |
ルディー |
はい。 |
糸井 |
それは、おそらく作家の想像力が
そこまで働いてるからなんですけど、
社会的にもそうだ、
ってことが常識だから、描けるわけで。 |
ルディー |
うん。 |
糸井 |
で、そこを「オレは大丈夫よ」
って言ったら、解脱してるっていう、
もう神のような扱いになるわけですよ。 |
|
ルディー |
うんうん。 |
糸井 |
だけど、逆に言うと、いま若い男の子たちで、
二次元がどうだって言ってる子たちも含めて、
従軍慰安婦がなくても、ぼく平気ですよって、
絶対言うと思うんですよ。
で、果たしてぼくもそういうところに
疑いを持ってから、
自分が若いときに考えていた
過剰な性欲っていうのと戦ってるつもりだったけど、
あの戦いそのものが、
架空のドラゴンと戦ってたんじゃないか、
っていう、非常に文学的な
テーマになっちゃうんですけど、
その文学、書いてみたいぐらいなんです。 |
ルディー |
うん。 |
糸井 |
で、女性はそこ、先にもう
到達してるんですよ。
つまり、いまの女性って、
ほんとに尼さんですよね。
ほんとに男めんどくさいって言う人の数が
もう山のようですよね。
そうするとますます男たちは
ばら撒く場所がないっていう。 |
ルディー |
もしも女性にも
リチャード・ドーキンスが言ってるような
遺伝子が、脳にプログラムされてるんだったら、
自分の子孫を残そうって意欲が
なきゃいけないのに、
ないじゃないですか。 |
糸井 |
はい。 |
ルディー |
なぜ、そこの分野だけ、
活性度がなくなっちゃったのか、
っていうのは、ものすごい不思議ですね。 |
糸井 |
不思議ですねぇ。
それは、きっと、
説明できるんでしょうね、いずれ。 |
ルディー |
でも、そのとき
絶滅しちゃってるかもしれませんけど。 |
|
糸井 |
つまり、そういう悲しい話なのかもしれない。
(つづきます) |