── ほぼ日作品大賞は、
つくられた「作品」を評価するだけでなく、
それを欲しい人にきちんと届ける、
つまり「売る」というところまでを
フォローしようとしています。
そのあたりについて、どうお考えでしょうか。
大熊 ものを扱う仕事をしていて、
最近つくづく感じるんですが、
やっぱり「売れる」っていうことは、商品そして
つくり手への最大の評価なんですね。
格好をつけて、
「これはいいものなんだよ」
なんて言ったって、価値というのは相対的なものであるし
絶対的なものではないんですよ。
となると、商業的な価値観のなかでは
「売れる」ということが
唯一、価値の指針と言えると思うんです。
この、CKASKA/DOというお店は、
当初、クリエイターを支援するために
無償でスペースやインフラを提供する場所として
考えていたんです。
この場所を提供し、作り手を育て、
いっしょにものを開発していくという、
大きなプロデュースの仕組みを
つくろうとしていたんですね。
でも、考えれば考えるほど、そういう機関が
本当の意味で生産的には思えなくなってきた。
本当の意味で
作り手を支援したいと考えたなら、
むしろショップのような具体的な流通の場をつくって、
「商売」というダイナミズムの中に、
彼らのつくったものを
消費者の前にさらすのがいちばんいい。
そう思うようになったのです。
細井 よくわかります。
あの、「さらす」っていうことは、
木材が雨ざらしになることで
本来のよさや力が引き出されることと同じで、
鍛えられるんですよね。
たくさんの方に見てもらって、
たくさんの価値観で判断されると、
そのものの実力のなさとか、
想像以上の力があったとか、
そういうことがが見えてくるんです。
多くの販売員の目に触れ、
たくさんのお客さんの目に触れ、
その商品という窓の背景に
世の中があるかどうか、
それを知ることができるのは
ものをつくる人にとって、
ものすごい醍醐味だと思います。
あの、なんていいますか、
「売れる」って、すごいことですよ。
たとえ、100円のものでも、
それを買った瞬間、
その売場は、買い手にとって買場として
受け入れられることになるわけですから。
大熊 それは説得力のある話だなぁ。
DOにも300円の商品があるんですけど、
それを販売していると、ついつい、
「これを100個売ったとしても、3万円かあ…」
なんて思ってしまうときがあるんです。
だけど、お客さんは、色々な商品をみて
とりあえず手頃なものでも自分で選んで買うという行為が
とても楽しそうなんです。
そういう姿を目の当たりにすると、
お店というのは、
お客さんが買い物を楽しむ場なんだ
ということが明快に理解できる。
だから、いろんなバリエーションをもって、
お客さんにどういう風に喜んでもらうのか
ということを自然と考えるようになる。
やっぱり、お店という売り場は、
いろんな視点を持たなければいけない、
そう思います。
細井 ものというのは、誰かがつくるんです。
たとえ、それがアジアの工場でつくられていても、
まず、それをつくろうと思った人がいて、
それを運んだ人がいて、僕たちのように、
それを売っている人がいる。
それにまつわるあらゆる場面に人が介在していて、
それぞれの人の心が働いている。
なのに、最後の売るところで、
お客さんの心を無視した算段をすると、
お客さんって、スーッと消えるんですよ。
そういう意味でいうと、今は、
お客さんが、売場で迷っていますよね。
正しい値段がつけられてるのかどうか、
安いのか、高いのか、判断できずに
迷っているように思います。
なぜかというと、おそらく、過去に売場で、
喜んだことも、裏切られたこともあって、
売場の信用が不安定なんですよ。
その、喜んだり、裏切られたりということが
あまりにもぐるぐるしだすと、お客さんは、
「なくてもいいや」と思えてしまうんです。
街を歩いているときに、
偶然、心踊るモノに出会って、
「これはどうしても欲しい!」という
たかまった気持ちになることが、
今の世の中には減っている気がします。
みんな、豊かになっても、
いつ、どこで、なにを買ったらいいか、
わからなくなってきてしまっている。
そういう時代に、
「ほぼ日刊イトイ新聞」という場所で
「作品」というものを、
商品として売って人の手に届けるというのは、
オモシロイことだなぁ、すごいことだなぁと、
思うんですよね。
── そういっていただけて、うれしいです。
最後に、審査員として、
「ほぼ日作品大賞」にどんな作品が
集まってきてほしいと思っているか、
教えてください。
大熊 僕はその辺のお店ではなかなか
出会えないような掘り出し物を期待したい。
こんなところでこんなものを
つくっている人がいる、
そんな驚けるようなものに出会えたらと思っています。
だから、やっぱり、他薦制度があって、
「私ではないんだけど、ウチのおばあちゃんが、
 こんなにかわいい刺繍をしているの」
というのがあってもいいなぁとは思うんです。
細井 第1回は、第2回、第3回と
つづいていくであろう、この賞の
ひとつの基準になってしまうと思うんですね。
だから、
「こんなもの出していいのかしら?」
なんて思わないで、
どんどん応募してほしいですね。
いろんな条件に全部が全部
あてはまらなくてもいいと思うんです。
多少、ルールからはみ出すようなものでも、
ぜひエントリーしてほしいですね。
大熊 その辺りは、「ほぼ日」的な懐の深さを
見せてくれるでしょうし(笑)。
それに、審査員にも
柔軟性が要求されるはずですから、
僕らの責任は大きいですよね。
細井 きっとこの大賞を通して、
感性のストックが、
「ほぼ日」に蓄積されていく。
それで、「作品」だけの品揃えのお店ができて、
つくり手と社会との接点として
機能していったら、
ほんとうに素晴らしいですよね。
── ヒントになるような言葉を
たくさんいただけたと思います。
どうもありがとうございました!

2010-05-26-WED