大沢 でも、ずっと作家やってきて思うんだけど、
「小説」というのは
「これがなければ、人間は生きていけない」
という類のものじゃないでしょう。
糸井 まぁ、そうかもしれませんが‥‥。
大沢 そんなふうに思うことも、あるんですよ。
糸井 なりたくてしょうがなかった
「ハードボイルド作家」に、なれたのに?
大沢 ただ、たとえば無人島に飛行機が不時着しましたと。
糸井 うん。
大沢 医者や技術者や学者が乗客のなかにいたら
それぞれ重宝されるだろうけど、
「物書き」は何の役にも立たないわけです。
糸井 その場ではそうかもしれませんが‥‥。
大沢 そうなんですよ、「その場では」。

つまり、万が一、生きて戻ることができたら、
いちばん活躍できるのは、オレたちだとは思ってる。
糸井 なるほど。
大沢 いちばん活躍しなきゃなとも、思うわけです。
糸井 そのときの状況や、起こった出来事なんかを
逐一リアルに語ってくれるわけですよね。
大沢 タイヘンなときは役に立たなかったくせに‥‥
というか、役に立たないからこそね。
糸井 でも、そういう状況のなかで
「だれか、おもしろい話してくれよ」ってとき、
作家の話は「ごちそう」になりますよ。
大沢 まあ、そういう役の立ちかたは、あるか。

‥‥でも、いざそんな状況に置かれたら
「タダじゃイヤだね」とか
言っちゃいそうだけどね(笑)。
糸井 そう?(笑)
大沢 だったらメシ増やしてくれよとか(笑)。
まぁ、それは冗談にしても‥‥。
糸井 いや、やっぱり「物書き」で食っていこうと
決意してきた人だなって気がするなぁ、大沢さんは。
大沢 そうですか。
糸井 そう思う。
大沢 もちろん、卑下してるわけじゃないからね。

小説家という職業を卑下してないどころか
15のころから、
ずっとこの職業で食っていきたかったから。
糸井 ええ、ええ。
大沢 それも「ハードボイルド作家」ですよ。

それ以外の職業なんて考えられなかったし
実際、考えてこなかったんです。
糸井 それは、すごいことだと思う。
大沢 運が良かったなとも思いますよ、本当に。

15のころから、それだけを目指して
23で、その職業につくことができて‥‥。

デビューから数年はまったく食えなくて、
右往左往の時代が続いて。
糸井 でも、それで平気だったわけでしょう。
大沢 これがダメだったら生きててもしょうがない、
死ぬしかないとしか、思ってなかったです。

もうオール・オア・ナッシングの世界。
糸井 うん、うん。
大沢 ただ、それは「ハードボイルドな生きかた」を
しようとしてたわけじゃなくて。
糸井 充分「ハードボイルド」な気もしますが(笑)。
大沢 いや、オレは
「ハードボイルドに生きたかった」んじゃなく、
「ハードボイルド小説家」に、なりたかった。

本当に、なりたかったんです。
糸井 ‥‥いつまで、やるんですかね。
大沢 そこが問題ですよね。

なにせ「元作家」という肩書はないわけだから。
糸井 ないですね。
大沢 でも、ぜんぜん書いてないくせに
ああだらこうだらと理屈だけこねてる作家も
みっともないと思いますけど、
一方で、才能というのは必ず枯渇しますから。
糸井 うん。
大沢 オレなんかにしたって
もうガリガリガリガリと鍋底を削ってる状態。
糸井 そんなことないでしょう。
大沢 ま、そういう状態であっても
まだ「書いてる」うちは
偉そうなことも言ってられるんですよ。

本当に才能が「底」をついて
何も出てこなくなったとき、
「まだ作家だ」とは
オレには、言えないだろうなと思ってます。
糸井 そうですか。
大沢 かっこわるいですからね。

オレが「書いてるやつしか認めない」から
書けなくなったら、認められなくていい。
糸井 そうか‥‥元作家って肩書はないのか。
大沢 ないですね。
糸井 そうだよなぁ。
大沢 退職金が10億円ぐらい出ればいいんだけど。
糸井 それは、出なそうですよね(笑)。
大沢 でも、仕事をやんなくなったら、
今より金を使いたくなるの、見えてるんです。
糸井 そりゃそうだ(笑)。
大沢 そう考えると、ヤバイんですよ‥‥。
糸井 ほんと切実そうに言いますね(笑)。
大沢 だって、仕事がないっていうんだったら、
そりゃあもう、
今日はゴルフだ、明日は釣りだ、
あさってはおネェちゃんだ‥‥って、
もう毎日のように、出まくるでしょうよ。
糸井 はい、はい(笑)。
大沢 で、
「ああ、今日は久しぶりに家にいるぞ、
 うれしいな、どうしよっかなあ、
 そうだ、本でも読むか!」

‥‥そんな感じになっちゃいそうで。

あとは「バイオハザード」やり倒すか。
糸井 あ、ゲームやるんですか?
大沢 「バイオハザード」の新しいのとか出ると、
3日ぐらいは仕事一切しないで
ズブズブにやってますね。
糸井 へぇー。
大沢 楽しいですよ。
糸井 いや、大沢さん、つねに本気で言ってるから‥‥
「そうですね」って頷くしかないわ(笑)。
大沢 おネェちゃん全員のまえで
デモプレーするんですよ。で、クリアすると。
糸井 その部分はほとんど「小学生」ですね(笑)。

<つづきます!>


真実その8
ゴルフ、釣り、珍味、鉱石ラジオ‥‥
大沢さんの「玄人はだし」の趣味目録


大沢さんの「趣味」については、
その「多種多様さ」もさることながら
ほとんどが
プロもはだしで逃げ出すほどの腕前だという。

まず、本業で「ペンダコ」はできていないのに
「ゴルフダコ」はできているという
「ゴルフ」については「シングルの腕前」。
明らかに趣味のレベルを超えていると言えるだろう。

また「釣り」が大好きなことでも有名で、
釣った獲物を自らさばき、
20人分くらいの料理を一気に作ってしまうとか。
「いつでも民宿をやれる」という
大沢さんの発言を、複数の関係者が耳にしている。

また、光文社の2代目サメ担当T氏は
少年のように「鉱石ラジオ」をつくる大沢さんを
目撃したことがあるらしい。
とことんまで追求する大沢さんのことだから、
当然、みごとに音が鳴ったはずである。

全国各地の「露天市場めぐり」も極めており、
「珍味」等にもかなり造詣が深い。
高知県に行ったとき、
「2ヶ月に1度しか立たない市」にたまたま当たり、
光文社の初代サメ担当W氏が
さっそく知らせると
「あ、あれは、もう行ったことあるから」との返答。
W氏は「どんだけ好きなんだ」と感じたという。

さらに、この対談でも「趣味」と言っていた
「美脚」については、
ご自身のホームページはじめ、
あらゆるところで公言し、ご家族もご存知とのこと。
こちらの件については、
明日更新の最終回でも語っておられるので、
ぜひ、お読みいただきたい。

なお、趣味とはちがうのだが、
なぜか「天気図」にやたらとくわしく、
話しだすと止まらないという。
そのため、
テレビをほとんど見ないことで有名な大沢さんだが
19時前の天気予報は、じっくり見ているのだ。

真実のコラムは、最終回へと続く‥‥。

2010-02-17-WED