糸井 じゃあ‥‥いつごろからやりましょうか?
大沢 いつにしましょう。
糸井 今のところ、タイトルもないわけですが。
大沢 ‥‥どころか、肝心の中身についても
ほとんど決まってないです。
糸井 ぼくらとしては、いつでもいいですけど。
大沢 ネットの世界って「なければない」からね。
糸井 そうです。
大沢 「ステージ」があるわけじゃないから。
糸井 つまり「紙幅を割いている」わけじゃない。
大沢 コンテンツが生まれた時点で、ステージが生まれる‥‥。
糸井 「思えば、この対談がすべてだった」。
大沢 幻のコンテンツ。
糸井 ‥‥やっぱり「書かない」方向ですか?(笑)
大沢 いやいや、さすがにそれはないですけど‥‥(笑)。

ま、タイトルとかはまだないんですが、
ちょっと考えてる「悪役」のイメージはあります。
糸井 おお。
大沢 そいつを「どう鮫島と絡ませるか」‥‥とかは
まったくもって、これからなんですけど。
糸井 楽しみに、お待ちしてます。
大沢 あとひとつ、いまの『新宿鮫』には
「絶対に片付けとかなきゃならないこと」が
あるんです。
糸井 ほう、懸案事項。
大沢 次の『新宿鮫』では、それをやります。
糸井 大沢さんにしか、わからない話になってきた(笑)。
大沢 いや、それはね「既定路線」なんですよ。

前作でやろうと思ってたことなんですけど‥‥
ちょっとページ数が足りなかったんです。

まぁ、お楽しみに、ということで。
糸井 こんなこと聞くのもどうかと思うんですが、
「出ない!」というのは、あるんですか?
大沢 それは、ないですね。何とかします。仕事なんで。
糸井 ときどき社会人みたいなことを言う(笑)。
大沢 ぼくはれっきとした社会人ですよ!
糸井 でも「やめたい、遊びたい」わけですよね?
大沢 毎日、マジメに仕事してるから、
やめたいし、遊びたいんです。
糸井 重心はどっちにかかってるんですか。
大沢 そりゃ‥‥遊びに決まってますけど。
糸井 ああ、また小学生だ(笑)。
大沢 ‥‥あの、宮部(みゆき)さんがね、
オレや北方(謙三)さんのことを
「心に半ズボンをはいてる」って言うんです。
糸井 ああ、そんな感じします。
大沢 で、「右手には網を持ってる」って。
糸井 虫取り網。
大沢 うん、その網で
「美脚と巨乳を捕まえる」んだって。
糸井 またそっちの話ですか(笑)。
大沢 そうそう、北方さんが巨乳好きってのは、
オフレコなんですけどね。
糸井 いまさら遅いですよ(笑)。
大沢 ぼくの「趣味:美脚」というのは
ホームページにも堂々と載せてますし、
ファンも知ってますし、
家族も知ってますからオッケーです。
糸井 じゃあ、そこは太字で強調しておきます(笑)。
大沢 ‥‥でもね、北方さんのあの顔と雰囲気で
銀座のクラブで
巨乳の女の子の胸に「ウゥー」とかやって
「かわいい、ケンちゃん」なんて
言われてるのを見ると‥‥。

つくづく、うらやましいなあと思いますね。
糸井 そうですか。
大沢 あれをやれちゃうのが「北方謙三」だし、
しかも、それを「かわいい」と
リアクションしてもらえるキャラクター。

実際、見てて「かわいい」わけですよ、
北方さんって。

オレ、あれ、できないんだよなぁ‥‥。
糸井 うーん‥‥こういう人たちだからこそ
書ける物語があるんでしょうね。
大沢 それはわからないけど。
糸井 すごいわ、ハードボイルド作家って。
大沢 だから、オレと北方さんだけ見てちゃダメだって。
糸井 そうだった、つい(笑)。
大沢 でも、こんな「おネェちゃんの話」ばっかりで、
大丈夫だったんですか、今日は。
糸井 いや、そっちのお話以外にも、
いくつか、いい話があったと思いますが(笑)。
大沢 なんか、自分でゲート閉めちゃった気がするな。

「新宿鮫って、なんなのよ!」とか
「あんな下品な大沢なんて、冗談じゃない!」

‥‥みたいな人が増えちゃったりして。
糸井 いや、逆に、この対談を読んでもらえたら
ぜんぶオッケーになっちゃうと思います。
大沢 そうですかね。
糸井 「大沢さんってヘンな人なんですね、ウェルカム!」
‥‥というのが、たぶん、最高の答えでしょう。
大沢 そうなの?
糸井 逆にぼくらは「大沢在昌」という有名作家を
「ヘンな人」扱いしなければダメでしょうね。

素晴らしい王子様が来たわけじゃなし‥‥と。
大沢 そんなふうに思われてないよ、どう考えたって(笑)。
糸井 いや、今日は、どうもありがとうございました。

連載のほうは、もう好きなようにしてください(笑)。
大沢 ほんと? ありがとうございました(笑)。
この対談から時を経ること1年と2カ月‥‥。

いよいよ明日2月19日(金)より
大沢在昌の『新宿鮫』シリーズ最新作
『絆回廊 新宿鮫X』がスタートします。

どうぞ、おたのしみに!

<終わります>


真実その9
15歳の大沢少年が書いた
直木賞作家・生島治郎氏への手紙のこと


第57回直木賞を受賞した『追いつめる』をはじめ、
『傷痕の街』『片翼だけの天使』など、
日本のハードボイルド小説の基礎を築いた、生島治郎氏。

まだ15歳、作家を夢見る中学生だった大沢さんは、
この生島氏へ宛てて、一通の手紙を書いている。

憧れの作家へのファンレターであると同時に、
その手紙には、
小説における「人称の問題」についての
大沢少年の考えかたと、
生島氏への質問とが、つづられていたという。

「わたしは」で書くか、「彼は」で書くか‥‥。

この大沢少年の問いかけに対し、
当時、すでに売れっ子作家だった生島氏は
「わたしならこう思う」と
ていねいな返事を、送り返したのだという。

少年は、その手紙を、何より大切にとっておいた。

ときは経ち、小説家を夢見る少年は
「ハードボイルド作家・大沢在昌」となり、
生島氏と、良き「師弟関係」を結ぶようになった。

生島氏も理事長をつとめた「推理作家協会」で
さまざまな仕事をするようになったし、
『新宿鮫』シリーズで
一躍、ベストセラー作家の仲間入りを果たした。

そして、生島氏とおなじ直木賞も受賞した。

ただ、かつて中学生だった自分が送り、
ていねいな返信をもらった手紙の件を話しても
生島氏は
「そんな返事は出した覚えがない」の一点張り。
その事実については、
なぜか、いっさい認めることはなかったという。

その後も、ふたりのあいだの良き関係は続いた。
生島氏が亡くなったときには、
大沢さんは、葬儀委員長をつとめてもいる。

そして、あの手紙のことだけが、残った。

ハードボイルド作家を夢見た少年の手紙は、
当時の流行作家のもとへ、
本当に、とどいていたのだろうか‥‥?

‥‥後日、生島氏の遺品のなかから
中学生から届いた古い手紙が一枚、見つかったという。

真実のコラムも、これにて終了‥‥。

2010-02-18-THU